第8話 4人目の邪魔者
自分の忍耐力の無さに絶望した俺は癒しを求め、ギルドにいるアイシャへ会いにむかった。
今日は珍しくセツナがついて来ている。
「セツナ、お前がついて来るの珍しいな」
「はい。ライカが行くと煩かったのですが、本日は報酬の受取がございますので、私が参りました」
今日は昨日達成したS級ミッションの報酬の受取があるようだ。確かに大きな金額の受け取りになるから仕方が無い。セツナは家の金庫番として家計をやりくりしてくれている。
ライカの奴が異常なほど食べるからな。あいつには管理はさせられないし、ミリアは面倒だといってやらない。セツナには家事全般を任せてしまっている。非常に申し訳ない。
当然俺も最初は手伝っていた。しかし片腕では何をするにしても時間がかかってしまう。結局俺の仕事はトイレと風呂掃除ぐらいしか残らなかった。その代り、この2つに関してだけは全力で行っている。常にピカピカになるまで磨いている。
セツナと話しているとすぐにギルドに到着した。セツナはマークと報酬に関する打合せがあるというので、俺はいつもどおり2階へ上がろうとした時だった。
殺気を感じた俺は一歩後ろへ下がる。鉄球が目の前をかすめ、ギルドの床を砕く。
「アルバート、よく躱したな」
「おい、くそじじい。危ねえじゃないか。今の殺す気だったろ!」
「儂のかわいいアリテイシヤにお前を近づけさせるわけにはいかんからな。さっさとここから消えろ」
「うるせえ、俺はアイシャに用事があるんだよ。じじいが失せろ。棺桶の中に入れてやろうか」
このじじいはラングリット・デンバー。アリテイシヤ・デンバー、つまりはアイシャの父親である。2年前までこのギルドの長をしていたが王都ギルドの元老院の一員として招聘され、副ギルド長だったアイシャに後を任せ街を出ていった。
「何でじじいがここにいやがる」
「なーに、アリテイシヤにつきまとう悪い虫を潰しにきたのよ」
「心配するな、くそじじい。そんな虫は俺が潰しておいてやるから、さっさと王都へ戻りやがれ」
王都ギルドのお偉いさんがこんな田舎街へ戻ってくる要件が私用なはずがない。どうせ面倒事だろう。
「ちょっと、パパ。ギルドを壊さないでよ」
「アリテイシヤ。これは違うんだよ。アルバートのせいなんだよ」
「パパ、遊ぶのは話の後でいいでしょ。アル、大変なのよ。話があるから部屋に来て」
「セツナ、面倒事のようだ。一緒に来てくれ」
「はい。師匠」
アイシャからの呼び出しを受け、セツナを伴ってギルド長の部屋に向かう。
「それで、大変な話って何だ。」
ギルド長の部屋に入り、早速要件を聞く。
アイシャがラングリットと目くばせをすると、ラングリットが頷き話を始めた。
「今回儂がこの街に来たのは、端的に言うとアルバート。お主を捕らえに来たのだ」
その瞬間、セツナがレイピアを抜きラングリットの眉間に突きつけている。
「ま、まて、話は最後まで聞け」
「セツナ、話が進まないから、控えておけ」
「承知しましたわ」
「それで。俺を捕らえると言ったが、俺は囚われる様なことは何もしちゃいないのだが」
「そうだ。だから儂が来たのだ。他の者が来たら問答無用でお主を捕らえようとして、この嬢ちゃん達にやられてしまう。そしてお前は反逆者としてギルドに追われることになってしまうからの」
じじいは一応俺のことを心配して、俺の捕縛任務を受けた様だ。話くらいは聞いてやるか。
「さて、端的に話をすると嬢ちゃん達に再三に渡り、王都へ来るように通達があったと思うが、これを断っておるな。それに対し、王都に恨みがあるお主が意図的に邪魔をしているという容疑がかけられている」
「俺はそんなことしちゃいない!」
「そんな事は儂は分かっている。しかし他の元老院連中はお主を潰せば3人のS級冒険者が手に入ると思っておるのだ。バカな奴らだ。虎の尾を踏んだことに気付いてない愚か者共め。これを期に一掃してくれるわ」
何てこった。こいつ等王都から呼び出しを受けてたのか。全く知らなかった。
「セツナ。王都から呼び出し受けてたのか」
「師匠すみません。何回か来ておりました。ですが、私たちは無視したわけでなく、きちんといかない旨の連絡はギルドを通して行っております」
「そうなのか?」
アイシャへ問う。
「そうよ。支部としても3人を手放すことはできないと連絡しているわ」
どういう事だ。ギルドと本人から行かないと意思表明しているにも関わらず、俺が疑われている。冤罪もいいところだ。
「アルバートよ。経緯はどうあれ、お主には査問委員会にて弁明をしてもらう他、道は無い。一緒に王都へ来てもらうぞ」
「やだよ。」
俺は王都のギルド連中への恨みを忘れてない。
査問委員会に大人しく出席しても難癖つけられ、反逆者に仕立て上げられるに決まっている。
「では、どうするのだ。ここで儂を倒して、国外にでも逃げるか。バカなことを考えるな。確かに元老院の連中は信用ならんかもしれん。昔のお前にした仕打ちはひどいものだった。あれは到底許せるものではない。だが、今回は儂がおる。お主に冤罪などかけさせたりはしない。先にも言ったとおり、腐敗したギルド上層部を一掃するチャンスでもあるんだ」
奴らは俺に落ち度があったわけでは無いにも関わらず、資格を剥奪し、ミッションを受けられない様にした。それを救ってくれたのがこの街のギルド長だったじじいだ。このじじいは確かにむかつくが過去に大きな恩があることも確かだ。
「アル。パパと一緒に王都へ行って。そして連中をブッ飛ばして来て。貴方にはそのための剣が3本もあるじゃない」
アイシャの言葉が俺に決意させる。
「セツナ。お前はついて来てくれるか?」
「我が身、わが命は師匠に捧げております。どこへなりともご一緒いたします」
セツナはいつになく真剣に返事をする。普段の少しふざけている感じを一切出さず、一角の剣士として儀礼をもって一礼する。
「わかった。王都へ向かう。セツナ。他の二人とともに決戦用装備を準備せよ。王都のくそ共を蹂躙する」
「はっ」
俺を陥れたくそ共め覚悟しやがれ。今の俺は5年前の俺じゃない。最強の剣を3本も手に入れた。今度は俺のターンだ。良い様にはやらせんぞ。
こうして、5年ぶりに忌まわしき王都へ向かうことが決まった。
俺を呼び出したことを後悔させてやる。
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