第7話 怪しい研究施設

 ボクらがメーリンに実力を示した後、テンションが上がって「ここまでのものを見せられれば、我も――」と言い出したのをキョージがどうにか押さえ、目的となる施設へと向かうことになった。

 おそらく、キョージはメーリンを巻き込んで協力してもらっている以上、危険な目に遭わせられないと押さえたのだろうが、ボクの勘ではメーリンは本人が言うように本当にそこそこ強いのでは無いかと思っているのでそこまで気を使わないでも、とは正直思う。

 実際、メーリンから感じる不思議な魔力を捉えたシショーは『響史はさほど警戒してないようだが、その分お前は気を許すなよ』と警告を発したほどだし。


 だが結局、目的の軍事施設付近まで辿り着くまでにさほど大きな問題も無く、「最強の力を持っているのなら、僕らがどうしようも無いピンチになったら頼るから」と言うキョージの言葉に気を良くしたメーリンがおかしな行動を取ることも無かったのでだいぶ楽が出来た。

 本音を言えば先にメーリンの実力がどの程度のものか、それとどんな神器を所有しているかを確認したかったのだが。

 なんでも、シショー曰くメーリンから発せられる不思議な魔力が神器の物で有るかははっきりと分からないらしく、その影響でメーリンが所持している神器がいったいどう言った物で有るかもはっきりと認識出来ないらしい。


「さて、目的地は見えて来たけど・・・・・・どうしようか?」


 目的まで数百メートル言った距離まで近付いた所でそう尋ねてくるキョージの視線の先には不思議な魔力を感じる建物が2つ、それもそこそこ離れた地点に点在していた。


「ボクとキョージが別れるのは当然として、あとはメーリンがどっちに付いていくかだね」


「我はどちらでも構わぬぞ」


 メーリンのその言葉にボクとキョージは視線を交すと、ボクの考えを悟ったのかキョージが無言で肯きを返した後でメーリンに向かって口を開く。


「それじゃあ僕と一緒に来てくれるかい?」


「うむ、良いぞ」


 正直、ボクが本気で戦うためには『色欲アスモデウス』を解放する必要が有るため、力を隠したい相手であるメーリンがいては全力で戦えない。

 それに、メーリンの身を守りながら探索を行うにはキョージの『アイギス』が最適だ。


「それじゃあ探索が終わったらそこの大きな駐車場で集合にでもする?」


 そう言いながらボクは近くに見えた大きな駐車場を指差し告げる。


「そうだね。一応2時間後に集合、ってことにしといた方が良いだろうね。そして、どちらかが時間までに戻らない場合はそっちが探しに向かった施設に増援に来る、って事でどう?」


「問題無い」


 そう打ち合わせが終わった所でボクらは二手に分かれ、それぞれ別の施設に向かって歩みを進める。


 暫く歩いたところでボクは目的の施設まで辿り着く。

 その施設がいったいどう言った施設であるのかは皆目見当が付かないが、他の民家やショッピング施設の残骸に比べたら比較的原形を留めており、しっかりとした造に見えることから何かしらの政府機関が属する施設なのかも知れない。


「とりあえず入ってみる?」


 一先ずボクはボクの中にいるシショーに相談してみる。


『まあ、不思議な魔力の残滓は感じるが建物内に生きた生物の気配も感じないし、セキュリティシステムにだけは気を付けるように』


 そうシショーから忠告を受けた後、ボクはとりあえず施設の中へと足を踏み入れた。


 そして探索を始めること30分、ボクは特に何も見つける事は出来ずに一通りの部屋を探索し終える。


「ううん、特に何も無いね」


『しかし、確かに魔力の残滓は感じるんだよな』


 シショーはそう呟いた後、『もっと感覚を研ぎ澄まして気配を探ってみろ』と指示を飛ばしてくる。

 その指示にボクは大人しく従い、より感覚を研ぎ澄ます。


「・・・・・・地下?」


『みたいだな。だけど、先程の探索ではそれらしい場所に下りていく通路や扉は見られなかったが・・・・・・まあ、十中八九何処かに隠し通路があるんだろうな』


 その言葉にボクは若干面倒臭くなり、手っ取り早く地下まで下りる妙案を思い付く。


「そうだ」


『駄目だ』


 浮かんだ案を口にしようとした瞬間、速攻でシショーにダメ出しを受ける。


「・・・・・・まだ何も言ってないのに」


『どうせ《アスモデウス》で床をぶち抜く、とか言うつもりだろ』


「・・・・・・・・・・・・」


 図星を突かれたボクは頬を膨らましながら口を噤む。

 そんなボクの態度にシショーはため息を漏らしながら『いいか?』と諭すように語り掛ける。


『そんな乱暴な方法で侵入したとして、そこにある重要な情報まで吹き飛ばしたらどうするつもりだ?』


「・・・・・・大丈夫、ちゃんと加減を――」


『そう言って今まで何度施設や物資ごと吹き飛ばして響史に怒られた?』


 シショーの言葉に、ボクは反論の言葉を見付けられずに沈黙を返す。

 しかし、それではいったいどうしろと言うのだろうか?


