第6話 隠れ家
無事群馬へと辿り着いた僕らは、天城さんの案内により山中にある天城さん達政府の人間が拠点とする地下施設の入り口へと辿り着いてた。
道中、何体かの魔物と遭遇する事で簡単な戦闘も発生したが、やはり人口密集地である東京が近い影響か、それほど魔物に遭遇する事は無かった。
リヴァイさん曰く、実は魔物が人工の密集する集落や都市部に多く現れ、人間ばかりを襲ってくるのには理由が有るらしい。
そもそも魔物とは、アヤメが囚われていた研究施設でドクター・ケイオスが作り出した生物で有り、その根幹にある魔力は『アーマゲドン』由来のものなのだと言う。
そのため、『アーマゲドン』の根幹にある『人類の粛清』と言う使命が、魔物達に埋め込まれた魔力を通して流れ込んでおり、その影響で魔物は積極的に人類を襲おうとするらしいのだ。
因みに、魔物が生まれる方法としては、通常の生物が魔力により変質し、その変質した生物が子を成すパターンと、一定量の魔力が一カ所に固まることで質量を持ち、それが生物の形を得ることで魔物となる2パターンがあるらしく、前のパターンではそこまで爆発的な増殖を行わないので、ある程度数を減らせば対処が出来るが、その代わりに種の存続を優先するために数で劣る場合は無闇に人間を襲うことも無い。
それに引き替え、後のパターンで生まれる魔物は生殖を必要としないのでどれだけでも数を増やしていくため、生殖能力も無ければ種の存続に対する本能も薄いため、人数差や力量差に関係無く人類に牙をむいてくるのだ。
もっとも、その代わりに魔力のみにより生成された魔物はさほど知能が高くなく、更には力も寄り集まった魔力の濃度に左右される影響かそこまで強くないため、どちらにも一長一短の特性が有る状態だ。
(今まで出会った魔物は生物が魔力で変質したタイプだったし、ここら辺はあんまり魔物の数がいないから比較的安全なんだろうな。でも、良く天城さん達はこんなベストの隠れ家を見つけ出せたもんだな)
そんな事を考えながらも、僕とアヤメは天城さん達の先導に従い鋼鉄の扉を抜けると、そのまま地下深くへと続く階段を降りていく。
その階段が設置された通路は、高さが2m程度の横幅も2人並んで歩くのはキツい非常に狭いもので、一切カーブなども存在しない完全な直進のみの通路だった。
(おそらく、大型の魔物がこの通路から侵入してくるのを防ぐためにあえて狭くしてるんだろうな。それに、一直線に通路を設定することで魔人が侵入してきても対処しやすいようになってるのか。だったら、ここにも魔人相手に有効なダメージを与えられる魔力を使った兵器が有るのかもな)
現在、政府が力を取り戻している国家については魔物へ対抗する魔力を用いた兵器開発が進み、ある程度軍への支給が完了しつつあると言われている。
だが、その他の政府機能が麻痺している国家については魔力研究があまり進んでいない場合がほとんどだ。
だと言っても、それらの国がなにも全く進んでいないと言うわけでも無く、国によっては民間企業や個人が運営する団体の方が魔力研究が進んでおり、国家よりもそれらの企業や団体、果ては個人の方が権力を有している場合もあるのだ。
勿論、魔人を戦力の中核において魔人による支配を良しとする国家も少なからず存在するのだが。
そして、現状の日本では個人である魔人達が力を持っている状態にあるが、なにも魔力研究が行われていないわけでは無く、様々な組織が魔人以外の普通の人々が戦う力を得るための魔力研究を盛んに行っている状況なのだ。
「さて、着きましたよ」
天城さんがそう言葉を発するのとほぼ同時、大きなゲートが設置された少し広いスペースへと辿り着く。
そして、天城さんがゲートの横に設置されたパネルに何かを入力すると、低い地鳴りのような音を立てながらゆっくりとゲートが開いていった。
「ここが私達の隠れ家です。簡単に中をご案内しましょう」
そう告げ、天城さんは今まで一緒に行動してきた自衛隊のおじさん達と別れ、僕とアヤメを引き連れて各施設を案内してくれる。
その施設の中には、共同の居住スペースから始まり、食堂、浴場、被服室や食料庫と言った生活に必要不可欠なスペースから、遊戯室やシアタールーム、ジムスペースのような娯楽施設まで充実していた。
なんでも、現在この施設には100人近い人間がいるため、それ相応の施設が必要なのだという。
こうして1時間ほど掛けて各施設を回った後、最後に天城さんが「是非会って欲しい人がいる」と、会議室のような場所へ僕らを案内してくれた。
