第13話 セルカ

「ここだよ」

 着いて行った先にあったのは、今にも壊れそうなボロボロの家だった。

「見つかるとやばいんだ。早く入ってくれ」

 男に促され家に入る。


「リシュさん、お客さんですか?」

 布団の中で横になっている女性が声をかけてきた。この男はリシュというのか。ではあの女性がまさかセルカだというのか。

 痩せて頬はこけている。お父さん似て少しふっくらしたほっぺをしていた。

 長い髪はボサボサになっている。お母さんに似て綺麗な艶のある茶色の髪をしていた。

 まるで別人じゃないか!彼女に何が。


「セルカなのか?」

 声を絞りだす。

 セルカであろう彼女がこちらを見て目を見開く。

「あ、ああ、ああ……。う。うぅ」

 彼女は突如として泣き出してしまった。


 彼女は暫くの間泣き続けた。その横で献身的に介護をしているリシュ。その様子を見るとリシュのセルカに対する想いがよく分かった。


「アルさん、ずっと待ってたんです。元気になって帰って来るのを。でもすみませんでした。宿を、守れませんでし……ゴホォ、ゴホ、ゴホ。」

 泣き止んだセルカは俺にそう告げてきた。

 彼女は何かの病気を患っている様子だ。

「アルさんの帰ってくる場所を守れませんでした」

「セルカちゃん、無理をして喋るんじゃない。病気が悪化してしまう。安静にするんだ」

「アルさん。すみま……」

 セルカはそのまま気を失うように寝てしまった。


 俺は王都に帰ってくるつもり何て無かった。セルカがこんなにも俺の心配をしてくれていたなんて。


 セルカが眠ったため、リシュが事情を話してくれた。

 リシュはあの宿の厨房で働くスタッフだった。

 俺が王都を去って暫くたった頃から、宿への嫌がらせが始まった。

 最初は店の前にゴミがまかれたり、落書きされる程度だったが、次第に石が投げ込まれるようになり、更には宿泊した客が怪我を負うようになった。

 そうなると宿に泊まる客は殆どいなくなった。それでもセルカは宿を維持するために借金までして頑張っていたそうだ。

 最終的には借金が返せず、身売りする直前でリシュがセルカをさらって、ここに身を隠しているという現状だった。


「リシュくん。セルカは体調が優れない様だけど、流行病かい?」

「そうです。もう一月も経つのに一向に良くならなくて、薬を買うお金もなくて」

 セルカはこれまでの無理がたたって、流行病にかかってしまい、かなり危ない状態らしい。


 以前俺を甲斐甲斐しく世話してくれた元気なセルカの面影もない。

「リシュくん。これを使ってくれ。セルカに薬と食事を。」

 有り金全てを渡す。

「アルバートさん、多すぎます。こんなに頂けません」

「いや、全然足りてないんだ。5年近くもセルカは俺を無料で宿に置いてくれてたんだ。こんな程度では到底足りていない」

 今、俺が生きているのはセルカのお蔭なんだ。手持ちの有り金だけじゃ足りない。全財産を譲ってでも助けてみせる。

 俺がもっと早くに王都に来ていれば……。

「また来るから。セルカのことを頼む」


 俺は、急ぎ家を出る。お客さんが大勢お見えだ。

「師匠、囲まれてる」

「ああ。分かってる。少し移動するぞ」

 俺達が移動すると刺客達も移動する。セルカ達が狙われている可能性もあったが、俺達へ用があるらしい。

「貴様たち、何の用だ。殺すぞ。」

 セルカの事で気が立っているため、手加減なんてできそうにない。俺達を囲む連中へけん制する。 

 男たちのうちの一人が前に出てくる。

「久しぶりだね、アルバート君」

 金髪、長身で聖騎士の鎧を着ている。

「お前は!えっと。その、名前が出てこないがレオナルドの子分だったな」

「聖騎士団副団長の名前も知らんとは不敬な奴め。まあいい。アルバート、私に付いてきて貰うぞ」

「何で俺が貴様なんぞに付いていく必要がある。さっきも言ったが殺すぞ」

「師匠、殺る」

 ミリアも珍しく殺る気の様だ。

「早く帰って寝る」

 いつもどおりだった。

「これを見てもそんなセリフが吐けますかね」

 名前を忘れた男が2本の剣を見せてくる。

「君の大事な弟子2匹は預かってますよ。どうなってもいいのですか?」

 ばかな! あいつ等がこんな奴らに捕まるはずがない。あんな出鱈目な二人を抑えるなんてこいつ等程度では不可能だ。

「あの二人がお前たちなんぞに捕まるわけないだろ。偽物だろ。騙されるか」

「師匠。あれから二人のにおいがするから本物」

「そちらのお猿さんの言ってるとおりですよ。さあ、付いてきなさい」


 名前を忘れた男は有無を言わせないかの様に身を翻し、歩き出してしまった。

「ミリア、仕方がない。付いていくしかないな」

「うん」


 連れて来られた場所は、忌まわしき剣術大会の会場であった。その舞台場の中央で立たされる。

「久しいな、アルバート。ゴミの様に惨めに生き恥を晒している様だな」

 観客席の高い所から声をかけてきた。

「レオナルド。今さらお前が何の用だ」

「用があるのは私ではない。こちらのお方だ」

 レオナルドの隣には小柄で小太りな趣味の悪い煌びやかな服を着た、いかにも貴族ですという男がいる。

「貴様が私のペットどもを連れ去ったゴミですか。貴様のお蔭で私の計画が大いに遅れてしまった」

 あいつがライカ達を故郷から誘拐させた張本人らしい。

「貴様には報いを受けて貰うぞ。お前たち、やれ」

 男の指示を受け、周りを囲んでいた騎士たちが一斉に剣を抜き斬りかかってきた。 

「ミリア、やるぞ」

「うん」

 俺は急ぎ身体強化を行い、武器を抜く。腐っても騎士数十人、苦戦は必須。


 ん。こいつ等めちゃくちゃ遅くない? 剣の動きもやたらスローに見える。ほんとに聖騎士か? 

 一人一人適格に急所へ一撃を繰り出し打ち倒す。全く苦戦することなく一瞬で全員倒せてしまった。

 

「な、な、何が起こったのだ。レオナルド!」

「分かりません。見えませんでした。ぐっアルバート。貴様何をした」


 え。普通に剣で切っただけだけど。え。見えなかった? 何で?

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