第11話 雷神の乱心

 王都へたどり着いた俺たちはラングリットの案内により王都のギルドへ向かうことになった。

 このギルドには正直来たくなかったが、冒険者は街を移動したらその所在を明らかにするために、ギルドへ行き登録を行う必要があるからだ。


 俺たちがギルドへ入ると騒がしかった冒険者たちは静まり返り、値踏みするような視線を向けてくる。そしてざわつきだした。

「おい、あいつ泥あさりのアルバートじゃないのか」

「あいつ、生きてたのか。とっくにくたばったと思ってぜ」

「あいつが落ちた雷人か。惨めなもんだな」

「何しに帰ってきたんだ。恥晒しが」

 そんな声が周囲から聞こえてくる。

 実際に泥をさらって日銭を稼いでいたし、落ちぶれた冒険者として俺は有名人だった。こんなことは日常茶飯事だった。いちいち気にしてはいない。

 だが、俺の困った弟子はそうはいかない様だ。

 俺の後ろからチリチリという音と何かが焦げるような匂いがした。

「お前たち、逃げろ」

 ギルドの中で好き勝手言っている連中に忠告を促す。が一足遅かった。

「「「アバ、バ、バッババッババババ」」」

 ギルドの中に黒焦げの無残な屍の山が築かれる。

 よかった。かろうじて生きている。

「ライカ、やりすぎだ」

「我が師を愚弄し、息があるだけましだと思いなさい」

 駄目だ。激怒していて、俺の注意も聞こえていない。体からは依然として雷が漏れ出ている。先ほどの比ではない濃さだ。

 このままでは死人が出る。弟子をこんな仕様もないことで殺人者にするわけにはいかない。

「ライカ、落ち着け」

 俺はライカを正面から抱きしめる。大きな2つのお山の感触がダイレクトに伝わってくる。

「ふえっ」

 ライカから可愛らしい声が聞こえると共に。

「アババババババババババ」

「ししょうぉーーーー」


 俺の尊い犠牲により、その場の混乱は収まった……らしい。

 俺が気がついたのはそれから2日後だった。ラングリットが宿を手配してくれ、そこに運びこまれた。

 体の方はセツナが魔法で癒してくれた。特に違和感は感じない。というか痺れている感覚が抜けていないのでよく分からない。

 体は思うように動かせない。


「ライカ、もういいから、いい加減にそれをやめろ」

 ライカはこの2日間ずっと俺の看病をしてくれていたようだ。そして俺が目覚めるなり、土下座をし、今に至る。

「私は怒りに我を忘れ、あと一歩のところで師匠を殺してしまうところでした。私は弟子失格です。如何様な罰でも受け入れます。申し訳ございませんでした」

 土下座を止めようとしない。仕方の無い奴め。

「ライカ、ちょっと起こしてくれないか」

 ライカはおずおずと立ち上がり俺の傍にきて、上半身を起こしてくれる。俺はライカの頭へ手を置き、ゆっくりと撫でる。

「俺の為に怒ってくれてありがとう。お前は俺の大切な一番弟子だ。これからも宜しくな」

 ライカの大きな瞳から大きな涙がぽろぽろと零れ落ちてくる。

「じじょう~」

 ライカが抱き着いてきた。

「やめろ、頭に抱き着くな。く、くるし、、、息が……」


 ライカの豊満な双丘にノックアウトされ、再び眠りについてしまった。次に目覚めたのは翌朝だった。ライカは土下座したまま寝ていた。

 

 ライカ達は俺が動けないのを良いことに俺の世話をせっせと勤めてくれた。

「ライカ、やめろ。お姫様抱っこは勘弁してくれ。やめろ、服をぬがすな。いやーー。パンツは止めてーーーー」


 しくしく。もうお嫁にいけないわ。


 ライカにはひん剥かれて、風呂に入れられた。体は隅々まで洗われた。ほんとに隅々まで。


「はーい。あーんしてね。まんまの時間でちゅよ」

「セツナ、普通に食わしてくれ」

「ちょっとした冗談ですわ」

 勘弁してくれ。

「師匠は内臓をやられているはずですので、私が食べやすくして差し上げます」

 もぐもぐもぐ。

 まて、何でお前が食べる。嫌な予感しかしない。やめて、近づくな。


 ぶちゅーーーっ。ウグッ。ゴクン。

「どうですか。呑み込めましたか。では次いきますよ」

「やめろ」

「ダメですよ。今は弱っていて、上手く咀嚼できないんですから、私がしてさしあげますから」

 もぐもぐもぐ。

 いやーーーー。


「師匠、トイレ」

ミリアが尿瓶をもって現れた。最悪だ。

「ミリア、大丈夫だ。それはいらない。頼むから普通にトイレに連れて行ってくれ」

「大丈夫、昨日もした」


 おわった。


 一生分の恥辱を受けた俺は、立ち直れないほどのショックをうけ、気を失った。一緒に記憶もなくなってくれればよかったのに、そっちは翌朝しっかりと残っていた。


 恥ずかしい。穴があったら入りたい。

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