第10話 三つ巴の戦い
「クッ!」
僕は斬り掛かってくるメイリンの攻撃を手の甲に出現させた『アイギス』の守りで受け止める。
そして同時にメイリンの背後、その頭部を貫こうと振り下ろされるアダムのランスも同時に『アイギス』により防ぐ。
「他人の援護とは余裕だな! もっとも、我には不要な気遣いだが」
「邪魔をするな。先にこいつを仕留めるだけだ」
そして当の本人達は好き勝手な事ばかり口にしている。
「いい加減に、しろよ!!」
その言葉と同時、僕は再び《サタン》の力を一時解放すると瞬時にメイリンの背後に回り、発生させた魔力の波動でそれぞれの体を吹き飛ばし、無理矢理距離を取らせる。
「僕らが殺し合う必要など無いだろ!」
「我は別に殺すつもりは無いが? まあ、我が最強である事を示すためにキサマら2人を叩きのめして我が前に跪かせる必要が有る以上、キサマらの力が足りずに命尽きるのならばそこまでだと思っているがな」
「私は私の疑問に答えを得たいだけだ。それ以外には関心など無い。故に、我が唯一の目的を邪魔すると言うのならばそこの女は殺すだけだ」
「じゃあ僕が先にアダムと戦って、アダムを止めたらメイリンと戦うから!」
「痴れ者が! それでは我が弱った相手をいたぶる腰抜けのようでは無いか! それでは意味がいないのだ。最強を示すには我1人で2人を同時に叩き伏せる程で無ければ意味がいない!」
もはや一向に折り合いの付かない意見の対立に僕は再び頭を抱えたくなる。
正直、最初の方はどうにか2人を説得出来ないかと考えたが、今ではそれは到底無理だと諦めている。
それに、アヤメがこの事態に気付いて合流してくれればどうにかなるかとも思っていたが、どうやらそれも難しそうだ。
それは何故かというと、この短い攻防の末に2人の力について少しずつ分かってきたことが有るからだ。
先ず一番始めに確信出来たのはメイリンの力だ。
最初に滞空するだけの魔力を維持出来なくなった時点で明白ではあったが、暫く戦い続けたことでその力が『相手の力を削ぐ』ものである事を確信出来た。
そして、それはおそらく『魔力を削ぐ』とか『筋力を制限する』と言った限定的な物で無く、彼女の敵意を向ける者や彼女が敵と認識した者の力を尽く制限すると言う非常に強力なものに違いない。
何故なら、アダムの攻撃を対処する時に比べてメイリンに向けて力を使う時の方が魔力や筋力への負荷が増すからだ。
そして次にアダムの力だが、これもおそらく自身を強化するもので無く僕らの能力を削ぐタイプの能力だろうが、その性質はメイリンの力と大きく異なるものである事が判る。
何故そう判断出来るかと言えば、アダムが不自然に加速を行う時に彼の体に纏う魔力量が変動することも無いためそれが僕の《サタン》と同様の能力強化で無いことは確実であるのに加え、アダムが力を使って加速を行っていても繰り出される技の威力は全く上がらないしメイリンの時のように『アイギス』の強度が下がることも無いためなのだが、ではいったい具体的にそれがどう言った性質の力なのかははっきりとしない。
しかし、間違い無く2人の能力が相手の力を削ぐタイプの力で有る以上、数の力で相手を追い詰めるタイプのアヤメの能力とは抜群に相性が悪い。
確かにアヤメの操る72体の悪魔はそれぞれが恐ろしいほどの強力な力を有しているが、それは固有術式を開放しない必要最低限の『原罪』の魔力を開放している状態の僕らと対して変わらない程度の力しか持たない。
よって、それぞれの力を大幅に弱体化されたり僕のように大幅に力を増すタイプの相手とは相性が良くないのだ。
(まあ、それでも対応出来る奥の手が無くは無いが、アレをやると相当キツいって言ってたから、船の操縦で疲弊してる今のアヤメにはやらせたく無いんだよな)
それに、懸念はそれだけでは無い。
正直、一度も《サタン》を完全解放する事無く今の硬直状態を保っているのは、他の2人も力を完全解放せずに戦っているからだ。
僕が力を完全に解放しないのは、単純に一度開放してしまえば時間制限が有る以上短期決戦で決められなければ負けてしまうからだが、他の2人が同様であるとは限らない。
現に、アヤメは力の完全解放にさほどの制限が無い(本当は72体の悪魔を操作するために脳にかなりの負荷がかかるらしいが、その負荷を『
(おそらく、アダムはあまり力を使って来ないことから何かしらの制限が有りそうだけど、メイリンは明らかに常時力を発動させてるから制限が無い可能性が高いんだよな)
そんな思考を巡らせながら2人の衝突を幾度となく防ぎ、何度目かになる仕切り直しを繰り返したところで突然メイリンが動きを止め、その口を開く。
「ククク、我が力にここまで抗うか。良いぞ! 褒美だ、我が真の力を見せてやろう!」
(マズい!!)
