過去4 焼肉
「そうそう。1号、2号、3号。間違っても生の魔物肉を食べるなよ。死ぬぞ。毒があるからな」
3人が震えている。やはり、俺が離れたら、食べるつもりだったな。
実は死ぬ訳ではない。人間が生の魔物肉を食べると暴れだす。そして周りの者を傷つけ、結局殺すしかなくなるのだ。実は魔物になっているという噂もあるくらいだ。
でも、何故か火を通すと大丈夫になる。そしてめちゃくちゃ旨くなる。病みつきになる。
こいつ等も今日から魔物肉中毒者の仲間入りだな。
「よーし。お前たち集まれ」
3人がノロノロと集まってくる。そろそろ限界か。無理もない。
「他にもしないといけないことはあるが、まずは食うぞ。冷やしている肉を持ってこい」
3人は急に元気になって駆け出した。
「よし、肉を持ったな。ではまず、皮を剥ぐ。そうだ上手いぞ」
俺は、片手しかないから上手く剥がせない。
「師匠、貸して。やってあげる」
「おう。助かる」
2号が俺の分も皮を剥いでくれた。正直助かる。一人では満足に飯も作れない。
「よし。焼くぞ」
俺は剣を抜く。3人がビクッと警戒するが別に敵が来たわけではない。
「燃えろ、紅丸」
剣が炎を纏う。俺の相棒は魔剣と言われる一品で魔力を込めるとそれぞれの特性を持った技を出せる。紅丸は炎を纏い、敵を焼き切る事が可能な魔剣だ。
だが俺はそんな事の為に紅丸を愛用しているのではない。
紅丸を地面に置く。
「肉を剣の上に置くんだ」
紅丸便利。料理に暖房にと重宝するぜ。俺が手放さなかったのもこれが理由だしな。路上で生活する場合、暖は不可欠だ。紅丸には助けられた。
3人の弟子たちも恐る恐る肉を焼き始める。
香ばしい匂いが辺りに漂い始める。紅丸からは哀愁が漂っている気がする。すまん。紅丸。また明日も頼むわ。
「もう食っていいぞ」
俺が声をかけるなり、3人とも我を忘れたように肉へかぶりついた。
泣きながら食ってやがる。
「一人分には十分すぎるくらいあるだろ。ゆっくり食え」
「いえ、もう無くなりました」
なに! 10キロ以上はある肉の固まりだぞ。食えるわけない。
いやホントに無いよ。肉が。
2号と3号がお腹をポンポコにして倒れている。1号は俺の肉を凝視している。
「お前、もしかしてまだ食えるのか?」
「はい。まだまだ食べられます」
「食っていいぞ」
「でもそれは師匠の分です」
「気にするな。俺はもう腹一杯だ」
俺が肉を渡すと1号は嬉しそうに食べ始めた。ほんとに軽く平らげやがった。
食事が終わり、野営の為に洞窟へ移動してきた。2号と3号はもう寝ている。疲れたんだろう。当然だ。1号は他の2人より丈夫なようだ。
「師匠。わ、僕たちは今日はじめてお腹いっぱいになるまでご飯を食べました。ありがとうございます。僕たちを弟子にしてくれて」
「気にするな。俺はこんなだからな一人でできない事が多い。紐は結べないし、肉は切れない。お前たちに助けてもらう必要があるんだ」
「はい。わ、僕は必ず強くなってみせます。そして一生師匠の面倒をみます」
「一生なんて必要ない、明日から俺の故郷を目指す。故郷に戻ったら嫁でも探すから、一人前になったらさっさと出ていって構わない」
「決めたのです。貴方に生涯仕えます」
まぁ、子供の言うことだ。そのうち忘れるだろ。
「はいはい。分かった、分かった。さぁ、腹一杯になっただろ。今日はもう寝ろ。疲れただろ」
「はい」
1号も眠ったか。名前を聞きそびれてしまった。明日でいいか。
何かに巻き込まれたのか。いつからこんな生活をしていたのだろうか。
1号の生きたいという強い真っ直ぐな意思。俺が失ってしまったものを守りたいと思ってしまった。だから取り敢えず弟子にすることにした。2号も3号も思ったより使えるし、道中賑やかになっていいか。
冒険者時代に戻ったようだ。5年前の楽しかった時代へ。
一人前になるまでは面倒を見てやるかな。
よし、まずは明日の朝食の食材を集めておくか。
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