過去5 帰郷

 3人のガキ共を弟子にした翌朝、ガキ共を叩き起こす。

「オラっ。お前らさっさと起きろ」

 ガキ共を軽く蹴飛ばす。

「朝は稽古の時間だ。寝坊は飯抜きにするぞ」

「師匠、おはようございます」

1号が起きてくる。2号、3号はまだ寝ぼけているようだ。木の枝で軽く引っ叩く。

「いて」

「あいた」

「目が覚めたか。稽古を始めるからしっかりしろ」


 3人を整列させ、それぞれの背丈にあった木の枝を持たせる。今日はとりあえず素振りで体の使い方を教える。


「例え素振りといっても漠然と振るな。一振り一振り、敵を倒せるように全力で振るんだ。よく見ていろ」

 俺は太めの木の枝を構え、全力で上から下へ振るう。

 バキッ。木の枝が空気の抵抗で折れた。

「真面目に取り組めば、この程度のことであれば、必ずできるようになる。よし、素振りに戻るんだ。これは剣を振るときの体の使い方の勉強だからな。しっかりやれよ」


 30分程度素振りをさせる。2号の体が疲れからかぐらつきだす。

「2号、素振り止め。体がふらつき始めている。体が疲れてくると正しく振れないから止めるんだ。剣の振り方に変な癖がつくし、体を痛めることになる。わかったか」

「はい。師匠」

「よし。良く頑張ったな。今は他の二人に遅れをとっているが、スタミナはこれから大きくなればついてくる。焦らずに頑張るんだ。後は俺の振り方をよく見て、学ぶんだ」

 2号は目を見開いて、全ての動作を見逃さない様に見ている。俺は見本になるように丁寧に素振りを行う。


 この30分、俺も3人と一緒に稽古している。5年もまともに稽古していなかったため、かなり辛く感じる。だが弟子に無理をさせて、自分だけ楽をするつもりはない。

 その後30分、紅丸を振り続ける。1号と3号も既に素振りは止めさせている。

「よし。稽古終わり。初の稽古だ、疲れただろ。次は飯の時間だ」

「「「やったーー」」」


 今日の朝食は昨日の夜のうちに捕まえたウサギが2匹と大きな蛇が1匹。どちらも夜の間に下処理はすませておいた。

「2号、手伝ってくれ。俺はナイフで切るのは苦手でな」

「はい」

2号に手伝ってもらい、肉を切り、1号には鍋に水を汲んできてもらった。3号は洞窟の中に生えているキノコを集めてもらった。この洞窟に生えるキノコは大体が食用だ。食べれない物は分かるのでより分ける。キノコで出汁をとったスープと肉を朝食とする。


 朝食を取りながら、3人と会話する。昨日聞きそびれた名前を聞いておく。

「お前たち、飯はどうだ。うまいか」

「「「うまい」」」

「そうか。飯を食ったら出発するぞ。その前にお前たちの名前を教えてくれるか」

「わ、俺はライです」

1号から答えてくれる。

「ライだな。覚えた。お前は体力がある。皆の面倒をきちんと見るように」

「セツです。師匠」

「2号はセツだな。覚えやすくていいな。スタミナの事は気にするな。今後も料理の手伝いを頼むな」

「ミリア」

「3号はミリアだな。女みたいな名前だな。お前は動物の気配が読めるようだ。危険が近づいてきたら教えてくれ」

「私はおん……」

「「わーーーー」」

「どうした、急に。大声出したらモンスターを呼ぶことになるぞ。気をつけろ」

「「はい」」

 二人がシュンとなる。


「それとライ。お前獣人だったんだな」

 昨晩、寝ているときにフードが取れて見えてしまった。ライの素顔には獣人特有の耳が頭の上にあったのだ。

 獣人の子供がなぜ王都に居たのか。それもあんな路地裏に。どこか貴族の館から逃げ出したのか、人買い共に連れられてきたのか。


 この国の貴族には獣人を捕まえて奴隷にする奴らがいる。国としても禁止にしていない。とてもひどい扱いを受けていると聞く。そんな奴らには反吐がでるが、俺では如何しようもないことだった。


 3人が怯えているように見えた。

「心配するな。俺は獣人だからといって、酷いことはしないぞ。そんな奴らはくそだと思っている」

 ライがおずおずと聞いてくる。

「本当ですか。ひどい事しないですか」

「もちろんだ。俺は王都で嫌というほど虐げられた。お前たちの気持ちは痛いほど解るつもりだ。すぐに信用しろとは言わないが、怯える必要はない」

 3人は何かを相談し、決心したように俺に話してくれた。

「僕たちは獣人の国から人さらいに連れられてこの国にきました。僕が捕まったのは3歳くらいの頃だったと思います。当時の事は詳しくは覚えていません。セツはもっと小さくて、ミリアはまだ喋れもしない赤ちゃんでした。ミリアの名前は僕たちがつけたんです」

 思ったよりも小さな頃に捕まったようだった。

「それからずっと、5年以上旅をしてここの王都にたどり着きました。この国の貴族にわた、僕たちは売られることになっていました。」

 こいつ等が王都にいたのは予想通り、貴族の道楽だった。

「この王都に着いたとき、僕たちの世話役だった方が、こっそりと逃がしてくれました」

「俺と出会ったのは逃げ出してどれくらいたっていた」

「3日です」

「その人さらい達はまだお前たちを探しているはずだ。さっさと逃げてしまおう。そして稽古してそいつ等を撃退できるくらい強くなるんだ」

「「「はい」」」

「いい返事だ。たっぷり食え。食ったら出発するぞ」

 わざわざ獣人の国まで行ってさらって来るなんて、相当にやばい組織の連中だと思われる。そしてその組織を動かせる奴も大物だろう。


 街道を通って移動するのは危険なため、この森を抜けて帰ることにする。自然の険しさがちょうどいい修行になりそうだ。


 俺も師匠になった以上、こいつ等を守らなければならない。一緒になまった体を鍛えなおすことにしよう。

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