そう思った時には遅かった。
既に彼女は固有術式を完全解放するための文言を口にする。
「術式展開。我が名において『傲慢』の力をここに解き放つ。我が絶対なる『傲慢』の力、その威光の前に跪け、来たれ《ルシファー》!」
刹那、今までとは比べ物にならいほど急激に体中から力が失われる感覚に襲われる。
それは、少しでも体に巡らせる魔力を維持出来なくれば、その瞬間に心臓の鼓動でさえも止まりかねないほど強力なものだった。
(『
咄嗟にアダムがいる方向に視線を向けると、やはりそこには心臓の鼓動が止まりかけているのか青白い顔色をしたアダムの姿があった。
(クッ!このままじゃ――)
焦りを覚えながらもどうにかアダムを助けようと思考を巡らせるが、刹那、不意に彼の唇が微かに動き囁くように言葉が発せられる。
「術式展開。我が名において『怠惰』の力をここに解き放つ。我が『怠惰』なる世界に誘え、来たれ《ベルフェゴール》」
その言葉告げられた瞬間、気付けば彼はランスを突き出すような姿勢に変わっており、そのランスの鋒からは一筋の光が伸びていたかと思えばあっと言う間にその光は薄れ、虚空へと消えてしまう。
「なっ!?」
突然の事に理解が追い付かず、声を上げる僕の耳にバキバキと何かが砕けるような音が聞こえて来る。
目の前のアダムから響いて来るその音は、おそらく彼の全身の骨が砕けた音だろう。
そして、そのままアダムはその場に力無く倒れると、やがてその手に持つランスから光が立ち上り彼の体を薄く包む。
(流れ出す血の流れが止まった。って事は、あの光は所持者の体を守護する何らかの守りなんだろう)
そう結論づけたところで、不意に先程一瞬見えた光の先にはメイリンがいたはずだと気づき、慌ててそちらに視線を向ける。
するとそこには、左胸に大きな穴が穿たれ、ボタボタと大量の血液が体を赤に染めた状態で立ち尽くすメイリンの姿があった。
「なっ!? メイリン!!」
慌てて僕はメイリンに駆け寄ろうと足を上げるが、その段階で未だメイリンの力、《ルシファー》の効力が消えていないことに気付いてその場に足を止める。
そして、一端冷静に彼女を観察することでその口元に微かな笑みが浮かんでいることに気付く。
「まさ、か・・・・・・」
僕がそう言葉を漏らした瞬間、左胸を、そこに有るはずの心臓を貫かれたはずのメイリンが愉快そうに高笑いを上げる。
「ハハハハハハハハハハハハハハハ!! 良いぞ! 実に良いぞ!! やはり我の力を全世界に知らしめる相手はこの程度の実力が無ければな!!」
呆気にとられて言葉を失う僕の目の前で、見る見るうちにメイリンの胸に穿たれた穴が塞がっていき、やがてそこに初めから傷など無かったかのように完全に傷が塞がってしまう。
「だがな、我が聖剣『エクスカリバー』の鞘が有る限り、我を滅する事など不可能だと知れ!」
そう告げながら、メイリンはその剣、『エクスカリバー』を上段に構える。
それと同時、『エクスカリバー』に凄まじい量の魔力が集束し始め、やがてその剣は天まで伸びる光の柱へと変わる。
「さあ、褒美にこの一撃で跡形も無く消し飛ばしてくれよう!」
刹那、あの一撃を放たれれば下手をすれば島ごと無くなると直感した僕は後の事など一切考えずに口を開く。
「術式展開。我が名において『憤怒』の力をここに解き放つ。我が『憤怒』の炎よ、敵を滅する絶対の力を示せ、来たれ《サタン》!」
告げると同時、僕は彼女を止めるために全力で飛び出していたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます