第6話 帰還

 アイシャとのデートを終えて、家でまったりしていた。アイシャから紹介されたレストランはやはり美味かった。ボアのステーキが特に絶品だった。ただし、値段も超絶的だった。

 あと少ししたらミリアが眠るだろう。既にウトウトし始めている。

 アイシャの家に行けるチャンスだ。ミリアは一度眠ると少々の事では起きない。


「師匠、ただいま戻りました」

「戻りましたわ」

なに! 早すぎる。もう帰ってきやがった。バカな。今回の討伐対象はドラゴンだぞ。しかもワイバーンの様な亜竜じゃなくて、真竜の風竜が対象だったはずだ。あれは3人がかりでも3日はかかると予想していたのに、まさか日帰りで帰ってきやがった。

「どんなマジックを使いやがった。日帰りできる距離じゃない。本当に討伐できたのか」

「はい。セツナに飛んでもらって強襲して首をはねてやりました。一撃でした」

 ギルドカードを見せてくる。ギルドカードには直近で受けた依頼とその結果が記載される様になっている。確かに風竜討伐の結果が記載されている。

 ライカがエヘンと胸を張る。はち切れんばかりの爆乳が揺れる。

 そんなばかな。相手は空を統べる風竜だぞ。それを空で相手をして1撃だと、こいつ等ついに地上だけでなく空でも最強になりつつあるんじゃないか。まだ10代というのが末恐ろしい。

「それはご苦労だったな。疲れただろう。先に休んでいいぞ」

「いえ。私は一撃振るっただけですので、全く疲れておりません。師匠のお世話をさせていただきます」

「私はずっと飛んでたから疲れたわ。先に休ませていただきますわ」

「セツナ。おやすみ。ライカも気にせず休んでくれ」

「いえ。師より先に休むなんてありえません」

 くそ、この堅物め。俺はいまからアイシャのところに行きたいんだよ。

 アイシャごめんよ。少し待っていてくれ。

「ライカ、風呂に入ってきたらどうだ。汚れてるぞ」

「そうですね。空を飛んでいたのでホコリがすごいですね。では少し失礼いたします」

「いや、俺ももう寝るから、そのまま休んでくれ」

「そうですか。それではお休みなさいませ」

「おう、今日はご苦労だった」


 ライカが風呂へ向かったのをしっかりと確認し、さらに5分ほど待つ。

 よっしゃ今いくよ。ハニー。待っててね。


 どうやら師匠は出ていかれたようですね。全く困ったお方だ。私の鼻から逃れれるわけ無いのに。

 私は犬の獣人だけあって、嗅覚には自身がある。師匠がたとえ街の外にいたとしても、その居場所は瞬時に分かる。

 この方角はギルド長のお家の方ですね。先回りすることにいたしましょう。


 アイシャの家の前に着いたが問題が発生した。

 何故、ライカがそこに立っている?

「師匠。隠れているのは分かってますよ。出てきてください」

 ばぁかな。何故分るんだ。いつもいつも。俺は家を出る前からずっと気配を断っているんだぞ。

「無駄ですよ。そこの角に隠れているのは分かってます。潔く出て来てください」

 どうやら本当に居場所までバレているようだ。

「降参だ。何故分かった」

「師匠、それは秘密です。タネを教えるマジシャンはいません」

「それはそうだな。では師匠として命じる。ここから去れ」

「弟子としてお答え致します。嫌です」

つーん。といった感じで横を向く。

「何でだよ。師匠、師匠というのは言葉だけ、俺の言うことは一つも聞かない。そんな弟子はいらん。今すぐ出ていけ」

 結構強め目の言葉を吐く。

「い、嫌です。師匠の下を離れるなんてできません。言いつけを守らず申し訳ございません。脱げと言うなら脱ぎますから、どうかお側に置いてください」

 ライカはいそいそと服を脱ぎだした。

 ちょっと待て、俺はそんなことは言ってない。出て行けと言っただけで、脱げなんて一言も言ってない。

「師匠さん、あんた外道か。こんな可愛い少女を路上で裸にさせるなんて」

 俺が隠れていた所とは反対の路地裏から、ホームレスのオッチャンが出て来て声をかけてくる。

「ライカ、待て。脱げなんて言ってない。出て行かなくて良いから、早く服を着るんだ」

 ライカに服を着るように促し、すかさずホームレスのおっちゃんへ金を渡す。

「おっちゃん。これ口止め料な。今日は何も見ていない。良いな」

「おっ、師匠さん太っ腹だね。俺は何も見てないし、聞いてないぞ。でもあっちの奴らにも口止めしとかないとな」

 何だこの人数は。いつの間に集まってきやがった。さっきのライカの大声が近所の野郎共を呼び寄せやがったか。

「ライカ、早く服を着ろ。見られているぞ」

 先程から全く服を着ようとする素振りをみせない。

「有象無象共にいくら見られようと、恥ずかしい様な体はしておりません。どうぞ師匠も気のすむまでご覧ください」

 ライカは裸を見られることを全く気にしていないようだった。寧ろ見ろとばかりに腕を腰に当てて仁王立ちをしている。これが種族間の意識の違いなのか?

 男たちからは歓声やら口笛が聞こえてくる。

「勝手にしろ。俺はもう帰るからな」

「師匠、お待ちください」

「裸で着いてくるな」

「いえ、どうせこの後湯あみいたしますので、着るのも面倒になりまして」

 それは困る。ここから家までは10分ほどかかる。その間、裸の女の子を連れて歩いて帰るなど狂気の沙汰だ。

「お願いします。頼みますから服を着てください。俺が社会的に抹殺されてしまいます」

 俺は折れた。

「では、一つお願いを聞いてくださいますか」

 ライカから恐ろしい提案がなされた。しかし俺には断ることなんてできよう筈もない。

「聞きます。聞かせていただきますので。何卒、服を着てください」

「分かりました」


 よかった。漸く服を着てくれた。どうしてこうやることが突拍子もないんだ。獣人だからか? 俺の知っている彼らはいたって普通の冒険者だった。こいつ等が異常ということだな。

 それにしても、怖い。いったい何をお願いされるのか。


 アイシャ。今日は行けそうに無いよ。間違えた。今日も君の所へは行けなかったよ。

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