第27話 荒野
獣人の国って何にも無いのな。
この一か月旅をしてそう思った。まず、街がない。あっても村程度だった。弱肉強食の国らしく、一番強い者が村長の様に村を仕切っていた。村長が好き放題しているから、村も発展しない。村が発展しないから、どんどん村人が出て行く。出て行った村人が別の所で村を作る。そして最初に戻る。完璧な負のスパイラルだ。村が発展するはずがない。
寄った村全てで女を寄越せと村長が絡んできたので返り討ちにしてしまった。
第一村人発見、狼の獣人だった。
「お前、いい女連れてるな。その鳥、俺に寄越せよ」
セツナがグーパンで顔面を陥没させた。
第二村人発見、熊の獣人だった。
「お前、いい女連れてるな。その猿、俺に寄越せよ」
ミリアが股間に蹴りを入れていた。死んだな。
第三村人発見、虎の獣人だった。
「お前、いいケツしてるな。今晩俺に家に泊まらないか」
俺は直ちに逃げ出した。
獣人たち頭がおかしい奴らしかいない。ライカ達は獣人の仲では以外にもまともなのかもしれない。
こうも脳筋ばかりだと寄り道するのも面倒になり、村が見えても寄らない様になってしまった。
それに馬車の中の方が快適だ。原理は分からないけど、中に居ると全く揺れないし、気温も適温だ。ただ暇だというだけだ。それに馬車と言ったが、正確には馬車ではない。
なぜなら、俺が引いているからだ。あまりにも退屈すぎて、俺が引くことにした。その方が早い。
それに馬車の中には飢えた猛獣がいるので近づきたくない。セツナに食われてしまう。
「なあ、レッド。俺はどうすればいいんだ」
いまや、レッドを相談相手にしている。既に末期と言えるだろう。こいつに相談したら悪い方にしかいかない。
「普通に皆さんと結婚されれば宜しいと思いますよ。別に重婚が禁止されている訳ではありませんし」
「俺はアイシャしか愛していないんだ」
「でも、3人のお嬢様方を大切にされてますよね。それでよいではありませんか。愛はそのうち後から付いてくるものですよ」
レッドの癖に良いことを言うな。今愛していなくても、これから愛せばいいのだろうか。
あれ、重婚って禁止されてなかったか?
「重婚って禁止じゃなかったか?」
「あんなのあの国だけですよ。それにアル様は人間じゃないので関係ありません。さっさとやる事やってください。私達はそれを楽しみにしてるんですから」
たちってお前以外に誰がいるんだ。
確かに、俺は人間じゃないけども。確かにそうだけども。俺は心は人間でいたいんだよ。
こっちは本気で悩んでるのに。こいつは楽しんでいやがる。
「アル様、見えてきました。あの森です。アル号は早いですね。二か月の距離を半分の時間で走破しましたね。そんなに早く結婚したかったんですね」
ゆっくり行くつもりが、あまりにも退屈だったからついつい飛ばしてしまった。
ここか。この森の中にミリアの家族がいるのか。どんな人たちだろうか。これまで出会った奴らみたいだったら、どうしたものか。ブッ飛ばしてしまうかもしれない。
それにしてもデカい木だな。これ、俺が本気で殴っても倒れないんじゃないか。
ミリアの生まれた森に生える木は一本一本が小さな村くらいの太さがあり、高さは本気でジャンプしても上まで届かないだろと思わせる様な大きさだった。
これ一本で家が何件建つだろう。
ここからは歩きになる。アイシャには馬車に残るように言ったけど、無駄だった。レイ君を抱いてついて来た。
俺が意地でも傷つけさせないけどな。
この森はいろいろとおかしい。出てくる敵やら虫やらがとにかく大きい。幸い寒さに弱い奴らが多いのでセツナの魔法でことごとく凍らせて対応できている。
しかし、量が多い。俺が紅丸を松明代わりにしているせいか、虫がとにかく寄ってくる。
虫が出てくるたびに悲鳴があがる。誰が苦手なのかと思っていると、レッドだった。ひゃあひゃあ言いながら、逃げ回っている。
それにしても早い。今の成長したライカと比べても遜色ない。これがレッドの本気の速さか。S級冒険者も真っ青だな。
女性陣は虫は平気なのか、談笑しながら歩いている。よくこんな暗い中でおしゃべりしながら歩けるものだ。セツナなんて、しゃべりながら、魔法使っている。
ちなみに俺は松明という名の紅丸を掲げているだけだ。
「師匠、眠い。おんぶして」
ミリア、お前は子供か。と言いつつもおんぶしてあげる俺。なぜかミリアのお願いは断れない。
レッドに紅丸を渡す。虫が寄って来るので、嫌な顔をされたが押し付けた。
ミリアをおぶって歩いていると二年前の王都への往路を思い出す。大きくなったな。あの時は俺の胸くらいまでしか身長が無かったのに。
丁度いい機会なので、ミリアに聞いてみた。
「なあ、ミリア。お前本当に俺と結婚したいのか?」
「ん。そう」
「なんでだ?」
「師匠の背中、安心できる。それにたくさん助けてくれた。ご飯もくれた。それだけで十分。私の居場所はこの森には無い。師匠の側だけ」
「そうか」
俺にはそれだけしか、返す言葉が見つからなかった。
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