過去3 狩り
「翔月斬!」
突進してきたジャイアントボアを躱し、側面から首元にスキルを使用したスラッシュを叩き込む。
やはり威力が弱い。以前であれば首ごと断ち切っていた。今は致命傷は与えているが、骨が切れない。弱い自分に嫌気がさす。
目的は達したから良しとする。
「おい。運ぶのを手伝え」
「師匠すげぇ。剣からなんか出た」
「動きが見えなかった」
「腹減った」
「おい。騒ぐな。ここには魔物が結構いるんだぞ。はやく血抜きして解体しないと、こいつの肉を狙ってやってくるぞ」
「「「どうすればいい?」」」
息ぴったりだな。
「弟子1号来い。お前はこの紐を持て」
「弟子2号来い。お前はこっちの紐を持て」
「弟子3号来い。お前は見張りだ。この肉を狙う敵が来るかもしれん。周りを警戒しろ」
1号と2号に狩猟用の縄の結び方を教える。片腕の俺ではもう結ぶことも簡単に出来ない。
「師匠、どうですか?」「師匠、どう?」
「いい感じだ。俺はこの通り片手しか無いからな。今日からはお前たちに頼むからな。よし、その紐を貸せ」
「師匠何するの?」
「ボアをあの木に釣り上げる」
「えっ。あれを! 無理だよ。岩みたい大きいよ」
普通じゃ無理だな。
「まぁ見ていろ」
俺は、人差し指へ意識を集中する。そして文字を描く、魔法文字だ。今回使うのは身体強化魔法だ。ボアの重量軽減魔法を使ってもいいが、そっちは失敗するかもしれない。師匠として失敗は恥ずかしいからな。
青白い輝きが体を包む。よし成功だ。これで3分程度身体能力が2倍になる。
「おおお。師匠が光輝いている!」
「まさか神」
「これが魔法だ。今度教えてやる」
ボアを縛った紐を持って木に吊り上げる。500kg位か。まあまあの大物だな。
しまった。吊り上げたはいいが、この紐を縛ることができない。このまま吊っておくしかないか。駄目だな。3分じゃ時間が足りない。今日は解体は諦めるか。このままじゃ、他のモンスターが来てしまう。
「師匠。何か来る」
うわ。言った側から来やがった。
「1号、2号。ボアの紐を外しておけ。逃げるぞ」
俺は剣を抜き、3号の下へ。
「おい。3号。どっちだ」
「あっち。いっぱい」
何! 俺には分からんぞ。何処だ。
「何処だ? 見えないぞ」
「まだ見えない。もっと向こうの方」
「見えないのに何か来るのが分かるのか?」
「分かる」
これは思わぬ拾い物かもしれん。こいつがいれば旅の危険が激減するぞ。でも何で分るんだ。
「今日はボアの解体は諦める。足肉を持って逃げるぞ」
剣を振るって足を断ち切る。
「一人1本持つんだ。重いけど頑張って運べ。それが今日の晩飯だ」
後ろからモンスターの咆哮が聞こえる。あれはゴブリン共か? こんな王都の近くに来るなんて珍しいな。あいつ等雑魚だけど誰かを守りながらだと厳しい。数だけは多いから難しくなる。逃げて正解だった。
「3号、こっちに何かいるか」
「いない」
こいつ、やっぱり便利。
無事、河原までやって来た。ここの先に洞窟があり、野営ができる。
「あと少しで洞窟に着く。頑張れ。」
こいつ等が子供の癖にめちゃくちゃ頑張るな。朝は死にかけてたのに。よくこんなにも歩けるもんだ。泣き言も言わないし。これは楽でいい。
「よーし。ここで一旦休憩だ。お前たちにやってもらう事がある。」
1号は体力がありそうなので、石を集めさせる。川の水をせき止めて、肉の血抜き肉を冷やすためだ。
2号には肉の臭みを取るための草を集めさせる。似たような葉が多いからかなり大変だ。
3号は俺と一緒に枯れた木の枝を集めさせる。夜の間の焚火に使うため、そこそこの量が必要だ。乾いた木じゃないといけないので、森の中では大変だ。
3人にそれぞれ指示を出す。
「「「はい、師匠」」」
うーん。いいね、師匠。慕われて感があるねー。さっきのボア戦以降、こいつ等が実に素直である。良きかな良きかな。
俺の強さを見せたことで少しは信頼されたようだ。
師匠。ありだな。
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