第11話 最強の証明

 最高だ。


 やはりメイは世界を統べるために天より見初められた選ばれた存在なのだ。


 そうで無ければメイを導いたあの物語との運命的出会いも、その物語に記されていたような絶対的力も、その物語に勝るとも劣らない強敵達との頂上決戦も有り得ない。


「ハハハハハハハハハハハハハハハ!! 良いぞ! 実に良いぞ!! やはり我の力を全世界に知らしめる相手はこの程度の実力が無ければな!!」


 気を失いそうになるほどの痛みに耐え、『エクスカリバー』の鞘の能力で死を免れたメイは高らかにそう告げる。


「だがな、我が聖剣『エクスカリバー』の鞘が有る限り、我を滅する事など不可能だと知れ!」


 そして、あの物語の主人公、ルシファーで有ればこう告げるはずと堂々と台詞を発すると、一刻も早く痛みから逃れるために魔力を回して体の傷を修復し、涙が出そうになるのを堪えながらも『エクスカリバー』を上段に構え、その剣身に膨大な魔力に光を纏わせる。


「さあ、褒美にこの一撃で跡形も無く消し飛ばしてくれよう!」


 本当はどうにかして配下として加えたい逸材で有るが、それでも今までの反応から大人しく言う事を聞いてくれるような相手ではないと理解したメイは、これ以上痛い思いをしたく無いという一心から、たとえ2人を消し飛ばしてしまったとしてもさっさと決着を付けることを決意し、強大な一撃を放つ事を決める。


メイの《ルシファー》の影響下でまともに動けない2人がこの一撃を耐えるのは不可能なはず。それでも、もしどちらかがこれを耐えきったら再び配下に加わるように説得しても良いかな)


 そんな事を考えながら、光の柱と化した『エクスカリバー』を振り下ろそうとした瞬間――


「術式展開。我が名において『憤怒』の力をここに解き放つ。我が『憤怒』の炎よ、敵を滅する絶対の力を示せ、来たれ《サタン》!」


 その言葉が耳に届いた瞬間、一瞬にして響史の魔力が有り得ないほど膨れ上がる。

 そして、気が付いた時には黒い炎を両手に宿した響史の姿が目と鼻の先まで迫っていた。


「!!?」


 驚きのあまり言葉にならない声を上げながら、咄嗟に『エクスカリバー』を振り下ろそうと試みるが、次の瞬間には一瞬目の前が白く光り、気付いた時にはメイの体は宙を舞っていた。


(いったい何が!!?)


 そう思考を巡らせようとした時、不意に体中に耐え難いほどの激痛が走る。

 どうやら目の前であの黒炎が爆発を起こし、その衝撃でメイの体は上空に打ち上げられたらしい。


(そんな、いくら《ルシファー》の出力が精々5割程度だったとは言え、メイが反応すら出来なかった!?)


 だが、今の現状を受け入れないとメイは負ける。

 そう瞬時に判断した瞬間、魔力で体を無理矢理癒やすと瞬時に《ルシファー》の出力を全開まで解放する。


 しかし――


(嘘! 《ルシファー》を全力で開放して、それでもあれだけの魔力を!?)


 メイの魔眼に映る響史の魔力は確かに減衰したが、それでもなお今のメイに拮抗する程の魔力を有していた。


 本来、魔力を持たない、若しくは魔力の弱い大抵の相手は固有術式を解放すらしていない力を押さえた1%程度の出力でも心臓を動かす筋力を維持出来ずに死んでしまう。

 そして、強力な魔力やこの前の秘密部隊のような特殊な装備を付けた相手でも固有術式を最低出力である5%程度で開放してやれば大抵事が済む。

 だからこそ、5割も力を開放した状態で戦闘を継続する事が出来た2人は十分驚嘆に値する実力だった。

 その上でどう言う絡繰りかメイに手傷を負わせたアダムには酷く驚かされた。


(でも、アダムの最後の一撃は明らかに捨て身で無理矢理放った一撃だった。それなのに、響史は更にメイと対等に戦うだけの力を維持しているなんて!)


 どうにか心を落ち着かせて反撃をしなければ、と思考を巡らせようとした瞬間、メイに思考を行う時間を与えないようにするためか直ぐさま響史が追撃の姿勢に移る。

 そして、地面を蹴り一瞬にしてメイとの距離を詰めてくる。


(速い! だが、まだこの程度なら目で追える!)


