第29話 成敗

 てめえ等、覚悟しろよ。俺は久々にブチ切れたぞ。

「セツナ、離れて皆を守っててくれ。俺はこいつ等をブッ飛ばさないと気が済まん」

「はい」

 俺の言葉を聞いて、セツナが皆を連れて、この場を離れていく。

「ミリアも離れてろ」

「ブッ飛ばす」


 ミリアも頭にきているらしい。

「じゃあ、一緒にやるか。一応殺さない様に手加減はしろよ。生きてればセツナが治してくれるから」

「ん。ぎりぎり殺さない」

 では、そろそろ殺るか。


「てめえら、俺の大事なミリアをバカにしてくれたな。ボコボコにしてやるから、まとめてかかってきやがれ」

「本気で言ってるだか。殺すだで」

 俺の言葉に巨人がキレる。

「ごたごた言わずに、かかって来いや。くらえ、コラ」

 目の前の男の腹を殴り飛ばす。人間相手だとものすごく手加減しないと死んでしまうが、こいつ等なら半分くらい出してもデカイから大丈夫だろう。

 手に骨を砕いた感触が伝わってくる。思ったより脆いな。ちゃんと鍛えているのか? 魔法で装甲を纏ってないミリアの方が硬いくらいだぞ。

 30%くらいにしておこう。死んでしまいそうだ。


「来ないんならこっちから行くぞ」

 いっこうにかかって来ないから、こちらから攻める。恐らく森の中でないと戦えないのだろう。

 森に入った瞬間5人の猿共が一斉に襲い掛かってきた。確かに気配は一切感じなかった。そして、連携は良くできている。しかし速さが足りない。

 最速の動きで前に出て正面の奴の顔を掴むと俺の立っていた場所に投げつける。襲ってきた5人がぶつかり合って失神したので、次の獲物に移る。

 あと何匹隠れているのかな。全員潰してやる。


 ミリアも土魔法を使い、強化装甲を纏っている。攻城兵器ミリアの本領発揮だ。

 襲い掛かってくる敵の一撃を体で受けとめ、何倍もの一撃で相手を打ち倒していく。岩の様に大きな巨猿共がボールの様に飛んでいく。

 本当に死んでいないのか不安になりながらも、俺も猿共をねじ伏せる。殴り飛ばし、蹴り飛ばす。

 サゴ君は漏らしながら泣き、震えていたので、見逃してあげたのだが、ミリアが容赦なく吹き飛ばしていた。


 ものの数分で巨大な猿共の山が築かれた。こんなにも隠れていたとは。軽く100匹は超えてるな。

 最初に殴り飛ばした猿の髪の毛を掴んで、引き摺りながらミリアも帰ってきた。


「口ほどでも無かったな」

「ん。うすのろ」

 いや、お前は攻撃を尽く受けてじゃないか。一撃も躱して無かったぞ。どっしりと大将の様に構えて、弾き返していた。


「おい、この子は貰っていくからな」

 返事は無い。只の屍の様だ。死んじゃったかな。こいつだけちょこっと強く殴ったからな。ごめんね。ムカついてたんだ。


 残念、生きてる様だ。まだ息がある。


「その子は連れて行っていいから、許しては貰えんだろうか?」

 俺が虫の息の男をどうしたものかと悩んでいると声をかける者がいた。相変わらずの巨体だが、髪の色が赤では無く白くなっている。


「儂はこの集落の前の長で、名をラグと申す。我が息子の非礼、詫びまする。お許しください。

 その男はそんなでも今の長でございます。殺すのだけはご勘弁ください。

 その娘は非礼の侘びとして献上いたします」

 そう言ってひれ伏してしまった。


 怯えているのか、それ以上は話が通じそうもない。


「ミリア、俺と来るか」

「始めからそのつもり」

「そうか。親に会わなくいいのか」

「いい。うるさい姉もいるし、親代わりは師匠がいる。それに今日からは夫」

「……じゃあ、帰るか」

 聞こえなかった振りをすることにした。

「今日から私が第二夫人」

「……」

 それは応相談でお願いします。


「皆、着いたばかりだけど、話は着いたから帰るぞ」

「今日から私が第二夫人」

「ミリア、何を言っているの? 第二夫人は私よ」

「セツナは親の許可ない。私の方が先。早いもの勝ち」

 ミリアとセツナが喧嘩を始めてしまった。二人がもめるのは新鮮だ。ライカとセツナはよく喧嘩をしているが、ミリアは基本的に我を通そうとしないから。

 それ故にここ迄引かないミリアは珍しい。

 しかし、俺が仲裁に入るとまたややこしい事になりそうなので無視する。


 二人を横目にアイシャの元へ。

「アイシャ、悪い。疲れていると思うけど、直ぐに帰る事になってしまった」

「ううん。いいのよ、あなた。格好良かったわ。特に『俺の大事なミリアに――』ってところが。ミリアちゃんの事、やっぱり好きなんじゃない!」

「あ、あれはな。その――そう、弟子としてとか娘として大事なという意味で……」


 ついカッとなって出てしまった本音だった。

 大事じゃない訳が無いのだ。もう7年以上も一緒にいる大事な弟子なのだから。

 とてもじゃ無いが、あんな酷い所に残しては行けない。


 だからといって、嫁にしたいかと言われれば、したい訳では無い。今のままの師匠と弟子の関係がベストなのだが――とてもそれを許してくれる雰囲気では無くなってきた。

 後どれくらい逃げられるだろうか。


「一気にお嫁さんが増えそうね。さっさとこの森を抜けて、セツナさんのお家に行きましょう」


 神よ。この状況を何とかしてください。


 俺は初めて神に祈るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る