第15話 誕生
俺の人生はもうすぐ終わる。
アイシャ。ごめん。君と共に歩むことはできなくなった。君と家庭を築いて静かに暮らしたかった。
さよならだ。
ドクン。ドクン。
心臓の鼓動が聞こえる。
俺は人間をやめた。
「レオナルド様、あいつ傷が塞がっていきます」
「アルバート! 貴様何をした。どうして生きている!その姿は何なんだ!」
その姿って言われても自分では体しか視えないからな。体の色は若干黒くなってるな。視界が高くなってるから身長も伸びたか。
てっきりオーガみたいに筋肉ムキムキの巨人になるかと思ってたから、ちょっと拍子抜けしたな。
「な、何なのだ? 貴様は!」
「ご覧のとおりだ。お前のせいで人間を辞める事になっちまった。たっぷりと後悔させてやるからな、覚悟しろよ」
「何だと言うのだ貴様は。今度こそ確実に殺してやる。こっちにはS級冒険者が二人もいるんだぞ。お前たち、今度は全力であいつを始末しろ」
レオナルドの命を受けてライカとセツナが動き出す。
ライカが得意技の紫電を使った。セツナは上か。立体的に連携で攻めてくるか。当然の行動だ。流石、俺の弟子たちだ。動きに無駄がない。
だがな先程までの俺とは違う事がよく分かる。反応すら出来なかったライカの動きも今では丸分かりだ。
ライカは今まで強敵と戦った事が無いのだろう、そんな直線的な動きでフェイントすら入れない様では攻撃の軌道が丸分かりだ。
セツナは俺の後方に回り込んで背後から強襲するつもりか。連携するならライカと同じタイミングで攻めて来ないといけない。
弟子たちの粗が見つかり、まだまだ教えれる事がある事に嬉しくなる。俺はまだ師匠でいられる様だ。
こんな俺をあいつ等が受け入れてくれればだが――。
この姿になり、どれ位強くなったのだろうか。S級冒険者の動きが視える位だからかなり大幅なパワーアップをしている。
ライカが殴りかかってきた拳を掴む。そのまま後方から攻めて来るセツナに向かってぶん投げる。多少痛いだろうが俺が今の力で殴ったらどうなるのか分からない。まだ自分の力が把握できてないからな。
気絶させようにも首をトンってやって首がポーンってなったら洒落にならん。
やっべ。
やはり強く投げすぎた。力加減が上手く出来ない。ほらこのとおり、危ない所だった。
二人が吹っ飛んで壁をぶち破り、更にぶち破り、はるか向こうの方まで飛んでいった。
ライカ達ならこれくらいなら死にはしないだろう。
「さて、レオナルドよ。言い残す言葉はあるかな?」
呆然と突っ立っているレオナルドに声をかける。
「ひっ。きっ貴様ごと……ブヘぇ」
もの凄く手加減して殴る。
「何だい? よく聞こえないよ。早く言い残さないと死んじゃうぞ」
レオナルド殴る。吹き飛ぶ。回り込む。殴る。吹き飛ぶ。回り込む……一人キャッチボールだ。楽しくなってきたぞ。これ迄の恨みの数々、ぶつけさせて貰おうか。
軽く撫でている様に殴っているのだが、面白いように飛んでいく。人間ってこんなに飛ぶものなんだな。
「おい。何を逃げようとしてるんだ。名前を忘れたレオナルドの部下君」
逃げようとした男を発見したので遊んでいたボールを投げ捨てて、回り込む。
「ひっぃ。た、たしゅけて下さい」
「んーー、どうしようか? ライカ達を元に戻すにはどうすれば良いか教えてくれるなら考えてもいいな」
「はい。言う。言います。教えます。首に付けている首輪を取れば元に戻ります。鍵は王弟殿下がお持ちです。」
流石、名前が記憶に残らない小物。スラスラと教えてくれる。
「そうか、そうか、ありがとう。助かったよ。じゃあ、さようなら」
「そんな、約束し……」
本気の拳を打ち込んでみた。どれくらい吹っ飛ぶかなと思ったら、爆砕した。どういう原理か謎だ。殴ったらパーンって散った。改めてさらば名を忘れた男。
ライカとセツナが戻ってきた。ちょっと遊びすぎた様だ。
フラついているが直ぐに襲いかかってくる。
えっと首輪、首輪。探すまでも無いな。首にあるから首輪だ。あれを壊せばいいのか。あいつ等と戦いながらそれをするのか。
余裕だな。
先程までの速さは既に無い。セツナも飛ぶことも出来ないくらいボロボロだ。やり過ぎてしまった。
すれ違いざまに首輪を摘んで砕く。やっぱり余裕だった。
首輪を砕かれた二人は崩れ落ちる様に倒れた。
まさか、砕いたら不味いものだったのか。安易に行動した自分を殴りたい。
「お前たち大丈夫か?」
「ししょう。体が痛いです」
どうやら無事元に戻った様だな。よかった。ライカ、俺を責めるのは筋違いだぞ。お前も俺をボコボコにしたんだからな。
うぉ。何だ。体に何かがぶつかってきたと思ったら、ミリアだった。俺に思いっきり抱きついてきた。
「生きてる。よかった。」
俺の破けた胸の部分を触りながら呟いた。
こそばゆいので止めていただきたい。そこは敏感なんだから。
「それで、師匠。そのお姿は一体?」
最もな質問だ。
「簡単に言うと鬼だな。俺は鬼神族と人間のハーフだったんだ。今の姿は鬼神族の姿ということだな」
俺の父親は鬼神族だった。どうやったかは知らないが、自分の力を封印して、人間として暮らしていた。
ハーフである俺には生まれつき人間と鬼神の2つの心臓があった。父は俺の鬼神の心臓を封印し、人間としての生を願った。
俺も鬼なんてオーガみたいなのを想像していたので、寧ろありがとうと思っていた。
「詳しくは、また今度な」
実は今回の策は博打だった。あれで封印が解除されなければ、そのまま死んでたからな。この事は墓まで持っていこう。
「師匠、その角かっこいい」
角まで生えたか。そこは見えないから分からなかった。後で確認しよう。
ミリアありがとう。
それからパパって呼んでいいんだぞ。どうも一度死にかけてから、急に父性に目覚めたらしい。
さて、問題はこの生ゴミの処理をどうするか。
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