4章 獣人の国

第25話 やっちまった

「あなた、見えてきたわよ。あの国境を越えれば、獣人さん達の国ね」


 拝啓 ラングリッド様、お元気にお過ごしでしょうか。私たちが王都を出て2年が経ちました。こちらは元気でやっております。

 少々、元気すぎて困っております。

 

 俺の息子が……。



 息子って言っても下の方じゃないぞ。本当の息子です。1年前に生まれました。貴方はいつの間にかおじいちゃんですよ。


 下の方が元気だから出来たという事もある。我慢できませんでした。ごめんなさい。でも、いいですよね。孫の顔を見せに帰って来いって言ってましたよね。



 旅が始まった当初、ライカ達が俺とアイシャの仲を邪魔をしてくると思っていた。

 しかし邪魔して来なかったのだ。寧ろ積極的に夜番を代わってくれたり、宿の部屋割りを俺とアイシャの二人部屋にしてくれた。

 原因は多分あれだ。旅立ち初日の夜に女性たち4人でお話合いがなされた。多分、このお話合いで何らかがあったんだろう。

 翌日からアイシャは奥様呼ばれるようになった。最近では俺よりもアイシャの言う事をよく聞いている。俺の言う事はほとんど聞かない。

 どんなお話し合いがあったのか。未だに謎である。


 そして、邪魔者がいなくなった結果、俺はアイシャの魅力にあがらう事は出来ず、あっさりと陥落してしまった。

 毎朝、レッドにからかわれる事が分かっていても止められなかった。

 5年間邪魔され続けて溜まった俺のリビドーは止められなかったのだ。


 ちなみにアイシャと俺は旅に出て最初の街で結婚した。これも邪魔して来ると思って身構えていたというのに、何も無かったのだ。正直、何も無かったので逆に怖かったくらいだ。

 結婚と言っても教会で寄付をして神父にお言葉を頂くだけだ。何かが変わるわけでは無いのだが、二人の絆が強くなった気がする。



「師匠、先に国境に行って、防衛隊をブッ飛ばしてきますね」

「止めろ」

「そうよ、ライカ。そんなことしたら駄目よ。金品を貢がせて身ぐるみ剥いできましょう」

「止めて」

「師匠、あの要塞壊していい?」

「止めてください」


 ライカ達3人はこの旅で大きく成長した――はずだ。

 ライカは俺の後を付いてくるだけだったのだが、今では俺を振り回して困らせる様になった。

 セツナは妖艶さが増し、周りの男共を歩くだけで魅了する。俺への周りの殺意が増し、絡まれる事が増えた。

 一番小さかったミリアは身長が伸び、ライカより少し低いがセツナと同じくらいになった。顔つきも大人びてきて、可愛いから綺麗になった。しかし胸部は余り成長していない。本人も気にしている様だ。ライカ、少し分けてやってくれ。

 最近、性への関心が出て来たのか、俺とアイシャの寝室をよく覗いてくる。勘弁して欲しい。


 不味い。3人とも困った方に成長している。2年前ですら手がつけられなかったのに、俺にはもう止められない気がする。

 親御さん方、育て方を間違えました。すみません。


 グランスバルト王国を出て、これまでに3カ国を通って来たが、どの国でもこいつ等のせいでトラブル続きだった。

 ある国では求婚してきた王子を殴り飛ばして追われたり。

 またある国では、ダンジョンの最下層でドラゴンの大群と戦うことになったり。

 この国では武闘大会でミリアが無双して怪我人と弟子入り希望者が殺到したり。

 どの国もすんなりと通ることが出来なかった。

 最も、一番遅れた理由は俺がアイシャを孕ませてしまったせいなので、俺が一番悪い。改めて謝罪する。



「おい、レッド。お前がなんで俺の息子を抱いてるんだ。許可した覚えはないぞ」

「アル様、そんなこと言っても抱いていないと落ちますよ。アル様が抱きますか? アル様が抱くと泣いちゃうじゃないですか」


 ぐぬぬぬ。そうなのである。実に不愉快な事にレイナードことレイ君は何故か俺が抱くと泣き出すのだ。基本、男は嫌いな様だが何故かレッドだと泣かない。


 しかし、ここまでの旅では、レッドには助けられる事が多かった。以外にも有能すぎる男だった。使い辛い男でもあるのだが……。

 朝はしっかりとしたパンを出してくれる。パンだけで他は無かったが……。

 どの国に行っても宿は極上だった。滅茶苦茶高かったが……。

 文化にも詳しいし、要人の情報まで持っていた。聞かないと教えてくれなかったが……。

 やっぱり使い辛い奴だった。癖が強すぎる。


 パン屋の倅がどうやってそんな情報を仕入れれるのだろう。こいつの素性は未だに明らかにはなっていないが、今は敵対する様子もないので好きにさせている。

 謎の多い奴である。


 そして、レイ君。つい先日1歳になった。もう至る所を動き回るから大変だ。

 気がついたらライカ達を良く見ている気がする。特に風呂だ。

 ライカ達の誰かが風呂に入っている時に風呂に行こうとする。

 そして、夜はライカ達の誰かが一緒に寝ないと眠ろうとしない。特にライカの時は嬉しそうにしている。俺に似てしまったのだろう。大きい方が良いらしい。

 この間は寝言で「いせかいさいこー」と言っていた。我が子ながらよく分からん存在だ。

 極めつけは俺が抱くと泣き出す。何故だ!


 俺の子供なので、鬼神族として生まれるのかと危惧していたがそんな事は無かった。見た目も人間の様だし、力も普通の幼児と変わらない。心臓が二つある様子もない。

 俺だけが特殊だったのか。父さんが死んでしまった今、よく分からない。

 どっちにしろ、子供というのはかわいいものだ。特に自分の子供の場合は特に。皆でかわいがって育てている。

 冒頭にも言ったが元気すぎて困っているくらいだ。

 

 次に俺だ。2年前に鬼神族になってしまった訳だが、重大な事態に気がついてしまったのだ。なんとこの体、魔法が使えないのである。まさかの落とし穴だった。

 25年以上使っていた魔法が使えない事にショックを受けたが、何の問題も無かった。むしろ今の体のスペック高すぎて魔法なんか使えたら世界を滅ぼしかねないところだった。

 そのため、この2年は体と力の使い方について日々稽古を積んできた。手加減がやっとできる様になったのだ。

 ここまでに何回ライカ達の骨を砕いてしまったことか。その度に課せられる謝罪という名の交換条件。

 その内容は恥ずかしいのでとても口では語ることができない。

 今では絡んでくる野郎共を複雑骨折くらいで済むように手加減できる。凄まじい進歩だ。


 最後はアイシャだな。彼女は俺の奥さんになって、子供を産んだことで、ますますこのメンバーの中心人物の様になってきた。まさにチームリーダ。指示も出すし、叱りもする。皆の母親みたいだ。

 当然、俺とは仲良くやっている。昼も夜も。



 ただ、最近困ったことを言ってくる。


「あなた、ライカちゃん達とはいつ結婚するの?」

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