過去6 暗躍する王都

「ええい。あ奴らはまだ見つからんのか! たかが子供3匹を探すのに何日かかっておるのだ」

「申し訳ございません。殿下。配下の者達に王都中を捜索させておりますが、王都は広く手が足りていない状況です。現在、冒険者ギルドへも捜索の依頼をかけました。もう間もなく発見の報が届くと思われます」

「発見だけではならぬ。必ず生かして連れて来るのだ。兵士と聖騎士も可能な限り動員し、街道を封鎖しろ。王都の外には逃がすな。奴らの捕獲を余は10年待っておったのだぞ」

 この10年、待ちに待った。やっと手に入ったと思った所で邪魔しおって。

「おい。あ奴らを逃がした女はどうしている」

「はい、ご命令のとおりに生かして牢につないでおります」

「儂の邪魔をしたんだ。簡単には殺さん。少しずつ切り刻んでやるわ」

「殿下、奴らを大人しくさせる材料になるかもしれませんので、殺さない様にだけお願いいたします」

「分かっておる。さっさと儂の部屋に連れてこい」

「承知いたしました。直ちに」


 あ奴らさえ手に入れば、俺は王位を奪える。兄上を殺し、俺は王になる。そのために希少な血を持つ獣人の子供たちを集めさせたのだからな。奴らを奴隷にし鍛え上げ、最強の兵器にするのだ。


 雷が鳴り響き、落雷が近づくものを拒む高き山々と深き谷を越えた先にいる雷獣。その血と力を引き継ぐ、神狼族。

 氷の台地が見渡す限りつづき、生きとし生けるものを全て凍らせる死の台地の中心にいる霊鳥。その血と力を引き継ぐ、神鳥族。

 1本1本が城のように大きな大木が作る巨大な森、日の光が一切届かないその森の奥にすむ巨猿。その血と力を引き継ぐ、神猿族。

 獣人の達の中でも神の名を冠する3つの種族の子供たち。途方もない費用と時間をかけて手に入れたのだ。絶対に手に入れる。


 俺は王になるのだ。


「団長、聞きましたか。アルバートの奴、今朝王都を出て行ったようですよ」

「そのようだな。もう少し遊びたかったが、出て行ってしまったのなら仕方が無いな。そろそろ始末しておくか」

「どう始末するんですか」

「先ほど王弟殿下のご命令で、獣人の子供の捜索命令が出された。奴隷が逃げ出したそうだ。街道の封鎖をしなければならん。そういえば街道に片腕の盗賊がでるという噂がある。民衆の生活を脅かす盗賊は討たねばならない。第1から第3聖騎士団で討伐を行う。全軍に通達せよ」

「なるほど。盗賊は討たねばなりませんね。承知いたしました。団長はどうされますか?」

「当然、俺もでる。盗賊の首を撥ねてやらねばな」


 5年前の剣技大会でアルバートの腕を切り落としてやった。

 奴は王都唯一のS級冒険者として民衆の支持を受けすぎていた。俺の婚約者まで奴のファンだった。私との婚約を破棄して、奴と結婚すると言い出した。

 許せる筈がない。俺は貴族だ。貴族が侮辱されて許せる筈がない。

 剣技大会に出場するようにギルドへ圧力をかけ、奴の剣へ細工を施した。俺の目論みどおりに事は運び。奴は見事に落ちぶれてくれた。

 婚約者にも俺から破棄を言い渡してやった。幸い剣術大会で優勝したことで、王族から王女を下賜する話があったからだ。

 俺様を侮辱する奴は許さん。全てを奪ってやる。


 その後の奴は実に哀れだった。

 俺を殺したくて仕方が無かったのだろう、有り金を全てはたいて殺し屋を雇ってきた。俺が準備した殺し屋とも知らずに。失敗を知った時の奴の絶望した顔を見たときは、笑えた。あいつが惨めにもがいている様は滑稽で、最高の演目だった。


 俺は女も金も地位も手に入れた。だが、昔のように派手に遊ぶわけにもいかなくなった。あいつで遊ぶのはこれで最後か。


 どんな風にいたぶって殺してやろう。


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お読み頂きありがとうございます。

次話より通常ルートへ戻ります。

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