第7話 忍耐力
社会的抹殺を恐れた俺はしぶしぶながらもライカのお願いを聞き入れた。
「師匠、昔みたいに一緒に寝てください」
それがお願いだった。確かにこいつらが小さい頃は金も無かったから汚い小さな宿屋で1部屋借りて4人で一緒に寝ていた。
よかった。難易度普通だった。いつも勝手に布団に入ってきているから、いつもと変わらない普通のお願いだ。とその時は思った。
「師匠、それでは失礼いたします。ふふ。温かいです」
ライカが布団へ入ってきたことで、深夜の肌寒さが和らぐのを感じる。右半身に柔らかな感触を感じる。
俺は石だ。俺は石だ。何も感じるな。無になるのだ。
「師匠。どうされたんですか。何か言って頂けませんか。当ててるんですよ」
「いいから早く寝ろ」
ライカの温もりが俺を浸食していく。左腕に全神経が集中しているようだ。気を抜くと意識が持っていかれそうになる。こいつらは何で裸で布団に入ってくるんだ。
俺は石だ。無になれ。
「師匠。何をぶつぶつと言われておるのですか」
「何でもない」
「師匠、王都からこの街へ帰る途中、私たちが震えていたら、こうやって一緒に寝てくださいましたよね。私はそれが何よりも嬉しかったのです。親の温もりを知らずに育った私たちにとって、師匠のことを父親のように思っておりました」
あの当時のこいつ等はまだ10歳程度だった。正確な年齢は分からないらしい。物心がついた頃には何処かから移動している馬車の中だったらしい。王都に着いたタイミングで3人で逃げ出し、路地裏で死にかけていた。当然、父も母も覚えていないし、自分たちの事も分からない。そんな時に俺が拾ったわけだが、見事に懐かれてしまった。
最初は一匹でも生き残れば世話役として使ってやろう程度にしか思っていなかった。5年も一緒に過ごせば俺も情が湧くってもんだ。
「そうか。それは嬉しい限りだ。師匠といえば親も同然だ。今後も親として接する分には全く異論はないのだが、その年になって一緒に寝るのはどうかと思うぞ」
ミリアは、まだ小さいからいいが、ライカとセツナは成人してるから駄目だろう。
「私たちはまだ子供です。師匠の温もりを感じて眠りたいんです。親の温かさを必要としています。どうか一緒に眠るのをお許し頂けませんでしょうか」
「服を着て寝るんだったら別にいいぞ」
「えっ。よろしいのですか! では明日からは毎晩お伺いいたします。やった。セツナ達にも教えてあげないと」
いや、待って。間違った。昔の感動的な話にほだされて、間違った。これは駄目な奴だ。
「待て、ライカ。間違った。毎日は駄目だ」
「えっ。師匠は戦いの最中に間違ったからやり直しさせてくれなんて通じると思っておられるのですか」
「……」
「ということで。お許しいただけてとても嬉しいです」
また、嵌められた。こいつは、やはり油断ならん奴だ。最初から全部計算しているのか。でもこいつ頭はあまりよろしくないんだが。まさか天然だとでも……。
思考の渦に囚われていると、ライカは次の手をうってきた。
「師匠これはお礼です」
むにゅ。
「どうぞ。存分にお揉みください」
うむ。実に柔らかく、弾力のあるよい手触り……じゃない。
ライカはその恐ろしいまでの巨大な兵器を用い、俺の牙城へ攻め入ってきた。危うく一撃にして陥落するところだった。
「もうよろしいのですか。明日からはきちんと服を着て寝るので、生で触れるのは最後ですよ。本当によろしいのですか。」
ライカが悪魔のごとしささやきを入れてくる。
う、そう言われてしまうと、もうちょっと揉んでもいいかな。柔らかいしな。
もう陥落間際というところで神は俺を見捨てなかった。
『何を考えているアルバートよ。血迷ったか。お主のことを信じて待っている女がいるのだぞ。』
そうだった。俺の中の神よ。気づかせてくれてありがとう。すまんアイシャ。おっぱい好きの俺を許してくれ。
「ええぃ。止めろ。俺から離れるんだ」
よし、言ってやったぞ。全ての気力を振り絞り、アイシャのために悪魔と戦う。
「師匠、セリフと行動が伴っておりませんが……」
あれ、手が離れない。くっ。この魔乳が悪いのだ。俺を惑わす魔の乳め。
俺の抵抗もここまでか。もう気力が…。
朝なのか。あれから何時間がたったのだ。俺は負けたのか。あれからの記憶が定かではない。
横には裸の少女がスース―と寝息をたてている。事情を知らない人が見たら、完璧に事後だな。
神に誓って、一線は超えていないぞ。あくまで揉んだだけだ。偶然。たまたま偶然、手がある位置に、おっぱいがあっただけなんだ。
うおーー。すまん。アイシャ。お前という者がありながら、目の前のおっぱいの誘惑には勝てなかった。忍耐力が足りなかったんだ。
よし修行に出かけよう。1か月くらい山に籠って精神を鍛えなおそう。こいつ等に負けない精神が必要だ。
でも、山にも追って来るんだろうな。
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