第12話 共闘
『ロンゴミニアド』による光の加護により肉体の修復が終り、私が目を覚ました時に目にしたのは視界を覆い尽くすほどの勢いで降り注ぐ光の嵐と、その嵐から自身と私の体を盾の神器で必死で守る響史の背中だった。
「これ、は?」
「ッ! 気が付いたのか!? これはメイリンの攻撃だ! 彼女は、僕達の知らない『原罪』の更なる力を引き出していたんだ!」
何と言うことだ。
最初は唯々邪魔な女だとしか感じなかったが、ここまでデタラメな力を持っていたのでは私では到底太刀打ち出来ない。
「・・・・・・私に構わず、響史1人ならば逃げ切れるのでは無いか?」
「・・・・・・かもね。だけど、僕は逃げるつもりなんて欠片も無いから!」
苦しそうな表情を浮かべながらもどうにか口角を上げ、笑顔を浮かべながら彼はそう告げる。
「最初に言ったように、僕達の目的は僕らと同じ『原罪』の所有者を仲間にする事だ。だから、何としても君を生かしたままメイリンを止めて話しを聞いてもらう!」
そう告げる響史の姿を目にし、何故か私の心には今まで感じたこと無いような不思議な感覚が溢れてくる。
(これは・・・・・・懐かしさ、か? それに、喜び? 何故だ)
疑問は尽きぬが、それでも不快な感じは無かった。
そして同時に、こうして命をかけて私を守ろうとしてくれている響史と戦おうという気はすっかり失せていた。
「・・・・・・私の『
「え!? ・・・・・・僕の『
「で有れば、この攻撃が止んだ直後に響史があの女に奇襲をかけてくれないか? そうすれば、隙を見付けて私も再び力を解放し、油断している背後から一撃を加える」
私の提案に響史は暫く悩む素振りを見せ、やがて意を決したように口を開く。
しかし、響史が何を語ろうとしているのかを察していた私は先に言葉を発する事でその言葉を遮る。
「分かっている。今度は私も彼女を殺そうとは思っていない。と言うよりも、先の一撃で倒せなかった以上私では彼女を殺せない。だから、背後から奇襲をかけて『ロンゴミニアド』をその身に突き立て、光の加護で私ごと動きを封じるだけだけだ」
「・・・・・・・・・・・・分かった。しかし、彼女の力は協力だ。今の君でまともに力を使えるのか?」
「なに、『
精一杯の強がりで笑ってみせる私に響史は暫く沈黙を続けたものの、やがて観念したように軽く息を吐くと決意を決めた視線で口を開いた。
「それじゃあ任せたよ!」
響史がそう告げた瞬間、漸く降り注いでいた光の嵐が終りを迎え、晴れた視界の先に先程と違い背中に白と黒の4枚の羽を生やした少女、メイリンの姿があった。
「ほう! 小手調べ程度の威力とは言え、我が一撃に耐えるか!」
メイリンが嬉しそうにそう告げた瞬間、目の前にあった響史の姿が一瞬にして消える。
そして、気が付いた時にはメイリンとの距離をゼロまで詰め、黒炎を纏った拳を振り抜く。
しかし、対するメイリンにはさほど慌てた様子は無く、振り抜かれる拳に反応しようとすらしない。
「ッ!!?」
響史の拳がメイリンに届くかと思われた瞬間、突然響史は驚愕の表情を浮かべて後方に飛び退る。
すると、いつの間にかメイリンの周りを漂っていた光球から一筋の光が放たれ、先程まで響史の体があった地点を通り過ぎる。
「ほう、賢明な判断だな。引くのがあと少し遅ければ、その体に風穴が空いていたぞ」
ニヤリと笑みを浮かべながらそう告げるメイリンに、響史は直ぐさま姿勢を調えながら追撃を加えようとするが、いつの間にかメイリンの周りを漂う光球が6つにまで数を増やしている事に気付き、直ぐさま距離を取る。
そして、接近戦に持ち込むには周りの光球が邪魔になると瞬時に判断し、直ぐさま雷槍を呼び出すと光球の迎撃に切り替えた。
「甘い!」
だが、対するメイリンも直ぐさま距離を詰めながら剣の神器で雷槍を切り払うと、その勢いのまま響史へと斬り掛かる。
「させない! 『
しかし響史も瞬時に戦法を変え、自分を中心に足下から多数の石柱を撃ち出しながらメイリンの動きを牽制し、その隙に体を風の魔力で加速させると次々と光球を打ち落としていく。
「やるな! だが、無駄だ!」
その言葉と共に更なる光球が宙に出現すると、その形を十字架のような形をした剣へと変え、直ぐさま響史目掛けて撃ち出される。
だが響史も盾の神器でそれらを軽くいなすと少しずつメイリンとの距離を詰める。
「さあ、もっと我に力を見せてみよ!」
だが、メイリンがその告げると同時に最初に投擲された光剣の10倍は有ろうかと言う量の光剣が出現し、一斉に響史に襲いかかる。
そして、流石にこれは躱しきれないと判断したのか険しい表情を浮かべながらどうにか迎撃しようと響史が構えた瞬間――
「2人とも、完全にボクの存在を忘れてたよね」
