3章 王都

第9話 王都へ

 ラングリットの準備した馬車に乗り込み、意気揚々と出発して王都を目指す。既に3日が経過した。あと5日はかかる見込みだ。

 俺はもう帰りたくなっていた。王都遠すぎる。


 以前、王都から帰郷した時は1年以上かかった。子供のライカ達を連れて、修行のため、山や森の中を歩いて帰ったためだ。

途中で怪しい奴らに襲われたり、ドラゴンに出会って死に掛けたりしたが、あの過酷な1年があればこそ、今のあいつ等の強さだ。


 ライカとセツナは今日も今日とて俺の隣にどっちが座るかで喧嘩している。とても騒がしい。

「お前たち、狭い馬車の中で騒ぐんじゃない」

「ですが師匠」

「うるさい。ライカとセツナは外を走ってついて来い」

「そんな」

「承知いたしましたわ」

「セツナ、いい子だ。後で撫でてやる。ライカ、お前は一番見本にならんといけない立場だろ」

「うぐっ。承知いたしました。ずるいわよセツナ」


 うるさい二人が出て行ったお蔭で馬車の中は快適になった。ミリアは馬車に酔ったようで、初日からずっとぐったりしている。

 可哀そうなので、ひざまくらをして髪を撫でてやる。

「ししょ~。きもちいい。ありがとう」

「無理して、しゃべらなくていい。寝ていろ」

「ん」

 目を閉じてすぐに寝始めた。やはりきついのだろう。帰りは王都で薬を買っておこう。


「そうしているのを見るとまるで父親のようだな」

「ちっ。そんなガラじゃねえよ」

「悪童アルバートも変わったもんだの。儂も年をとったはずだ」

「うるせ。だまれじじい」


 ラングリットにはガキの頃から知られているので、非常にやりにくい。

 俺の親は冒険者だった。親がミッションに行っている間はギルドの酒場で簡単な手伝いをして両親の帰りを待っていた。


 俺が12の時にミッションに失敗し、親が死んだ。遺体は帰って来なかった。俺は生活のために冒険者になるしかなかった。

 その時にもこのじじいには世話になった。俺を鍛えてくれ、戦い方を教えてくれた。割のいいミッションを優遇してくれた。

 そして、腕とともに何もかもを無くした俺を救ってくれたのは、このじじいとアイシャ、そして弟子達だった。

 口では何だかんだと言いつつも、結局俺はこの5人のこと大切に思っている。一番大切なのはアイシャであることはゆるぎないが。


 あと少しで夜になる頃、馬車が止まった。今日は街によらず、外で野宿の予定だ。日が沈む前に準備が必要だ。

「師匠、走っている間、暇でしたので、オークを狩っておきました」

「解体も済ませております」

 何とびっくり。走って馬車と並走しつつ、狩り&解体までしていたらしい。狩りはともかくとして、解体はどうやってしたんだろう。


 ライカが狩ってきたオークをみて驚いた。

「おい、ライカ。これオークキングじゃないか?」

「確かにそうじゃな」

 ラングリットも同意した。

「じじい。キングがいるってことは、群れがあるぞ。さっさと討伐しないと大変な事になる。ライカ、これどこで狩ったんだ」

 オークキングが率いる群れは300以上の大きな群れになる。ほおっておくと近隣の食料という食料が食い荒らされてしまう。非常事態だ。

「ここに来る途中にあった森の奥の方です」

「それだと、ライオットの森のあたりかの。次の街のギルドで至急対策を依頼しよう」

 ラングリットはこの非常事態を冒険者に対応させるつもりのようだ。国の騎士を待っていると遅くなってしまうので、間違いのない対応策だ。

「師匠、こいつの居たところに500匹ほど豚が湧いておりましたので、一緒に始末しておきました。」

「……。じじい。問題ないらしい。飯にしよう。」


 改めてS級冒険者の出鱈目さに驚きつつも、ライカが狩ってきてくれたオークキングの肉を堪能した。5年前の旅の始めに食べたジャイアントボアの肉が安物の肉かと思えるほどの超絶品の高級肉だった。

 オークキングの肉は王都のギルドに出せば、オークションにかけられすぐに王城が買い取っていく。一般人には一生食べられない肉だ。


「もう食えん」

「儂もじゃ」

 大人二人はそうそうにリタイヤした。

「では、残りは私たちがいただきます」

 3人は流石獣人と言わんばかりの大食いだった。オークキングの肉は200キロはありそうだったがあっという間に食べつくしてしまった。

 おかしい。3人合わせても体重は120キロくらいだろう。200キロの肉の塊は何処に消えた。

「おい、じじい。あれどうなってるんだ?」

「アルバートよ。一ついい事を教えてやる。世の中にはな、知らなかったことにしておいた方がいい事がある。例えばだ、ある種族にはな、交尾を終えた後、栄養を蓄える為に雄を食う奴らがいる。彼女たちがそうじゃないといいな。アルバートよ」

「……」

「師匠、今晩の見張りの予定で……」

「まて、ライカそれ以上近づくな」

「どうされたんですか?」

「くっくっく」

 じじいが笑っていやがる。

「夜の番は俺がする。子供は早く寝なさい」

「私はもう子供じゃありません」

 ライカが大きな双丘を手で持ち上げて揺らす。ブルンブルンと大きく揺れる。

「がっはっは」

 じじいの笑い声が夜の荒野へ響き渡った。


 王都への旅はまだまだ続く。

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