第28話 巨猿の森
ミリアの生まれた部族が暮らす森は恐ろしく広大だった。しかも光が射さないため何日たったかも全く分からない。体感では10日くらいだと思われる。
レッドは虫に慣れたのか死んだ目をしている。無駄に絡んで来ないので静かで助かる。
2日目からはアイシャが辛そうだったので、ミリアの代わりにアイシャを抱いて運んでいる。レイ君はセツナが抱いてくれた。レイ君も嬉しそうに胸に顔を埋めている。その辺は俺に似たんだろうな。
セツナはずっと魔法を使っているが、まだまだ余裕がありそうだ。7年前に死にかけていた子供が立派になったものだ。
魔法文字の書き方も俺が現役の頃なんて比較にならないくらいスムーズだ。レイ君を抱いているので片手が塞がっているのに、全く意に介していない。
セツナのお蔭で俺は安心してアイシャとイチャつくことができる。
「師匠、暗いからって見えていないと思ったら間違い。私は暗くても見えてる」
ミリアは暗闇でも周りが見えるのか。7年も一緒にいるのに知らなかった。
「ということはお前が宿で覗いているときも、ばっちり見えてたわけだな」
からかってやるつもりで返してやった。
「そう。予習してる。ライカとセツナには負けない」
「ミリアちゃん、偉いわね。今度から覗かないでいいのよ。中で見て――何なら一緒にしましょ」
「ん。次からそうする」
「……」
やぶへびになってしまった様だ。慣れないことはするものじゃないな。
アイシャはそれでいいのか。なんか子供を生んでから大胆になったというか、何というか……。
それにしても、ミリアの親は何処に住んでるんだろうな。かなり奥の方まで来たと思うのだが、いっこうに獣人達には出会わない。
「ミリア、何か感じないのか?」
「ん。向こうにいっぱい、何かいる」
ミリアが前方を指す。方向は合っていた様だ。あと少しだな。
「おいミリア、まだなのか?」
あれから既に3日ほどは経っている。
レッドは虫を捕まえて遊びだした。壊れかけている。大丈夫だろうか。
「ん。こっちで合ってる」
変わらず前方を指す。
「どれくらいかかりそうだ。」
「3日くらい?」
一体この森は、どれだけ広いのだろうか?
やっと着いた。あれから4日ほど森を彷徨って、ついにたどり着いた。
ミリアをさらった奴は相当根気強い奴だな。こんな暗い森の中を20日以上彷徨って、往復すると40日以上も。
今から帰ることを考えるとゾッとするな。
久々の太陽の光。気持ちがいい。やはり人は陽の光を浴びないと生きていけないんだと理解できる。
森を黙々と歩いていると前方に眩しい光が見えてきた。俺達は無言で駆け出した。皆、暗い森の中に辟易していたのだろう。砂漠でオアシスを見つけたくらい、嬉しかったのだ。
「お前さん達、何の用だで」
俺たちが日光浴を楽しんでいると、一人の男が声をかけてきた。
で、でかい。俺も普通の人と比べたら大きい方だが、この男は異常なほどでかい。俺の2倍くらいの大きさだ。
それに、いくら油断していたからといって、近づいて来たことに誰も気がついていなかった。何だこの巨人。
それに姿は見えないけど囲まれている?
俺達が警戒態勢をとると、巨人が忠告してくる。
「お前さん方、ここまで来れるのだから、それなりにできるのだろうが、止めた方がええで。この森の中で我々に勝てる者なんぞ、おらんでな」
大した自信だな。これだけの巨漢であれば、さもありなん。
「待ってくれ、俺はアルバートという者だ。この森から十数年前にさらわれた女の子を送り届けに来たんだ。別に争いに来たわけじゃない。誰かこの子の里を知らないか?」
先程話しかけてきた巨人がミリアに目を向ける。
「ほうほう。この子は確かにうちの集落の子だな。赤い髪と耳、尻尾。オラと同じだで」
巨人がそう言うと、周りを囲んでいた者達の警戒が薄まった様に感じた。
マジか。この巨人、ミリアと同じ猿の獣人だったのか。だったら――
「この子の親は分からないか?」
「それは多分無理だで。この集落では1年に千人以上生まれて半分以上が死ぬだで。この子が何処の家の子かなんて、調べようが無いだで。」
「そんな、それじゃあ、ミリアは親に会えないのか。一目だけでも会わせてあげたくてここまで連れて来たんだ。何とかならないのか?」
ミリアは親の顔を知らないんだぞ。
「そんな事言われても無理なもんは無理だで。一家族でだいたい30人は子供が生まれるだで。一人くらい居なくなっても全く気にせんだで。現にオラの子も10人以上死んだでな」
そんな。ひどすぎる。もっと自分たちの子供大切にしろよ。
「おーい。サゴ、ちょっと来んさい」
サゴ? 誰だ。
「なんだい、父ちゃん」
「お前さん、この子はオラの子でサゴ。今年で8歳だ。このとおり、立派な体格だで。それに比べてこの子は何とも貧弱だでな。こんな子供要るっていう家はないだで」
なんだと、ミリアを貧弱って言ったのか? 要らない子だと言ったのか?
「だったら、この子は俺が貰ってもいいんだな。返せと言われても返さんぞ」
「いいだ、いいだ。森の外で育った、そんなちんまい子供、居るだけ邪魔だで。この森では生きていけんし、子供も産めそうにない。オラの集落にはいらんだで、好きにすればいいだ」
許せん。こいつらはミリアの事を何だと思ってやがる。俺は久々にブチ切れたぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます