第5話 ミッション

 今日は朝からギルドへ来ていた。

「今日は何かミッションあるかなー」

「師匠、依頼を受けられるのですか」

「良いのがあったらな」


 俺はこの街へ戻って来てから再度冒険者へ登録した。当然以前の階級はリセットされ、初級のF級からスタートした。

 丁度良かったので弟子の3人も一緒に登録して冒険者活動を始めた。食うために仕方なくという奴だ。

 現在俺はB級だ。A級になるための試験は単独で指定されたモンスターを狩らなければならないが、片腕の俺には難しい、アイシャからの提案は断った。よって今後もずっとB級の予定だ。

 B級の俺にS級の3人が弟子入りしているんだから、俺はS級に寄生している情けない男という認識を冒険者の中ではされている。

 中には俺が3人の弱みを握っていると思っている輩が俺を倒しに来ることもある。

大概がライカに倒されて終わりだ。

 俺はB級程度で満足している。A級に上がると危険な任務も増える。俺は昔ほどの情熱は既に無くなってしまったのだ。


「それでは、ご一緒させていただきます」

「いらん。ついてくるな」

 お前たちがいると危険なS級の依頼を受けさせられんだよ。俺は自分の階級のB級のミッションでいいんだよ。危険はごめんなの。

「お前たちもアイシャから指名依頼受けてただろ。そっちを優先させろよ」

「ぐぬぬ。確かに昨日指名依頼を受けましたが、期日にはまだ余裕があります」

「依頼達成が早まれば、その分犠牲が減るんだぞ」

「ぐ、そう言われてしまうと……」

「分かった、分かった、今日は依頼を受けないから行ってこい」

「本当ですね。それであれば承知いたしました。師匠は依頼を受けてはいけませんよ」

「分かったって」

「それでは、行って参ります」

「おう。行ってこい」


 実はここまでの流れは計画通りだ。俺は文通という古い手法でアイシャと連絡をとり、この作戦を決行したのだ。

 よっしゃ。行ったな。さてとあいつ等がいない間に……。

「アイシャ。待ったか」

「アル待ってたわ」

「やっと二人きりになれたな。今日はデートを楽しもう」

「うん。アルとデート楽しみ♡」

「さ。行こうか」


「師匠。何処に行く?」

「「…………」」

 な、ん、だと。貴様は依頼ででかけたはず。

「ミリア、何故居る?」

「私がいると達成遅れる。私は師匠の見張り」

 終わっ、た。せっかくのデートが……。アイシャも青い顔をしている。無理もない。二人で計画して日帰り困難なミッションをあいつ等に受けさせたのに……。


 まるでライカとセツナの勝ち誇った、そして俺を小馬鹿にする嘲笑が見えるようだ。

 いや、まだだ。まだ終わっていない。

「なぁ、ミリア。今日はアイシャとデートなんだ。見逃してもらえないか」

「無理」

「そこを何とか」

「ライカに怒られる。怖い」

「ミリアが見逃してくれたら、俺もライカに言わない。そしたら怒られないだろ」

「ん。そうかも」

 よし、後一押し。ミリアなら押し通せる。

「な。ミリア、頼むよ」

「分かった。でも条件」

「何だ」

「私もデート。一緒に」

アイシャと目配せする。頷くアイシャ。

背に腹は変えられん。

俺は左手を出す。

「交渉成立だ。ライカ達には内緒な」


「それで、アル、今日は何処に行く予定なの?」

「ミリアが増えたからな。場所考えないと」

「何で? 最初に行く予定だった所でいいじゃない?ね、ミリアちゃんもいいわよね」

「師匠。そこでいい」

「駄目駄目。絶対だめだ。そこは二人で行くとこだから、今日はだめ」

「アル、そこってまさか……。もうアルのエッチ」

「師匠はエッチ。いつもライカとセツナのおっぱい見てる」

 ジトー。アイシャが死んだ目で俺を睨んでる。

「冤罪だ。俺が見てるんじゃない。あいつ等が見せてくるんだ。信じてくれアイシャ。俺は君だけを想ってるんだ」

 ジー。

 まだ疑っている様だ。確かに俺はおっぱいが大好きだ。そこは認めよう。だが誓おう。俺は触ってはいない。

「本当だ。信じてくれ。誓って手を出したりしていない」

「ん。師匠は手を出さない。見て楽しむだけ。今は」

 おまえー。助けるならきちんと助けろよ。


「ふふふ。うそー。アルがそんなことできないの知ってるもの。昔から奥手なんだから。早く私に手を出してね。待ってるわ」


 アイシャからのお誘いを受けてしまった。これは早速今晩にでもお伺いしなければ。


「よーし。それじゃあ、今日は美味しいものを食べに行きましょ。とっておきのお店があるんだから。ミリアちゃんもそこでいいでしょ」

「美味しいもの。食べる」

「よっしゃ。じゃあそこに行くか。アイシャ。案内してくれ」

「いいわよ。勿論アルの奢りね」

 すかさず、俺の左腕に抱きついてきて、腕を絡める。

 ミリアは尻尾で俺の腕のない右側の袖を掴んだ。何処か寂しげだ。

 俺に両手があれば手を繋いでやれるのだが、すまんなミリア。俺の片腕ではお前たちを守ってやれないんだ。だから俺の下を出て、他のいい人を探すんだ。

 そう言ったらまた大泣きするから言えないけど、本気でそう思ってる。

 早く大きくなって巣立っていけ。お前たちなら何処へでも、何処までだって行けるんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る