第14話 敗北
「アルバート、貴様何をした。人間の動きではない」
え。ほんとに普通に斬っただけだよ。
え。俺、そんなに速く動けてるの?
「師匠は強くて当たり前。毎日私達と稽古してる」
そうなの? 俺、強くなってたんか。毎日死にそうになってるもんな。それはそうか。こりゃ余裕だな。
「レオナルド、と横のデブ、降りてこい。遊んでやる」
俺は昔の自分の様に強くなれた事に浮かれた。
「不敬な奴め。許せん。レオナルド、丁度よい機会だ、あいつ等にやらせろ。性能を確かめたい」
「殿下、承知いたしました。お前たち、あの男を殺せ」
観客席から黒ずくめの衣を纏った、二人の刺客が飛び降りてきた。凄まじい殺気を放っている。相当な手練れだ。
「師匠、駄目。勝てない。あれはお姉ちゃん達」
「何! どういうことだ。何であいつ等が俺達を襲う必要がある!」
「お前たち、子供の方は殺すなよ。拘束しろ」
ライカとセツナと思しき二人が襲い掛かってくる。
「止めろーー」
叫んだ瞬間、相手の姿が消え、吹き飛ばされた。
何が起こった。何も認識できなかった。鎧が割れている。殴られたか、蹴られたか。どちらにせよ、俺には絶対に勝てない。唯一の救いはライカが剣ではなく素手だということくらいか。
立ち上がりたいがふらついて立ち上がれない。たった一撃でこれとは。俺の一番弟子は強いな。とても叶わない。これはミリアに何とかして貰うしかない。
ミリアの様子を横目で伺うがそちらも防戦一方で勝ち目はなさそうだ。上空から魔法で応戦されてはミリアとて手も足も出ない。
「ふはは。アルバート。手も足も出まい。どうだ自分の弟子に嬲られるのは?」
「ハァ、ハァ。レオ、ナルド。貴様、こいつ等に、何をした」
「こやつらは既に我々の命令に従うだけの人形よ! 犬女、命令を変更する。その男を殺さないように痛めつけろ」
ライカは既に立ち上がることの出来ない俺の所へゆっくりと近づいてくると、俺の首を鷲掴みにして掴みあげると、1発ずつゆっくりと殴り始めた。
ゆっくりとした拳なのだが一撃食らうごとに意識が飛びそうになる。
これはそのうち死んでしまうな。
ライカ、何を泣いてるんだ。こんな状態でも意識はあるのか。外道なことをする。
すまんな、助けてやれない情けない師匠で。
どれくらい殴られたのだろうか。もう何処を殴られても痛みを感じない。
ミリアもセツナに防御を破られて、拘束されてしまっている。
「ライカ、その辺で止めろ。そのままそいつを拘束しておけ」
レオナルドがライカに命令を下す。
「殿下、このとおり首輪の性能実験は完璧です」
「そ、その様だな。儂はもう満足したから先に戻る。後始末は任せるぞ。後で3匹を連れて来い」
「承知いたしました」
高みの見物をしていたレオナルドと名前を忘れた部下が武闘場へ降りてきた。
「随分と痛めつけられたな。さて、どうやって死にたい? 弟子の手で死ぬか? 俺が首を刎ねてやろうか? 何とか言えよアルバート」
無理を言うな。こっちはライカにやられて意識が朦朧としてるんだから。
「つまらないぞ、アルバート。せっかく最後のお遊びをしてるんだから、抵抗してくれよ。じゃあ元気が出るようにとっておきの面白いネタを教えてやるよ」
何を教えてくれるって。
「お前、セルカってガキの所に居ただろ。あいつを貶めたのは俺だ。お前が出ていってつまらなかったからな。あいつで遊ばせて貰ったぜ。」
こいつは、何を言っているんだ。
「何年もかけて、徐々に弱らせていったんだぞ。徐々に弱っていくのを眺めてるのは最高だったなぁ」
セルカをどうしたって。
「あと一歩で娼館に叩き落とせたんだがな、逃げられてな。お前のお蔭で見つけれたから今度捕まえて娼館に売りに行くわ。はした金にしかならんがな。そうだ、俺が最初の客になってやるか。いや、あんなブスの相手は御免だな。はっはっは」
何が可笑しいんだ。今の話に笑える所なんてなかったぞ。
「…してやる」
「あっ、何だって? 聞こえねえよ」
「ぶっ、殺、して、やる」
「お前に出来るはず無いだろ。お前は今から死ぬんだよ」
レオナルドが剣を抜く。
覚悟を決めるしかない。こんな奴に殺されてたまるか。
母さん、御免。貴方に貰ったこの命を捨てます。
父さん、すまん。貴方との約束を破ります。
俺は師匠として弟子の前で殺されるわけにはいかないんだよ。
「レオ、ナルド、貴様、の、思いどおりには……させん」
俺は左手を抜き手にし、残った力の全てを込める。そして……
自分の心臓を貫いた。
「がフ」
喉から上がってきた血を吐いた。
「いやーーーー。パパーーーー。嫌だよ。お姉ちゃん、離して、パパが死んじゃう」
今のはミリアか。パパって俺の事か。そんな風に思ってくれてたのか。うれしいな。
「こいつ、自害しやがった。興醒めだ。糞が。俺が殺してやるつもりだったのに」
勝手なことをほざくなよ。お前になんか殺されてやるか。
俺の人生はもうすぐ終わる。
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