突如として上空から聞いたことの無い少女の声が聞こえてくる。
そして次の瞬間、突如上空から4体の異形の存在が降りてきたかと思えば、その身を光剣にぶつけて犠牲になる事で響史の眼前に無理矢理道を開いた。
「今だよ、キョージ!」
その声を聞いた瞬間、弾かれたように響史の体が前に進み出ると瞬時にメイリンとの距離を詰める。
「チッ!」
それを舌打ちをしながらも瞬時に防ごうと構えたメイリンの背後から、更に2体の異形が襲い来る。
「何だと!?」
思いがけない事態にメイリンの反応が一瞬鈍るが、そこは流石の実力者と言うべきか瞬時に剣の神器から魔力を放出すると、襲い来る異形諸共響史を吹き飛ばそうと試みる。
だが、異形の存在はその一撃で瞬時に迎撃出来ても響史ほどの実力者はそう簡単には行かない。
響史は瞬時に盾の神器で衝撃を受け流すと、そのままメイリンとの距離を詰めるとその拳を振り抜く。
そしてその瞬間、今こそが絶好の好機と見て取った私は瞬時に《ベルフェゴール》を開放し、響史に気を取られているメイリンの背後を取る。
結果、響史の一撃を防ぐ事に意識を集中していたメイリンは私の攻撃に気付かず、あっさりとその胸を私が振り抜いた『ロンゴミニアド』が貫いた。
「聖槍に宿りし光の加護よ! 彼の者に戒めの鎖を!」
そして、直後に私の唱えた祝詞に合わせて出現した光の鎖が私とメイリンの体をその場へと縛り付けた。
「これ、は!」
刹那、鎖を断ち切ろうとメイリンは力を込めるが、思うように力が入らないことで戸惑いと焦りの表情を浮かべる。
「この鎖は、私とお前を縛る戒めの鎖だ。この鎖に繋がれる限り、私も身動きを取れぬがお前も力を使えまい」
そう告げる私に、メイリンはあからさまに忌々しげな視線を返すものの言葉を発する事は無かった。
そして、暫くの間必死に抵抗を見せるものの、力で無理矢理振り払うことが不可能と判断すると、悔しそうに唇を噛み締めながら俯き、やがては抵抗を止めてくれた。
「どうにか、押さえられたな」
漸く動きを止めたメイリンに響史は安堵のため息を漏らしながらそう告げる。
「なんかボクのいない間に凄いことになってたみたいだね」
そして、再び上空から少女の声が響いたかと思えば、突然響史の隣に漆黒の翼を生やして漆黒の鎧に身を包んだ人物が舞い降りた。
「いや、アヤメが来てくれて助かったよ。でも、その鎧を着てるって事は無理をさせちゃったかな?」
「このぐらいは平気。そこまで長時間の戦闘ってわけでも無かったし」
声の感じからそれが少女である事は分るが、兜で顔が隠れているためその素顔は私には分らなかった。
だが、160中盤ほどの身長からある程度年上かとも感じられるが、声の感じから受ける印象はもっと幼い感じも受ける不思議な少女だった。
「それで? メーリンが『原罪』の所有者なのは驚いたけど、そこの男は何者?」
「ああ、彼はアダムだよ」
響史はそう告げた後、今までの流れを簡単に先程アヤメと呼んだ少年へ説明していく。
そして、説明を聞き終えたアヤメは明らかに面倒臭いと言った感じにため息をつくと、私とメイリンの2人に視線を向ける。
「それで? 2人はまだやる気なの?」
「・・・・・・既に私には戦う意思は無い」
「そう」
正直な答えを返した私に、アヤメは簡単に返事を返すと再度メイリンに視線を向ける。
「それで? メーリンは?」
そう問われたメイリンは何故か言葉を発しない。
俯いたままで暫く沈黙を続けたメイリンは、やがて顔を上げるとその瞳に消えぬ闘志を宿していた。
「1つ教えて」
「何?」
「何でアヤメはメイの力の影響を受けてないの?」
「力? ああ、このおかしな魔力のこと? 別に影響が無いわけじゃ無い。ただ同質の魔力をボクの神器で生成してぶつける事で中和してるだけ。だからそれなりに力は落ちてるし、だからこそこの鎧を纏ってるんだし」
最後の方の言葉の意味はよく分からなかったが、彼女も響史と同じく凄まじい実力の持ち主である事をこの遣り取りだけで理解する。
「そもそもなんで皆飛べるの!? あの物語では悪しき神々ぐらいしか飛べなかったのに!」
その良く分らない叫びに全員が疑問の表情を浮かべていると、不意に私は違和感に気付く。
(何だ? この、体に響くような揺れは。・・・・・・まさか!?)
そう理解した時には既に遅かった。
刹那、彼女を中心に抑えきれないほどの膨大な魔力が膨れ上がる。
「マズい! 離れろ!!」
そう叫んだ直後、抑えきれなくなった魔力の膨張が限界まで達し、私の施した戒めが弾け飛ぶのを感じると同時、私の意識が闇に呑まれ行くのを感じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます