第9話 邂逅

 僕とメイリンが調べた施設は軍事施設だったようで、謎の魔力が発生している原因は魔術を用いた兵器開発の施設があったためだった。

 もっとも、既に人が手を入れなくなって相応の時間が経つのか施設は稼働しておらず、おそらく兵器に魔力を付加するために用いた魔石の残骸だと思われる物が転がっているだけで、僕らはその残骸が発する魔力を感知していたらしい。


「それにしても、やっぱり僕では施設のシステムにアクセスするのは無理だな。てことは、情報を手に入れるためにはアヤメと一度合流する必要があるな」


「何だ?アヤメはハッキングのプロか何かなのか?」


 僕の呟きにそう尋ねるメイリンに、僕はどう答えたものかと暫く悩んだ後にとりあえず簡単に言葉を濁すことに決める。


「いや、アヤメの持つ神器がそう言う事も出来るだけだよ」


「なるほど、流石は四次元ポケットの神器! そのような秘密道具もあるのだな!」


「え!? ・・・・・・うん、まあ、そう・・・かな」


 まさか適当に誤魔化したアヤメの嘘を未だ信じているとは思わず僕は一瞬言葉に迷ってしまうが、とりあえず面倒なので適当に流すことにする。


「しかし、そうなるともはや複数の神器を1人で所有するようなもの・・・・・・ううん、なんとも贅沢なやつよ。まあ我が配下に加わればそれも全て我の物であるも同然だがな!」


 機嫌良くそう独り言を漏らすメイリンに、絶対別れ際に想像以上に短気なアヤメと絶対揉めるな、とうんざりしながらため息を漏らす。


 直後、強大な魔力の気配が近付いて来るのに気付いき、僕とメイリンを守るように『アイギス』を展開する。

 そして、刹那の間に辺りは眩い光に包まれ、僕らの周りにあった施設は姿を消し、僕とメイリンが立っている地点を除き辺りは焦土と化していた。


「この程度の攻撃では様子見にもならない、か。やはり、君があの魔力の持ち主で間違い無いようだな」


 そして、上空から風に乗って辛うじて聞き取れた声の方向へ視線を向けると、そこには右手に身の丈ほど有りそうなランスを携えた1人の少年の姿があった。

 ボサボサの手入れがされていない白髪に、幼さの残る顔付きから僕とさほど変わらない年であると推測されるその少年は、金色の瞳に背中に生えている漆黒の翼から間違い無く僕らが探していた『原罪』の適合者なのだろう。

 だが、何故突然こちらを攻撃などしてきたのだろうか?


「僕の名前は桜花響史。ここには君を、正確には僕らと同じ『原罪』の適合者を探しに来た。それで、何故突然僕らは襲われたのか説明してくれるかい?」


「分からない」


「・・・・・・は?」


 予想外の答えに僕が思わず声を上げると、なおも少年は精気の感じられない表情を崩すこと無く淡々と言葉を告げる。


「私は既に全てを投げ出していたはずだった。それが、君の魔力を感じた瞬間に何故か人間らしい感情を再び取り戻した。だから、君と戦い、その力により触れる事で僕はその答えを探す」


 その答えに、『わざわざ戦わなくとももっと平和的なアプローチでも良いのでは?』と愚痴をこぼしたくなるが、おそらくは始めて出会った同等の力を持つ相手に、自身の全力を開放する事でガス抜きをしたいのだろう。

 僕も同じように強大な力を持つからこそ分かるが、これだけ大きな力を持つとそうそう全力で力を振るう機会など無い。

 だが、そうやって力を制御し続けると思ったよりも体にも心にもストレスがかかるのだ。

 だからこそ、本来ならある程度の力の近い者同士で力を発散させる必要が有ると言うわけだ。

 因みに、僕も時々はアヤメと割と全力の模擬戦を行うことで定期的にガス抜きを行っている。


「ごめん、メイリン。ここは危ないから何処かに逃げてて」


 突然の事態に呆気にとられているメイリンにそれだけ告げると、僕は『憤怒』の力を一部解き放つ。

 刹那、僕の背には漆黒の翼が出現し、体に纏う魔力の総量も爆発的に増大する。

 そして軽く地を蹴った直後、僕の体はその上空に現れた謎の少年の目の前へと浮かび上がっていた。


「さて。戦う前に教えて欲しい」


「何だ?」


「僕は君を仲間に引き入れるためにここに来た。だから勿論君の命を奪うつもりは欠片も無い」


「そうか。私は私の疑問を解決出来るのならば他はどうでも良い。勿論、この戦いの果てにどちらが死ぬことになろうと。だから、お前が私を欲するのなら殺さずに私を止める事だな」


