第15話 強敵
次の日の朝、一向に機嫌の直らないアヤメに戸惑いを覚えながらも大型のドラゴンが陣取る隣町を目指して拠点としている集落を出発する。
集落から隣町までは車で30分ほどの距離が有るのだが、魔力により強化された僕とアヤメの身体能力では車とさほど変わらない速度で走ることが出来るため、途中で休憩を挟んだところで目的となる隣町の大型商業施設に辿り着くまでに1時間程度しかかからなかった。
そして、事前にその姿を遠くから確認出来てはいたのだが、目的のドラゴンはやはりその廃墟と化している大型商業施設の駐車場で体を横たえ、眠りに付いてた。
「・・・・・・やっぱり、とてつもない力を感じるな」
ゴクリと唾を飲み込みながら呟くと、目の前の相手へと意識を集中する。
やはりと言うか、飛龍程度とは比べ物にならほど強大な魔力の波長を感じる。
これだけの魔力量を有していれば、おそらくその身体能力と皮膚や鱗の堅さも飛龍とは段違いなのだろう。
「それじゃあ、一先ず頑張ってみるよ」
無言で僕を見つめるアヤメに、僕は笑顔を向けてそう告げるが、相変わらずアヤメは不機嫌そうな表情を浮かべたままで「・・・・・・気を付けて」と一言口にしただけだった。
(いったいどうしたんだろうか?)
そんな疑問が浮かんだものの、目の前の相手に集中出来なければ僕の身も危ういと判断し、軽く首を横に振ることで余計な思考をふるい落とすと『アイギス』を顕現させる。
(あれ?)
だがそこで、僕はある不思議な事実に気付く。
普段、僕やアヤメ、それに飛龍でも同じなのだが、魔眼で見ることの出来る体から発せらた魔力の波長は青白い靄である事が基本だ。
だが、その魔力の波長は神器を発動させれば金色の輝きに、そしてアヤメのように『原罪』の力を解放すれば赤黒い色へと変色する。
(このドラゴン、神器を発動した時と同じ金色の魔力を放っている?)
いったいこの違いは何なのだろう?
『アイギス』の内なる世界で修行していた時のナナリーさんでさえ、『アイギス』の力を使っていなければ魔力は青白い靄のように見えていた。
つまり、基本的に魔力の輝きはこのように見えるのが普通なのだろう。
しかし、強力な魔力の塊である神器を発現させた場合、その影響で魔力に輝きが変わり、更に大きな力である『原罪』を発現させればそれに合わせて色が変わると言った特性の物なのだろうと理解していた。
だが、目の前のドラゴンは神器が発現した時と同様、黄金の魔力を纏っていると言う事は僕達と同じように神器を所有してるとでも言うのだろうか?
(いや、有り得ない)
しかし、僕はナナリーさんに神器の特徴を教わっているため、そんな仮説が成立しないことを知っている。
そもそも神器とは、かつて別の世界で英雄と呼ばれた人達の魂を核に強大な魔力を纏って武器の姿へと転じた物だと聞いている。
そしてその神器は、人の強い意志や決意に呼応する事で力を発揮するものだとも教えてもらった。
故に、一部の例外を除き神器を操れるのは感情を持ち、元となった英雄の魂に近い肉体を所持する人間だけであり、どれだけ知能が高く魔術を操れるような魔獣でも神器だけは扱うことが出来ないはずなのだ。
(て事は、このドラゴンは神器並みに強大な魔力を持っているだけ? それとも、ナナリーさんの知識は元の世界でのものだから、こっちの世界でも必ず正しいとは限らないって言ってたしそれの影響?)
色々と考えを巡らせるが、結局はどれだけ考えても答えなど出てくる気配も無いため、とりあえず戦いながら考えるか、と僕は無理矢理思考を切り替える。
「『雷神槍』!」
そして、ひとまずは様子見程度と雷槍を呼び出すと、『アイギス』により防壁を展開した右手にそれを掴む。
「はっ!!」
掛け声と共に、僕はその雷槍を全力でドラゴンへと投擲する。
そしてその一撃は、ピクリとも身動きを取らないドラゴンの胸部へと真っ直ぐに到達するが、その鱗に触れた瞬間に弾けて消えてしまい、ほんの僅かでさえもダメージを与えることは叶わなかった。
「うーん、やっぱり効果無し、か」
ため息を吐きながらそう呟き、一切反応すらされないところを見るに、この程度の攻撃では自身が攻撃されたと言う事実に気付かれない程の微力な効果しか無かったのだろうことを悟り肩を落とす。
「一先ず、いきなり勝てはしないとしても今後の対策を考えるためにも今回の戦いで相手の動きは見ときたいな。だけどそのためには、とりあえずこいつに僕を敵として認識してもらう必要は有る、か」
しかし、それはそんなに簡単な問題でも無い。
現状、僕が使える魔術の中で最も威力がある技は『炎神拳』による『腕力+魔力による爆炎』である事は間違い無い。
それでも、『雷神槍』で一切のダメージが通らなかった以上は、良くてその表皮を多少焦がす程度のダメージしか見込めない。
そうなれば、接近して攻撃を行う関係上、下手をすればその巨体に弾き飛ばされて致命傷を負ってしまう危険性が有るし、そうならなかったとしても間違い無く自身が生み出した爆風で相応の反動を受ける事になる。
(だけど、今の僕が扱える魔力ではこれが限界なんだよな・・・・・・でも、技を組み合わせればどうにかなるか?)
