第24話 旅立ち
レッドのお蔭かどうかはおいておくとして、調べものをする必要も無くなったので、王都最後の一日は皆でゆっくりと過ごすことができた。
アイシャには手紙を書いて、ラングリッドへ渡した。
手紙には事の経緯と帰るまでに何年かかるか分からないこと。それでも必ず帰ること。待っていて欲しいということを記載して送った。
正直、待っていて欲しいと書くか迷った。だが、アイシャの幸せが俺としかないと言うのであれば、俺は、もう一つの腕を無くそうが、足を無くそうが必ず帰って来る。
最短でも数年はかかるだろう。待っていてくれるかな。
ワイズが請け負ってくれたセルカの宿の件もラングリッドに頼んでおいた。ワイズを100%信用するわけにはいかない。その点、ラングリッドは信用できる。じじいは俺を裏切ることはない。
王都での懸案事項は全て片付けた。あとは出発するだけだ。宿を出て、王都の正門前で集合の予定だ。レッドは先に行って馬車の準備をしてくれている。
俺の右横にはライカ、後ろにセツナとミリアが続く。俺たちの定位置だ。5年前からずっとこの配置だ。
この旅の中で徐々に減っていく事になる。最後に残るのは誰かな?
こいつ等には世話になった分、幸せになって欲しいと思う。きちんと親元まで連れて帰るから安心しろよ。
「師匠、あの馬車じゃないですか?」
まだ、朝の早い時間のため、正門前には1台しか馬車はない。恐らくあれが今回使用する馬車だろう。
しかし、立派すぎるだろ。王家のマークまで入っている。こんな目立つ馬車には乗りたくない。
「レッド、この馬車は何だ。派手すぎるだろ」
「大丈夫ですよ。こんなマークなんかこうして外してしまって、装飾品もいらないからとってしまえば、ほらこのとおりです。」
まあ、見た目は大分落ち着いたが、デカさがな。
「これを準備するの大変だったんですよ。王城に忍び込んで、王様用の最高級の馬車を拝借してまで準備したんですから。感謝して欲しいくらいです」
はい、やばいやつきましたー。出だしから最悪の事態だ。見つからないうちにさっさと出発してしまおう。
さて、もう一人の友好使節団員のお嬢さんは何処かな?
がちゃと馬車の扉が開く。
「ダーリン、来ちゃった」
「アイシャ!!」
どうしてアイシャがここに!
「私も一緒に行くからね。勝手に遠くになんか行かせないんだから、私は大人しく待ってる女じゃないのよ。何処まででも追いかけてやるんだから」
そう言って俺からの手紙を見せる。
「アイシャ……」
アイシャが馬車から飛び降りたので抱き止める。
「でも、どうして君が……」
「急に王様から登城するように命令が来て、大急ぎで王都に来たの。そしたらパパからこの依頼を渡されて……」
じじい、知っていて黙ってやがったな。
「アル、パパからの伝言よ。早く孫の顔を見せに帰って来いですって」
何時もは邪魔ばかりしてきたのに。粋なことしやがって。待ってろよ。お望みの孫の顔を見せに直ぐに帰ってくるからな。
これで思い残す事は本当に無くなった。メンバーも揃ったし、そろそろ出発だ。
「それじゃ、出発するか。レッド、次の街まで頼むな」
「承知しました。アル様は私が一生懸命頑張っている間、馬車の中でお楽しみくださいませ」
こいつ。嫌な言い方をする。
「俺は夜の番をする。お前は昼間の担当だ」
「はい。分かってますよ。アル様は夜は寝ずにするんですよね」
そうだな。寝ずに番をするぞ。レッドの相手は疲れる。
皆は既に馬車に乗り込んでいる。俺も遅れて乗り込む。
なんじゃこりゃーーーー。
馬車に乗り込んだ俺はその余りにも異質な空間に驚愕した。そして瞬時に理解した。
これはあの王弟の馬車だ。
中央にそびえる大人10人は寝れそうなベッド。そして壁に設置している無数の鞭。趣味の悪い赤色の内装。衣装ケースの中に見えるボンテージ服。
アイシャ、鞭をもって何をしているんだ。捨てなさい。そんな物は。
ミリア、お前にその服は無理だ。もう少し大きくなってからな。
それにしても、いろいろとおかしい。明らかに馬車の大きさよりも部屋の方が広い。しかもこの部屋の他にも部屋がある。
これは普通の馬車じゃない。
「驚いたわね。アル。これ魔導馬車よね。こんな最新式の馬車を貸してくれるなんて王様は太っ腹ね」
アイシャ違うんだよ。これはレッドが勝手に持ってきたんだ。盗んだと言ってもいい。
「でも、この鞭の数は何かしら? やたら短いから武器としては使えなさそうだし」
うん。武器じゃないからね。それ。
外でも疲れて、中でも疲れる。旅の出だしからこれで大丈夫か。
俺達の旅はこれから始まる。
「奴らは行ったか。ラティア」
「はい。狙い通り、あの馬車を持っていきました」
「これで、奴らの居場所は丸わかりだな」
「はい。陛下」
「あんな化け物たちに王都に居られたら困るんだよ。まだ準備がすんでないのだから。さあラティア、奴らが戻ってくる前に終わらせるぞ」
「はい。遂に我らの悲願が叶うのですね」
「そうだ。あ奴らが帰ってくる頃には――アルフレッド、精々最後の旅を楽しんでくるといい。フハハハハ、ゴホ、ブハ」
「陛下、大丈夫ですか?」
「ちょっとむせただけだ」
「締まらないですね」
「うるさい」
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