「まあ、そうなるよな。それで? 君の名前を教えてもらっても?」


「そうだな・・・・・・私の名は、アダム。研究所ではそう呼ばれていた」


「アダム、か。僕は君を引き入れるために全力で君を止めて見せる!」


 そう告げ、僕は『炎神拳えんじんけん』で拳に炎を宿すと構えを取る。

 そして、それに対するようにアダムがランス型の神器を構えると、鋭い視線を交す。


 直後、僕らが一歩を踏み出そうとした瞬間――


「我を置いて勝手に盛り上がってもらっては困るな」


 そう聞こえた瞬間、一瞬にして体から力が抜けるような不快な感覚が襲う。

 そして、それは目の前のアダムも同じらしく、2人は次第に空中に留まるのもキツくなり声のした方向へと視線を向けながら地上へと高度を落としていく。


 視線の先、先程声のした方向には1人の少女がいる。

 そして、その少女は右目を覆っていた眼帯を外しており、その下に隠されていた金色の眼を僕らへと向け、その背には先程まで無かったはずの僕らと同じ漆黒の翼を発現させていた。


「まさか、メイリンも『原罪』の適合者なのか!?」


 驚きの声を上げる僕に、メイリンは不適な笑みを浮かべながら嬉しそうな声を上げる。


「まさか、我が探していた同類が2人も目の前に現れるとは! しかし、響史が我と同じく呪われた魔の力を有しているとは思わなんだぞ!」


 謎の虚脱感に襲われながらも僕とアダムは地上まで降り、メイリンが待ち構える地上へと辿り着く。

 そして、僕は鋭い視線をメイリンへと向けながら問い掛ける。


「それで、いったい君の目的は何だ?」


「無論、我と同じ力を持つ者がいると言うのであれば我は2人を倒し、我の最強を示さねばならぬ」


「・・・・・・何のために?」


「決まっておろう! 我が最強である事を示し、世界を統べるためだ!」


 想像以上の答えが返って来たことに、こんな状態であっても僕は反応に困って言葉を失う。

 だが、アダムは表情を変えないままで、しかしその瞳に明らかな殺気を孕みながらメイリンを見据え声を掛ける。


「私の邪魔をするな。これは私と響史の戦いだ。私は私に起きた変化の理由を見付けるため、彼と戦わなければならない」


「知ったことか! 我が最強の力により、キサマら2人を叩きのめして配下に加えてくれよう!」


「・・・・・・そうか。ならば先にお前を片付けるまでだ」


 アダムがそう告げた瞬間、その姿が一瞬にして加速する。

 刹那、強烈な衝撃波と甲高い金属音が響き、凄まじいスピードでメイリンとの距離を詰めてランスを振り下ろしたアダムと、それを同じく凄まじい反射速度で剣型の神器を顕現させて受け止めるメイリンの姿があった。


「ほう。我が《ルシファー》の影響下でここまでの動きを見せるか」


「・・・・・・そう言うお前も私の《ベルフェゴール》の影響をあまり受けていいないようだな」


「はっ! 我が力の前ではどのような力も無意味だからな!」


 メイリンがそう言葉を発すると共に、一気に腕に力を入れるとアダムの体を弾き飛ばす。

 それと同時、その剣型の神器が光に包まれる。


「さあ、我が聖剣の威力、その身に味わえ!!」


「させると思うか?」


 対するアダムは冷静な口調のまま、メイリンと同じくランス型の神器に光を宿す。


 瞬間、この2つの力がまともに衝突すればこの島が消し飛ぶと理解した僕は、一瞬だけ《サタン》の力を解き放ち、膨れ上がった膨大な魔力で一瞬にして衝撃波を発生させ、2人の方向に目掛けて解き放つ。


「なっ!?」「なに!?」


 そして、その衝撃波を防ぐべく2人がガードの体勢に入ったことでその攻撃を中断させることに成功する。


「く、くははははは! 良いぞ! そうで無くては我が障害とはなり得ない! さあ、我が最強を示すために全力でかかってくるが良い!」


「待っていろ。私は答えを得るためお前と戦うが、その前にこの邪魔な女を片付ける」


 上機嫌で笑い声を上げるメイリンに冷静に物騒な事を告げるアダム。

 そんな2人を殺さないように止めなければならい僕は、頭を抱えたくなるのを必死に押さえながら、実力的に拮抗しているこの三つ巴の状況を解決する為、必死に思考を巡らせるのであった。

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