そう考えながら、僕は改めて僕が扱える魔力について思考を巡らせる。
僕の魔力の中で最も相性が良いのは炎で、これは結構な威力の爆炎を生み出すことが出来る。
逆に最も相性が悪いのは水で、これは空気中の水分を集めて水の球を2つ作るのが限界だ。
後は風の魔力で局所的に突風を生み出したり、電撃を発生させたり、地面に干渉して鉄を作り出して飛ばしたり出来るが、どの力を活用してもとてもドラゴンにダメージを与えられるとは思えない。
「待てよ。そう言えば、電気で鉄を誘導して強力な弾を撃ち出すレールガンってのがあったような・・・・・・」
だが、残念な事に僕の知識ではその『レールガン』と言うものの存在を知っていても、それがどんな原理で再現出来るものなのかはさっぱりと解らない。
「ううん・・・・・・だったら、魔力でドリルみたいな鉄の弾を作って、それを回転させながら敵に届く形で磁力のレールを用意してやれば良いんじゃ無いか! そして、そのドリルの中に炎の魔力で爆弾を仕込んでやれば、相手の皮膚に刺さったところで爆発させて・・・・・・よしっ、やってみるか!」
そう自分に気合いを入れると、僕は早速地面から鉄の塊を生成し、それをドリルのような形に加工する。
そして、そのドリルの中に圧縮した炎の魔力を詰め込むと、弾自体に磁力を付与し、それが通るための磁力の道をドラゴンの胸部まで繋げる。
「さあ、行け!!」
そして、磁力の道に弾を浮かべるとそれを思いっ切り殴り、磁力の流れで弾道を誘導し、回転と少しずつ速度を加速するように磁力の流れを調整しながらドラゴンへと向かって飛ばす。
攻撃を放って次の瞬間、瞬く間にそれがドラゴンの胸部に達すると、派手な火花を散らしながら浅く皮膚を裂いたところで弾の強度が限界を迎え、内部に封じていた炎の魔力が大爆発を起こした。
「やった!」
思わず喜びの声を上げたものの、僕が与えたダメージはその皮膚を多少裂き、少量の血を流させた程度に過ぎない。
それでも、その巨体にとっては大したダメージでは無いとしても、吹き出された血の量は軽い水たまりが出来る程であり、ドラゴンが低い唸り声を上げて体を起こしたことから漸くこちらを敵と認識してもらうことには成功したようだ。
だが、次の瞬間僕の喜びの感情は吹き飛び、予想外の事態に凍り付くことになる。
『ナニモノダ、オレノネムリヲ、サマタゲルノハ』
突如、頭の中に直接響くように声が聞こえる。
ザラザラとノイズのように響くその声はとても聞き辛いが、それでもそれが目の前のドラゴンが発してるものだと容易に想像が付いた。
だが、今の僕にとって最も重要で衝撃な事は、今当に戦っていた敵に人語を解する程の知能があったと言う事実だった。
『ダレデモヨイ。オレヲコンナスガタニシタジンルイハ、スベテノコラズホロボシテクレル!!』
そう聞こえたと思った瞬間ドラゴンが咆吼を上げ、次の瞬間にはドラゴンを中心に魔力によって生み出された暴風が吹き荒れる。
刹那、僕は『アイギス』による防壁を展開して吹き飛ばされないように身構えるが、あっと言う間に防壁を維持する魔力を根刮ぎ奪われ、次の瞬間には体のあちこちをズタボロに引き裂かれ、まるで風に弄ばれる木の葉のように空へと投げ出された。
もはや魔力も尽き、ダメージにより指一本動かせない僕は呆然と宙へ投げ出され、ただ重力に引かれるままに体が50m程下に見える地面へと落下を始める。
しかし、落下を始めて暫くしたところで僕の体は何か柔らかい感覚に抱き留められる。
「アヤ・・・メ?」
「一度引くよ」
背中に漆黒の羽を生やしたアヤメは、満身創痍で辛うじて言葉を発する僕に心配げな視線を向けながらそう告げると、僕の答えを待つことも無く早々にその場から離脱して行くのだった。
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