第12話 陰謀
人生史上最悪の恥辱にまみれた2日間を過ごし、目覚めてから3日目の朝、漸く立って歩けるまでに回復した。
俺はこの2日間で弟子の育成方法を間違えたことを激しく後悔した。最初に山で修行などせず、きちんと一般常識を教えるべきだった。
「師匠、おはよ」
ミリアが起きてきた俺を見つけ声をかけてくれた。二人はいないようだ。
「一人か? ライカ達はどうした?」
「買い物」
「ミリアは行かなかったのか?」
「ん。師匠、心配」
「そっか。ありがとうな」
ミリアの頭を撫でる。
年齢も背も小さいミリアは何故か自然と撫でてしまう。
「ミリアは小さくてかわいいなぁ」
ポロッと思っていたことを口走ってしまった。
「師匠のも小さくて可愛かった」
えっ、何が? 何のこと。もしかしてナニのことなの? 違うんだぞ。あれは本気の姿ではなくてだな。って何を説明しようとしてるんだ。
「飯は食ったのか?」
聞こえなかったことにした。
「まだ」
「外に食いに行くか?」
「行く」
ミリアを連れて王都を歩く。ミリアの手には串焼き肉が大量に握られている。
「うまいか?」
「うん」
そうかそうか。いっぱい食べなさい。そして昨日のことは忘れなさい。
王都を出て5年経つけどあんまり変わってはいないな。この串焼きの味も昔のままだしな。
そうだ、王都に来たんだからセルカの所に挨拶に行かないとな。
「ミリア、ちょっと寄りたい所があるんだけどいいか」
「ん」
路地裏に入り、貧民街の方へ向かう。セルカの宿屋は貧民街の入り口にある。駆け出しの冒険者が利用する宿としてそれなりに人気があった。
セルカは元気かな。
一体何があったんだ!
セルカの宿を訪ねて見つけたのは、とても営業なんてしていないような廃墟。この5年で一体何が。
道を歩いていた若い冒険者を捕まえて訪ねた。
「なあ、聞きたいことがあるんだが、ここの宿屋どうしたんだ。5年前は営業していたんだ」
「悪いが、知らないな。俺も1年くらい前に来たんだが、その時はこの有様だったぞ。もういいか」
「ああ。急に悪かった。これは少ないがとっといてくれ」
冒険者へ金を渡す。
「悪いな。それじゃ」
あまり大したことは分からなかった。確かにボロい宿だったが人気はあった。簡単に潰れるはずがない。セルカに何かあったのか。
「お兄さん。お兄さん」
何だ。路地の方で誰かが呼んでいる。ここの住民の様だが。呼んでいるようなので話を聞いてみる。
「何か用か?」
「お兄さん、アルバートさんだろ」
「そうだが」
「セルカちゃんの居場所を知っている。案内する」
それだけ言って、路地裏の奥に消えていく。怪しい男だったが俺とミリアは黙って着いて行くしかなかった。
「師匠は何処に行ったんでしょうね」
「ミリアと何処かで食事でもしてるんだと思いますわ」
私達が買い物から帰ると師匠とミリアが居なかったので探しに出た。匂いで居場所は探せるのですぐに合流できる。
「よう。やっと見つけたぜ」
3人の男たちが私達に声をかけてきた。
「あ、あなたは!」
5年前に私達が逃げ出した人攫い達だった。まだ諦めてなかった様だ。
「よくも逃げてくれたな。探したぜ。おっと。動くなよ。お前たちの世話をしていたあの女がどうなってもいいのか。一応生かしてるんだぜ」
くっ、卑怯な。
「知ってるぞ。お前たちはあのクソ女をお母さんって呼んでたよな。まあそうなるように子供好きなあの女を世話係にしたんだけどな。ハッハッハ。お前たちの鎖としてな」
「何が狙いだ」
「お前たちに消して貰いたい奴がいるんだよ。ついてきて貰うぞ。別に断ってもいいぞ。その時はあの女は始末させて貰うがな。その次はお前たちの師匠で同じことをさせて貰うだけだ」
「貴様ら。師匠に手を出したら消し炭にしてやる」
「俺達は手を出さないさ。ギルドのお偉いさんにお願いするだけさ。どうする?」
「ついていく。セツナもそれでいい?」
セツナは無言で頷いた。
「なら、暴れられたら困るんでコレを着けて貰うぞ」
男は首輪を2つ投げて寄越した。
「それを着けるんだ」
如何にも怪しい首輪だが拒否することが出来ない。見つかった時点でこうなるように誘導されている。明らかに私達より場馴れしている。出し抜けそうにない。
師匠すみません。今日でお別れかもしれません。
ミリア、師匠のこと頼みます。
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