『とりあえずオレと暫く代れ』


 そのシショーの言葉に渋々肯くと、ボクは『聖杯カリス』の力を発動する。

 瞬間、ボクの体は光に包まれ、138のボクの身長は一気に174まで膨れ上がり、漆黒の髪は鮮やかな青色へと変じる。

 そして、光が晴れた頃には肉体の主導権はボクからシショーへと移り変わっていた。


『それで、シショーはいったいどうするつもり?』


「まあ、見てろ」


 そう告げた後、シショーは壁へと手を付けると瞳を閉じる。

 そして、その掌を中心に壁を伝うように微力な魔力を放出する。


「・・・・・・1階の端から3番目の部屋。そこの床にどうやら扉があるようだな」


 おそらくキョージが使う『天眼』と同じく魔力をソナーのように使って建物の構造をサーチしたのだろう。

 瞼を開けた瞬間にシショーはそう呟くと、さっさとその部屋まで足を運ぶ。

 そして、目的の部屋へ辿り着くと部屋の中央に置かれた椅子と机を動かし、その下に敷かれた絨毯を捲って扉を見つけ出す。

 だが、どうやらその扉を開くには横に埋め込まれている端末にIDカードをかざす必要が有るようで、取っ手などは一切付いていなかった。


「とりあえずオレが出来るのはここまでだな。後はお前に任せる」


『分かった』


 そう答えた後、ボクは再度『聖杯カリス』を発動させて体と意識を元に戻す。

 そして、そのまま『聖杯カリス』を発動させた状態で端末へと手をかざす。

 瞬間、電子音が響いたかと思えば目の前の扉が横にスライドし、その下から地下へと下りるハシゴが姿を現した。


『やっぱり便利な神器だな』


「まあね」


 シショーの言葉に簡単な返事を返しながらボクはハシゴを下り始める。


 ボクの持つ『聖杯カリス』は直接の戦闘力は無いものの、その性質は万能と言って良い程応用が利く。

 普段は肉体の強化や魔力性質の変更などに使うが、元々の能力は『魔力の限り対象の性質を望んだ通りに書き換える』と言う物で有り、その対象はどんな物でも良い。

 つまり、このような電子的なロックであればそのロックの条件を無理矢理書き換える事で、ボクの微弱な生体電気を感知すれば開くようにだって出来るのだ。

 それに、システム内の電子データも魔力を使って自由に弄れるため、どのようなセキュリティもボクの『聖杯カリス』の前には意味を為さい。


(まあ、やり過ぎると必要な情報まで壊しちゃうからから気を付けなくちゃいけないんだけど)


 そんな事を考えながらボクは淡々とハシゴを下りていく。

 正直、このハワイ諸島に新たな仲間の手がかりがあると判明した軍事施設でボクは大きなミスをしていた。

 当たり前だが軍事施設のシステムにセキュリティが設定されていない訳も無く、それを突破して情報を得るために先程ボクが使った裏技をそこでも使っているのだが、その際にボクはその仲間候補が囚われている施設の位置情報やパーソナルデータなどが入っていたと思われるフォルダを根刮ぎ消してしまっている。

 だが、ボクが正直に申告しなければ英語の読めないキョージにはその事実は分からないため、ボクはその事実を黙っていた。

 勿論シショーにもナイショだ。


(まあ、2人で探せば直ぐに見つかるだろうし、大した問題じゃ無いよね)


 そう自分に言い聞かせながら黙々とハシゴを下りること数分、漸くボクの足が地面の感触を感じる。

 瞬間、目の前に伸びる通路に光が灯る。


『どうやら、ここの電源はまだ生きてるみたいだな』


「だね。でも、人の気配は一切感じないけどね」


 そんな会話をシショーと交しながら、ボクは迷うこと無く通路の奥へと歩を進める。

 そして歩き出して数分、またもや電子ロックとダイヤルロックの2重で物々しく閉じられたドアを『聖杯カリス』の力で無理矢理こじ開け、かなり広い空間に辿り着く。


「なんだろう、これ?」


 そう言いながらボクが視線を向けた先には2m程の大きさの半透明をした円柱が幾つも立ち並んでいた。

 その中には一様に謎の液体が充満しており、中には良く分からない物体が浮かんでいるものもある。


『とりあえず、あそこの中央の端末を調べてみれば良いんじゃ無いか?』


 シショーの言葉を受け、ボクは中央に設置された大きなモニターが3つも設置された端末へと近付く。

 そして、とりあえず『聖杯カリス』の力でロックを解除すると、その中にある情報の確認を開始する。

 幸いにも、今回は余計に情報を破損させることも無く全てを解読したところでボクは徐にその機械の1つに近付いていく。


『おい、どうした? いったいこの機械はなんだ?』


 何も告げずにいきなり機械の操作を始めたボクに、シショーは戸惑いの声を上げる。


「さっきの端末からこの装置の用途と操作方法が分かったんだけど、きっと面白いことが出来るから早速試そうかな、と」


『・・・・・・ちょっと待て。妙なことをして事態をややこしくするつもりじゃ無いだろうな?』


「まさか! きっとシショーも喜ぶはずだよ!」


『だったら、何かする前に何をするつもりか説明願おうか』


「それは・・・・・・まあ、兎に角楽しみに待っててよ!」


 うんざりした口調でそう告げるシショーに、ボクは満面の笑みを浮かべながらそう告げる。


 ああ、きっとシショーは驚くだろうし、同時に喜んでくれるはずだろう。

 それに、これで漸くボクの悩みの1つが解消される。


 その事実に心躍らせながら、ボクは更に何事かを語り掛けてくるシショーの言葉を無視して装置の準備に取りかかるのだった。

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