第2話 ライカ無双
マークからの詳しい依頼内容を聞く。
3千ほどのモンスターの集団が西方よりこの街へ進行しており、あと1時間ほどでたどり着くようだ。
残された時間はあまりない。さてどうするか。
「師匠、私が行ってまいります」
「いいのか。例によってギルド長からの依頼ってことは報酬は激安だぞ」
「構いません。師匠が暮らすこの街を守ることができるのであれば」
ホント良い子ね。あなた。
「師匠。つきましては私への報酬の前借りお願いします。いい子いい子してください」
ライカは短いがフサフサのしっぽを振り、目をキラキラと輝かせている。こんなにも期待されると断ることはできない。
これは持論だが、弟子は叱るよりも褒めて伸ばす方が育つ。弟子の育成に失敗している自覚があるから、この持論は間違っているかもしれない。
よ~し、よしよし。いい子いい子。お前はできる子だぞ。頭と耳を撫でる。ライカの金色の髪はサラサラで手を入れると絹のように滑り落ちる。
ライカははにゃ~と蕩けている。犬というよりまるで猫のようだ。
「よし、行ってきなさい。ライカ」
「はい、師匠。行って参ります」
「いってらっしゃい。ライカちゃん」
「zzz」
セツナが見送る。ミリアは寝ている。
まさかお前たちは行かないのか!
「待て、俺もいく」
ライカの実力であれば余裕だとは思うが、一人で行かせて、万が一何かがあってはいけない。何事にもバックアップは必要だ。
「ライカ、お前の今の実力見せてもらうぞ」
「はい」
「セツナ。朝までには戻るから、朝食と風呂の準備を頼む」
「承りましたわ。」
ミリアは寝てるからいいな。では、行くとしよう。
俺たちは時間がないため、剣だけを持って、街の外を滑走していた。
「師匠とご一緒できるのは恐悦至極でございます」
「今回、俺は手をださないからな」
「3千程度の群れなど蹴散らしてご覧にいれましょう」
流石S級冒険者。もちろん心配は必要ないと思うが、群れの中にドラゴンでもいたらどうなるか分からない。ドラゴンは流石にいないとは思うが。
と喋りながらも、俺は全力疾走中だ。ライカはまだまだ余裕がありそうだ。
もうちょっとゆっくり行かない?
「では、師匠。そろそろ本気でいきましょう」
え、もう無理だよ。
「う、うむ。俺はゆっくり行くから先に片づけておきなさい」
「承知いたしました。それでは失礼いたします」
ライカは魔法の準備を始める。
右手と左手で別々の文字を描いている。これがなかなかに難しい。右手と左手で属性の違う魔法文字を描かないといけない。
右手で絵を書きながら、左手では料理をするようなものだ。
訓練すればある程度できるようになるが、ライカは流れるように軽やかに行使する。早い。俺の全盛期よりも早く、正確だ。
「紫電」
これは雷の付与魔法と身体強化を同時に自分にかけることで、自身の基礎能力全てを爆発的にあげる。ライカの最も得意とする魔法だ。
「雷人アルバート」
それが俺の昔の異名だ。この紫電を使いモンスターを狩りまくっていたら、そう呼ばれていた。
俺は弟子であるライカ達にもこの魔法を授けた。3人の中ではライカしか使いこなせなかった。
「雷神ライカ」
ライカはそう呼ばれるようになった。俺よりも大分強そうな異名だ。実際に俺の何倍も強い。
ライカが一瞬で俺の前から消える。
遙か前方から砂煙と落雷が見える。戦闘が始まった様子だ。結構近い所までモンスターが迫っていた。たかが3千。今のライカであれば10分もあれば終わるだろう。
「うわー」
俺はこの世の地獄を見た気がした。モンスターがぐちゃぐちゃにされ、肉塊になっている。
ライカの相棒は双剣だ。速さに特化しているライカには合っている。
まさに雷の様な速度で走り、そのまま剣を振るう。小型ザコは細切れにされ、大型のザコは急所を滅多刺しにされている。
モンスターは大事な素材である。冒険者としては、もっと素材を大切にして欲しい。こんなザコでもこの田舎では資源になる。尤も、この数を解体とか面倒だから放置一択だが。
俺が無残な肉塊たちをドン引きして眺めていると、ライカが戻ってきた。
「師匠、終わりました。若干逃がしましたが、問題ない範囲だと思います」
「8分弱か。まさに凄まじいの一言だな」
1秒あたり6体も始末している。人間の目では捉えられん速さだ。
「まだまだでございます」
「そうだな。無駄な斬撃が多すぎるな。こんなに切り刻まなくてもな。もっとスマートに殺れないか。こんなに無駄に刻まなくても、一度斬れば十分だろう」
「申し訳ございません。術の制御が難しく。加減ができません」
紫電は身体能力を10倍以上にする。制御なんてできる方がおかしい。
「制御するにはもっと時間が必要だな」
「師匠は現役当時、制御できておりましたか」
「俺は人間だからな。制御できてたけど、そもそも俺の基礎能力を1としたら、ライカは10くらいある。それが強化されるんだから、仕方がないさ。後10年も修行すれば何とかなるんじゃないか」
そもそも。あんな速度での動きを制御できたら地上最強かもしれん。
「そうでございますか。さすれば後10年は師匠の下におる必要がありますね」
「…」
しまった。嵌められた。
「そんなことはない。後は自己研さんを積めば大丈夫だ。俺がいても教えれることはない」
「いえ。私は未熟者故、導いていただける存在が必要なのです。ですので、後10年ほどご指導の程宜しくお願いいたします。師匠」
ぐぬぬぬ。こいつ。これまで従順な振りをしてやがったな。こいつ、天然で従順だから一番騙せそうだと思っていたのに。まさか、風呂の件もわざとか。狙ってやっていたのか。
「この話はまた今度だ。帰ってギルドへ報告するぞ」
「はい。師匠。早く帰ってお風呂に入りましょう。お背中お流しいたします」
やはりそうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます