2章 戦争の始まり

第4話 朝稽古

 まぶしい。

 朝の光が窓から差し込んでくる。日の出とともに目が覚める。

 右側にぬくもりを感じる。今日は誰だ。

 毎晩日替わりで俺が眠った後に誰かしらが潜り混んでくる。布団から羽が飛び出ている。今日はセツナのようだ。

「おい、セツナ。おき……」

 セツナを起こそうとして、布団を剥いで固まってしまった。

「何で服を着てないんだ!」

 セツナの立派な羽とプリンとしたお尻が丸見えだ。

「ふあぁー。師匠、おふぁようごじゃいマシュ。昨晩も激しかったですわ」

 俺は何もしていない。当然、昨晩俺は一人で布団に入って寝た。

 こいつ等は殺気が無いから、部屋に入ってきても気付けない。そして気配の消し方は暗殺者並みだ。これではどうしようもない。


 俺はセツナを布団から蹴り出した。

「あーん。師匠。寒いですわ」

 裸のまま騒ぎ出す。蹴り出したこと後悔した。俺が出ていけばよかった。

「知るか。服を着ればいいだろ。勝手に俺の布団に入るな」

「勝手じゃないですわ。一緒に寝てもいいですかと以前に伺いました」

「5年も前のことじゃねーか」

「でも、良いって言われましたわ」

「それはお前たちがまだ子供だったからで。今はまずいだろ」

「師匠と弟子が一緒に寝るのはまずくありませんわ」

 不味いわ。目の前で揺れてるから。それをまずしまって。

「いいから服を着てくれ」

 諦めたのか、大人しく服を着始める。

「では、この話はまた後で。稽古の時間ですわ。師匠」


 朝から勘弁してくれ。疲れた。

 そもそも、稽古なんて俺にはもう教えることは何も無いんだが。むしろ俺が稽古されてる側なんじゃないだろうか。


「稽古とはいえ、手を抜いたら意味がない。常に全力でやるんだ。」

 確かに言ったさ。言ったな。5年前にな。

 でも今は加減してくれーーー。死んでしまう。

 うおっ。危な。躱さなかったら首が飛んでたぞ。

「流石ですわ。師匠」

「師匠。流石」

 セツナとミリアが褒めてくる。躱すだけで、必死なだけだ。反撃なんてする暇が無い。ライカの剣が上から迫る。


 ビクッ。体が一瞬膠着する。まただ。上からの斬撃に体がすくむ。やばい反応が遅れた。これは躱せない。

「それまでですわ。」

 セツナが細いレイピアの先端でライカの剣を抑えている。凄まじい技量だ。どうやったらあの位置から一瞬でここまで来れるんだ。

「師匠、ありがとうございました」

「相変わらず、見事だ。そろそろ出て行くか?」

「私は先程、剣が止められませんでした。まだまだ未熟者です。セツナがいなければ、師を斬っていたかもしれません。

セツナ。次は貴方と手合わせお願いします」

「分かりましたわ。お相手いたします」


「師匠、お疲れ」

「ミリアは鍛錬しないのか」

「私はあの二人の速さにはついていけない。落ちこぼれだから」

 ミリアはそう言うが、別に落ちこぼれではない。単に戦闘スタイルの違いだ。完全なるパワータイプ。力でゴリ押しするのがミリアだ。140センチ位の小柄な体で2メートル以上のハンマーを振り回しながら蹂躙していく。そして体には魔法で作った土の鎧を纏い、一切の攻撃を無力化する。まるで歩く攻城兵器。それがミリアだ。

 対してセツナは先程見せたように技術タイプだ。レイピアを使った剣の技は俺の目では見えない。それに加え、魔法の腕も3人の中では格別に上手く、魔力量も多い。

 ライカは雷属性、ミリアは土属性しか使えないのに対して、セツナは水、氷、風、雷の4属性を操る。その中でも氷属性を最も得意としている。


「お前は落ちこぼれではないぞ。誰もお前の力には勝てんからな。単に得意分野の違いだ」

 ミリアが座っている俺の膝の上に座ってくる。

「師匠、ありがと」

 俺はミリアの頭を撫でてやる。しっぽが腕に絡みついてくる。甘えているようだ。こういった所は子供のときから変わらない。俺も娘が欲しくなる。


「あー、ミリアだけずるいです。師匠私も。撫でて欲しいです」

「私も撫でて欲しいですわ」

 ワチャワチャしてきた。


「お前たち、稽古はどうした。まだ途中だろ」

「あのとおりです」

 剣が砕けて捨ててある。あれでは無理だな。

「今日の稽古は終了だな」

「よし、飯にするか」

「「「はい」」」


「師匠、朝食の前にお風呂はいかがですか。お背中お流しします」

「いらん」


 今日も騒がしい1日が始まる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る