会議室の前に辿り着き、天城さんがドアをノックしようとした瞬間、まるでそのタイミングを見計らったかのようにドアの向こうから「ああ、開いているからそのまま入って来て良いですよ」と、落ち着いた高齢男性の声が聞こえた。
「失礼します」
そして、天城さんは一言そう挨拶をした後にドアを開け、会議室の中へと足を踏み入れた。
会議室の中では2人の男が椅子に腰掛け、こちらに視線を向けていた。
1人は白髪交じりの40代後半から50代前半と言った感じの男性で、そこそこ体を鍛えているのかガッシリとした大柄な体格をしている。
対するもう1人は、完全な白髪に皺の刻まれた顔から60代後半とでも言った風貌をしていて、椅子に座っているからはっきりとは分らないが僕とさほど変わらない160中盤と言った細身の男性だった。
「ねえ、アヤメ」
2人の姿を目にした直後、僕は直ぐさま小声でアヤメへと声を掛ける。
「うん。あっちの白髪のお爺さん、神器の所有者だね」
この1年ほどで、僕らはリヴァイさんの厳しい特訓により相手が神器の所有者であるかを見抜けるようになっていた。
本来、神器所有者は神器を解放するまで体外に微弱な魔力しか放出しておらず、その微弱な魔力を魔眼で捕えるのは非常に難しい事から、神器の解放を行うまでは所有者である事を把握出来ない事がほとんどだ。
だが、僕らは特訓によりその微弱な魔力を感じ取れるようになったため、相手が神器を解放せずとも所有の有無を把握出来るようになったのだ。
もっとも、リヴァイさん曰くもっと練度が上がれば魔力の微妙なパターンの違いからどう言った種類の神器を所有しているかまで把握出来るようになるらしいが、今のところ僕達の中でそこまでの芸当が可能なのはリヴァイさんとメイリンの2人だけだ。
「初めまして。私は
「俺は
細身の男性、藤岡さんと大柄な男性の獅童さんがそれぞれ僕らに挨拶の言葉を告げたので、僕とアヤメもそれぞれ名を告げ、簡単な挨拶を交す。
そして、最後のアヤメが挨拶を終えたタイミングで藤岡さんが口を開く。
「さて、響史君、アヤメ君。今回の東京奪還作戦に参加してくれることに先ずはお礼を言わせて欲しい」
そう言いながら頭を下げる藤岡さんに、僕は慌てて口を開く
「いえ! どうせいずれはどうにかしないといけないな、とは思っていたので」
「それでも、お前達のおかげで理不尽な暴力により支配される人々に、希望が見えたことには違いは無いだろう」
今度は獅童さんもそう告げながら頭を下げる。
「そんな、僕らはお礼を言われる事なんて――」
「そんな事より、1つ聞かせてよ」
戸惑いの言葉を上げる僕とは違い、落ち着いた表情を浮かべながらアヤメが僕の言葉を遮るように口を挟む。
「何でしょう?」
穏やかな口調でそう尋ねる藤岡さんを、アヤメは真っ直ぐに見据えながら言葉を発する。
「何で、神器持ちのあなたが直接戦わないの?」
アヤメの問い掛けに、問われた藤岡さんは表情を変えなかったものの、獅童さんは感心したような表情でアヤメを見つめ、何故か天城さんは驚いた表情を浮かべて藤岡さんとアヤメの顔に交互に視線を移していた。
「それは、私の神器、『八咫鏡』の能力は限定的な未来の風景を覗くと言う力が有るだけで、戦闘に役立つような力は無いからですよ」
「でも、限定的な未来を覗けるのであれば、神器の魔力強化だけで結構戦えそうだけど?」
「確かに神器の魔力による肉体強化である程度は動けます。ただし、既に私は67で若い人達のように跳んだり跳ねたりするような体力は残っていないのですよ。もし、私が魔力を使って戦いに出たところで、そこら辺にいる魔物を1匹倒すだけでも限界でしょうね」
その藤岡さんの言葉には、嘘をついているような雰囲気も無いのでおそらく事実を語っているのだろう。
確かに、椅子の横に立て掛けてある杖や向かい合って感じる雰囲気から考えても、極端に健脚だとか実は武術の達人なんて事は無さそうなので、その状態では神器所有者よりも一般的には魔力が劣る場合が多い魔人相手であっても相当キツいのだろう。
(だけど、さっき言ってた『八咫鏡』が持つ限定的な未来を覗く力って言うのは、どの程度のものまで見ることが出来るのか、そしてその精度はどの程度のものかは聞いておいた方が良さそうだな)
そう判断した僕は、更に詳しく藤岡さん達に話しを聞くため、徐に口を開くのだった。
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