過去2 師匠
さて、ここから俺の田舎までは歩きで3月ほどはかかる。
ここは辺境ではないから、強いモンスターはでない。今の俺でも余裕だろう。急ぐ旅ではないし、路銀も少ない。食材は現地調達しつつ、歩き&野宿でゆっくり帰るか。
ん。何だあれは? ゴミか?
路地裏の片隅に何かが落ちている。物じゃないな。若干動いている。あれは浮浪者か? 王都では別に珍しい事ではない。人が多いだけあって、俺にように落ちぶれれば、路地裏で死ぬことになる。あれもそんなうちの一人だろう。ほっておけば死んで、ゴミとして処理される。珍しい事じゃない。
王都を去る今日、見かけたのも何かの縁だ。死にたいなら止めを刺してやろう。生きたいなら、どうするか。何か食わしてやるか。治療でもしてやるか。最後の気まぐれだ。
俺の前には汚いフード付きのマントを羽織り、倒れている3人の子供と思われる物体。浮浪者かとおもったら、孤児だったようだ。3人いたから大人が倒れてるのと勘違いした。
「おい。生きてるか」
死んでいたらそれまでだ。もうただの動かないゴミでしかない。
一体がピクリと動いた。どうやらこいつは生きていたようだ。
顔だけ動かして言う。
「何も盗ってない。何もしてない。ひどい事しないで」
結構ひどい目にあってきたようだ。
「お前らここで倒れてたら死ぬぞ」
「わかってる。たぶんこのまま皆死ぬ」
自分たちの運命を理解しているようだ。
「このまま苦しんで死にたいか。望むならば今すぐ止めを刺してやるぞ。苦しむよりはいいだろう。俺はこれから王都を去る身だ。少々のことはどうとでもなる」
俺は剣に手をかけ、提案してやる。底辺で苦しんだ俺が言うんだ。これからこいつ等が進むのは、とても苦しいだけの道だ。
「いやだ。苦しんででも生き残れる可能性があるんなら、このままでいい。3人で生き残るんだ」
「そうか。俺はどっちだっていいさ。今日でここを去る身だ。生きたいのなら生きてみせろ。そのためにこれをやろう」
俺は背負い袋から3つのパンと水袋を取り出す。
「ここにパンと水がある。お前一人で食えば、お前は三日は飢えが凌げる。だがこの二人は死ぬだろう。3人で分け合えば1日しか凌げない。さぁどうする」
目の前のガキの腹がなる。相当腹が減っているのだろう。
我ながら嫌らしい提案だ。俺ならば独り占めしてしまうだろう。こいつはさて、どうするんだろうな。
「分けて食う。」
「そうか!」
俺は嬉しくなった。俺もこの間までどん底をさまよった。この底辺の世界では奪い合うことが当たり前。強い奴だけ生き残る。その中でこいつは分け与えることを選べる。あの底辺で蠢く、くそ野郎達とは違う。こういった奴は見どころがある。
「お前、俺の弟子にならないか。俺が剣術と魔法を教えてやる。自分の力で生き残る方法を教えてやるぞ」
3か月以上の旅だ。世話役や荷物持ちが欲しかった。昨日まではセルカが助けてくれたが、片腕は何かと不便だ。少しは役立つだろう。
「どうだ」
「3人ともに鍛えてくれるなら」
そうきたか。やはり面白いなこいつは。
どこまで生き残るかわからんが、寂しい旅が少しは楽しくなるかな。
「おい。ガキ共。今日からお前らを鍛えてやる。俺のことは師匠と呼べ」
「はい」
「返事はお前だけか。ならお前はこれを食っていいぞ。後の二人は無しな」
「「ずるい」」
残りの二人が慌てて抗議する。
「当たり前だ。俺は別にお前たちがここでくたばろうがどうだっていいんだ。なんなら、止めを刺してやろうかとも提案したくらいだ。その方が楽になれるからな。だが、こいつはお前たちと生きたいと願った。だから助けてやったにすぎん。生きる意志がないのであれば、勝手に死ね。で。どうするんだ」
「「し、師匠。よろしくお願いします」」
「よし、お前らも食っていいぞ」
3人でわずかなパンを分け合って食べている。すぐに食べ終わってしまったようだ。食べ終わった手を寂しそうに眺めている。
「まぁ、あんな量で満足するわけは無いわな。よし。出発するぞ、食糧調達だ。」
「「「はい。師匠」」」
こんな時はいい返事だな。
「あの師匠。何で王都の外へ。食糧調達ではなかったのですか。」
「あぁ。それな。俺は金が無い。」
「だから?」
「現地調達だ。」
「現地調達?」
「そうだ。魔物を刈る。」
「「「魔物!」」」
「そうだ。ジャイアントボアがあの森には棲んでいる。あれの肉はうまいぞ。」
3人とも肉と聞いて涎が凄まじい。だだ漏れだ。
ジャイアントボア程度なら俺でも余裕だろう。あいつ等はただデカいだけだ。動きも直線的にしか動かないから楽勝だ。後はこいつらが巻き込まれないように注意するだけだ。いきなりの実戦経験だから使いものにならない。大人しく見ていてくれればいい。
さっそく稽古開始だ。見取稽古だ。
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