第3話 ギルド長
モンスターの集団を殲滅した俺たちは報告のために深夜のギルドへ立ち寄った。厳密に言うと俺は同行しただけで、何もしてはいないが。単純に荒野へマラソンしに行っただけだ。
「おーい。マーク帰ったぞ」
冒険者ギルドの扉を押し開けた。
「おい、ライカ様と邪魔者が来たぞ」
「ライカ様、久々に降臨された。相変わらず神々しい。あいつ、邪魔だな」
「こんな時間にライカ様を拝めるなんて。美しすぎる。あいつ、死なないかな」
この酔っ払い共め。随分と勝手なこと言いやがって。文句があるならかかって来いや。
まあ、奴らの気持ちも分からんでもない。俺も美女を侍らす野郎がいたら、殺意を覚えるからな。
ライカ達の様な美少女かつS級冒険者を3人も抱えていれば、俺もいつ刺されてもおかしくは無い。
まあ物理的に不可能だがな。誰がこいつ等を抑えて俺のところまで到達できるだろうか。
事例①ライカ
「なぁなぁ師匠さんよ。ちょっと…ぶへらっ」
「無礼者。師匠の肩に触れようとは。貴様、殺すぞ」
事例②セツナ
「おい、そこのお前、貴族の私に……。うわぁ。凍る。体が。誰か助けて」
「そこの貴方。師匠になんと言う無礼な態度を。氷漬けにいたしますわよ」
いや、もうしてるし。
例③ミリア
「くくく、食事に混ぜた睡眠薬で、ぐっすり眠っているな。お前に恨みは無いが、死んでも……」
「うるさい。睡眠の邪魔」
「ぐはっ」
な。最強のボディガードだろう。
だがな。忘れていけない。こいつ等のせいで狙われてるんだからな。
「おい。マーク。あいつ等俺に絡んで来ようとしてるぞ。大事な冒険者だろ、何とかしろよ」
「師匠さん、ライカさん、お帰りなさい。どうでしたか」
無視か。
「余裕だ。余裕。ライカだぞ。10分もかからなかった。西のアルスタッド平原に惨殺死体が山ほど落ちてるから、近日中に冒険者雇って回収すればいい。早くしろよ。ほって置くとアンデットになるぞ」
あれだけバラバラなら、アンデットには成らないというか、成りようがない。けれども疫病は普通に発生するからな。
「はい。早速明日の朝から募集します。ギルド長が上でお待ちですので、お上がりください。報酬はそちらでお受け取りください」
「今日はライカがいるから、あいつには会いたくないんだが……」
「師匠さん、無理ですよ。諦めてください」
「師匠、大丈夫ですよ。変なことしたら斬りますから」
「いや、お前が帰ってくれれば問題無いんだが」
「嫌です」
「だよな」
俺たちはマークに言われたので報酬をもらうため、しぶしぶ2階にあがる。
「おーい、アイシャ。報告に来たぞ入っていいか」
俺はギルド長の部屋の扉をノックした。勢いよく扉が開かれる。
「アルーーー」
「待て!死ぬぞ」
アイシャがギリギリで留まる。
「そうだった。ライカちゃんがいるんだった。あぶない、あぶない」
ライカの剣が喉元に迫っていた。
「ライカ!アイシャに剣を向けるな。何度も言うが彼女を傷つけたら破門だぞ」
「ですが師匠。この女は!」
「アルゥ。ありがと。好きぃ」
「俺もだよ。アイシャ。愛してる。君が傷つかなくてよかった」
「あ~ん。アル~」
俺たちは熱い抱擁を交わす。そう何を隠そうギルド長のアイシャは俺の恋人である。こんなことをしても何の問題もないのである。ただし、邪魔者さえいなければ。
パチィ。イタっ。あ、ヤバい。ライカから雷撃が漏れ出してる。
「アイシャ。ヤバい。ライカがやばい。離れるんだ」
「嫌よ。ダーリンと離れたくないわ」
「マジでやばいんだって。見ろ電気が…」
「「あばっばばば……」」
ライカは怒りが頂点に達すると無意識で雷撃をあたりにばらまく。俺たちは見事に黒焦げにされた。
「師匠。私の前でふしだらな行動はお控えくださいと何度も申し上げておりますでしょう」
こいつ、自分の事は棚に上げて、注意してきやがる。
「それじゃあ、お前がどっか行ってくんない。彼女と二人にしてくれよ。報告は俺がしておくから」
「なりません。師匠を一人で行動はさせられません」
「俺、子供じゃないから! もう35歳。立派な大人だから」
「なりません。そういう問題ではないのです。何かあってからでは遅いのです」
くそー。この石頭め。こいつ、いつもいつも、ハニーとの時間を邪魔しやがって。ホントに早く出て行ってくれないかな。
そうだった、後10年居るって言われてた。これは全力で何とかしなければならない。
先ほどマークには軽く伝えたが、アイシャへ詳しく報告をする。
「ご苦労様でした。特にライカちゃん。これ、少ないけど報酬ね」
「報酬なんていらなかったのに」
「ダメよ。いくら恋人だからって、冒険者が無報酬で働くのは周りのためにならないわ。それに今回はライカちゃん達への依頼よ」
それもそうだ。俺への依頼じゃない。でもライカは報酬を受け取らない。俺が受け取る形にこだわる。俺はそれをセツナに渡すだけだ。生活費の管理はセツナに任せている。俺もライカも衝動的に買い物をしてしまうことがある。あまり賢いとは言えない。
「さあ。もう夜明けだ。ライカ帰るぞ」
「アル。もう帰っちゃうの。これから私も帰るから。私の家に来ない」
「そうしたいけどね。こいつが許してくれるわけないからな」
「そうよね。わかってるわ。次は一人で会いに来てね」
「わかった」
「師匠。無理なお約束はされるべきではございません。私が師匠を一人にするわけがございません」
「「くっ。ライカめ」」
ギルド長の部屋を後にし、家に戻る途中で考える。
俺の幸せのためにも、何としてもこいつ等には出て行って貰わねばならないようだな。お互いに譲れないなら、ここからは戦争だ。
勝てるわけないがな。
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