世話係として弟子にした獣人は美少女に進化した。頼みますから出ていってください。
間宮翔(Mamiya Kakeru)
1章 プロローグ
第1話 3人の獣人達
「師匠、お背中お流しします」
俺に声をかけてきたのは、金色の短い髪をした美少女。頭の上に耳がある。何の種類か分からないがこいつは犬の獣人らしい。
こいつは俺の弟子のうちの1人だ。
だが、今の問題はそこではない。背中を流してくれるというのは嬉しい。鍛錬で汗をかいたからな。だがな、素っ裸はアウトだろ。常識を纏ってこい。
そしてでかい。何がとは言わないが。
「おい、ライカ。風呂には入って来るな」
「師匠、何をおっしゃいますか。師の身の回りの世話をするのは弟子の務めにございます」
「風呂くらい自分で何とかするから、早く出ていけ」
目のやり場に困るんだよ。ポヨポヨ揺らすんじゃねぇ。
「師匠はお一人では背が洗えぬではありませんか」
「背など洗わずとも別に死にはせん。いいから出ていってくれ」
こいつはもの凄い堅物だ。そして常識が通じない。何が心配なのか、俺の傍を極力離れようとしない。一番困った奴だ。
「師匠、食事の準備ができましたわ。夕食にいたしましょう」
長い銀髪を後ろで一つに束ねた美少女が声をかけてくる。背中には白い大きな羽根がある。こいつは鳥の獣人らしい。
こいつも弟子の一人だ。
「分かった。食事にしよう。すぐ行く」
「師匠。はい、あーん」
「おい、セツナ」
「はい、あーん」
もぐもぐ。うまい。
「うまい! じゃなくて、自分で食べられるから」
「師匠。美味しいですか? 愛情をいっぱい込めて作りましたわ。はい、次をどうぞ」
いや、話を聞いてください。
「はい、どうぞ」
パクッ。やっぱりうまい。
「お味噌汁もどうぞ」
汁椀を渡してくれる。テンポが凄くいい。かゆいところに手が届く。
「おう。これもうまい」
気付けばこいつのペースになっていた。こいつにはいつもペースを乱される。何を考えているか読めない奴だ。こいつは2番目に困った奴だ。
「おい。ミリア。何で俺の布団で寝てる」
赤いセミロングの髪をした小柄な美少女が下着姿でベッドで丸まって寝ている。こいつのお尻には長いフサフサの尻尾がある。猿の獣人らしい。猿というよりもナマケモノみたいにぐーたらしている。
因みにこいつも俺の弟子だ。
「ん~、ししょ~。まだ眠い。寒い」
「おい、寝るな、出ていけ。自分の部屋で寝なさい。」
「ダメだよ。今日は私が夜の世話番。一緒に寝る。zzz」
「なんだそれは。俺は頼んでないぞ! 寝るなー」
こいつはいつものんびりしている。3人の中で一番小さい。何がとは言わない。年とか身長とか。そしてフラフラしているので危なっかしくてほっておけない。3番に困った奴だ。
困ったことに困った奴しかいない。
「15歳になるまで修行をつけてやる。その代り、俺の身の回りの世話をしろ。15歳になったら冒険者になって出ていけ」
それが、こいつ等を弟子にした時にした約束だ。確かにそう言った。言ったよな。
なのに、こいつ等出ていく気配が全く見えん。
「全員、居間へ集まれ」
「師匠。ご用件は」
「師匠。どうされましたか」
「師匠。何」
3人がすぐに集まってくる。
「お前たち、前にも言ったが、お前たちに教えることはもう無い。約束どおり出ていくように」
「嫌です」「嫌ですわ」「嫌」
俺、師匠。こいつ等、弟子。何で言うこと全く聞く気がないの?
「何でだよ! お前たち俺より強くなっただろ。もう一人で生きていけるだろ。俺は静かに暮らしたいんだよ」
「師匠、この世は危険にあふれております。そのようなところに師匠をお一人にするわけにはまいりません」
俺は、どっかのじいちゃんか?
「師匠に悪い虫がついちゃうと困るわ。出てなんていかないわよ」
何でお前が困るんだよ。
「面倒」
なんだそれは。
ライカ、お前は真面目でいい奴だ。俺の心配をしてくれている。
セツナは何を言っているかよく分からん。
問題は。
「ミリア! お前は何だその理由は! 今日中に荷物をまとめて出ていけ!」
ミリアがビクッと震えた。ちょっと強く言い過ぎたかな。
「ウヮーーーーン。ビェーーーーン」
とんでもないボリュームで泣き始めた。涙で水溜りまででき始めた。
鼓膜がぁーー。頭が割れるぅーー。
ライカとセツナは泡を吹いて倒れている。真横でこの振動波を受けたら仕方がない。不味い。家がミシミシと音を立て始めた。
「ミリア。分かった、分かったから。出て行けなんて言わないから」
「出ていかなくていぃの?」
か細い声で聞いてくる。
「いい。いいから。もう泣くな」
「よかった。疲れた。もう寝る」
一瞬で寝てしまった。おい。この状況どうしろというのだろうか。ほっておけば、そのうち起きるな。よし放って置こう。
くそ、こいつ等本気で出て行くつもりがねえ。ならば俺が出て行くか? 無駄だな。秒で見つかる。
こいつ等何で出ていかないんだ。俺ではもう禄な稽古をつけてやることもできん。こいつ等の実力があれば、富も名誉も好きなだけ得られるはずだ。自分の国にも帰れるだろう。こんな片田舎の情けない男の弟子で終わって欲しくないのだが……。
それと。ほら来たぞ。
「大変です、大変なんです」
家に冒険者ギルド職員のマークがやって来た。
「マーク、どうかしたか」
「師匠さん、大変なんだ」
ライカ達のせいでギルドの職員まで俺を師匠呼びする。この街に俺の名前を知っている奴は何人いるのだろうか?
「大変なのは聞いたよ。何が大変なんだ。もう眠る時間なのだが」
「師匠さん、モ、モンスターの大群が街に向かって来てます。」
「何! 数は! 5万か? 6万か?」
「約3千です」
「3千だと」
「はい、3千です」
「なんだ、たったの3千か。その辺の冒険者集めりゃ余裕だろ」
一気に緊張感が霧散した。3千程度なら冒険者100人いれば余裕で対処できる。この時間に集められるかどうかだが。
「ギルド長がライカさん達にお願いしたいとのことです」
「……」
なんでだよ。他の冒険者達に手柄上げさせてやれよ。
ほらな。これなんだよ。こいつ等がいると静かに暮らすなんてできる訳がない。
なんせ世界に10人しかいないS級冒険者がここに3人も居るんだから。
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