 再び振るわれる黒炎を纏った拳を、メイは受け止めるで無く体を大きく後退させる事で躱す。

 瞬間、再び目の前で爆風が発生するが、その威力に逆らわず、逆にその力を利用して大きく響史との距離を空ける。


 だが、その判断はどうやら響史の思惑通りだったようだ。


「なっ!?」


 メイが動きを止める瞬間、まるでメイの動きを予測していたかの如くメイを囲うようにドーム状に展開された雷槍の群れが一斉に襲いかかる。


「ツッ!」


 咄嗟に魔力で障壁を展開しながら、手当たり次第に飛来する雷槍を『エクスカリバー』で打ち落としていくが、それでも全てを対処することが出来ずに幾つか被弾する。

 しかし、それでも最小限のダメージで躱したことでなんとか最小限の魔力消費で押さえるが、その隙を突いてすかさず響史が地面より出現させた土の杭を電撃で加速させながら打ち出すことで追撃をかけてくる。


(これは・・・躱せない!)


 そう判断を下すと、メイは瞬時に『エクスカリバー』から有りっ丈の魔力を放出して、その余波で土の杭を打ち砕く。

 だが、飛来する土塊全てを消し去る事など出来ず、散弾のように飛来する土塊によりメイの体は呆気なく引き飛ばされてしまう。


「カハッ!!?」


 そのまま数十メートルを吹き飛ばされ、漸く動きを止めた所で仰向けに倒れたまま呆然と空を見上げていた。


「まだ続ける気か? 僕は君を殺す気なんて微塵も無い。だから、どうか矛を収めてくれないか?」


 勝利を確信したのだろう。

 警戒を解かないままでは有るものの、響史は穏やかな口調でメイにそう問い掛ける。


「我が、負ける?」


 ボソリと呟いたメイの言葉に、響史が「これ以上傷付け合っても意味なんて無いだろ!」と、


「ク、ククク、クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 その勘違いが可笑しく、思わずメイの口から笑い声が漏れる。

 ああ、自分は今、きちんとあの物語の最終話、最後の決戦でルシファーのように笑えているだろうか。


「・・・・・・何が可笑しいんだ?」


 メイの様子に、明らかに警戒の度合いを深めながら響史が疑問を投げかける。

 まあ、そうだろう。


 響史ではメイの考えなど分かるはずが無いのだ。


「確かに、我をここまで追い詰めるほどの力には驚いた。しかし、今の響史の表情を見るに、どうやらその力を解放出来る時間は限られているのだろう?」


 メイを追い詰めているはずなのに苦しげな表情を浮かべる響史にそう問い掛ければ、答えを返すことは無かったがその沈黙こそがメイの推測が正解で有るのだと告げていた。


「それに、最初からこの力を解放していれば難無く我とアダムを制圧出来たにも関わらずこの局面まで力を温存したのだ。それ以上の力はもう出せまい?」


「・・・・・・確かに君の言うとおりだ。でも、制限時間内に全力で君の魔力が尽きるまで削りきるぐらいは――」


「そうでは無い」


 見当違いな意見を述べる響史の言葉を遮りながら、メイは勢いを付けて体を起こす。

 そして、余裕が見えるように意識をしながら不適な笑みを浮かべ、来たるべき悪しき神々との戦いのための研鑽の末辿り着いた言葉を告げる。


「術式反転。神に愛され、神に背きし叛逆の大天使よ、我に光の祝福を!顕現せよ、《ルシフェル》!」


 瞬間、メイの背中に漆黒の翼に合わせて純白の翼が出現することで黒と白の4枚羽へと変わり、新たな力が体を満たす。


「なっ!!?」


 驚愕の表情を浮かべる響史に、メイはゆったりとした口調で告げる。


「これこそが我が真の力。神の祝福と悪魔の呪いを同時に内包せし混沌カオスの力なり」


 言葉が終わると同時、メイはゆっくりと腕を天に掲げる。

 刹那、空より視界を覆い尽くすほどの光の嵐、裁きの威光が降り注ぎ、そしてその光は目の前の響史の姿を飲み込んだのだった。

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