第13話 修行の成果

「ッ!!? ・・・・・・・・・・・・ここ、は」


 目が覚めた時、僕はソファーで横になった状態で天井を見つめていた。

 壁に掛けられている時計を見ればどうやら時刻は12時半頃で、ナナリーさんが言ったように僕が修行を始めて約5時間程度しか経っていないらしい。

 しかし、今まで『アイギス』の内なる世界にいた約5年間の記憶もきちんと有るため、自分がいきなり年を取ったような不思議な感覚を覚える。


(やっぱり、一気に5年分の記憶が脳に刻まれた反動か頭痛が酷いな。それに、あっちの世界じゃ食事も無かったからか妙にお腹が空いたような気がする)


 そんな事を考えながらも、僕はゆっくりと体を起こす。


「あっ! やっと戻って来た!」


 突如聞こえた声に、僕は声のした方向へと視線を向ける。

 するとそこには、何処からか見付けてきたらしい児童向けのひらがなの学習帳を広げて読んでいたアヤメの姿があった。


 正直、肉体的にはたったの5時間しか経過していないので勿論ながら成長など一切していないが、精神は5年分成長している事から本来なら思春期真っ盛りな年頃に当たるためか、久々に見たとてつもない美少女であるアヤメの姿に僕は少なくない動揺を覚え、思わず視線を逸らしてしまう。


「ん? どうしたの?」


「い、いや。何でも無い。そう言えば、僕が修行している間に何か変わったことはあった?」


 直接視線を合わせるのは何となく気恥ずかしいため、僕は適当に視線を逸らすと何でも無いように装いながら言葉を発する。


「とりあえず、飛龍ワイバーンが数匹襲って来たかな。でも、群れじゃ無くて単体のはぐれが数匹だったから、警護に当たらせてる悪魔が問題無く対処してくれてたおかげでボクはずっと家の中でのんびりこの国の文字を勉強中」


 そう言いながらアヤメは持っていたひらがなの学習帳を閉じると、僕に見せるようにひらひらと振って見せた。


「それにしても・・・・・・キョージの修行は上手く行ったみたいだね」


「分かるの?」


 驚きの表情を浮かべながら尋ねる僕に、アヤメはニッコリと笑顔を浮かべながら「感じる魔力量が格段に増してるし、だいぶ落ち着いた顔付きになってる」と楽しそうに語る。


「そ、それは良かった」


 そのアヤメの笑顔に、再度僕は顔が熱くなるのを感じながら視線を逸らしたのだった。


「さて! それじゃあいい加減お昼に――」


 そう言いながらアヤメが立ち上がったところで、僕はこちらに向かってくる無数の微弱な魔力反応に気付く。

 それと同時に、立ち上がったアヤメも気配がする方向へと視線を向けた。


「どうやらキョージも気付いたみたいだね」


「ああ。これが飛龍の気配?」


「うん。しかもこの数。50は有るから結構な規模の群れだね」


 アヤメはそう告げた後、「流石にこの数は直接叩かないとダメだね」と呟きながらドアの方へと足を向ける。


「ちょっと待って」


 そんなアヤメを僕は呼び止めると、直ぐさまソファーから立ち上がる。


「修行の成果、せっかくだからここで見せとくよ」


 そう告げると、僕は直ぐさまアヤメの方へと歩を進めた。


「大丈夫? やれそう?」


「余裕!」


 僕は笑顔でそれだけ告げると、意気揚々と家の外へと飛び出していった。




「さて、と!」


 軽く気合いを入れながら、遙か上空にポツリと姿の見える飛龍の群れへと視線を向ける。

 アヤメが言ったように、その数は52匹とそこそこの数がいるようだ。


「こっちに来るまで暫く待っても良いけど・・・・・・先に少しは数を減らそうかな」


 そう告げながら、僕は散々練習したように体の中に有る魔力を一気に待機状態まで覚醒させる。

 そして、自身が使いたい魔力の形をイメージしながら、よりその性質を具体的に具現出来るよう、その技名を言葉で現す。


「『雷神槍らいじんそう』!!」


 瞬間、僕の魔力は雷の属性へと姿を変え、僕の周りに10本の雷の槍が生成される。


「よし。それじゃあ――」


 そして、自身の手を守るように薄く手袋のような形で『アイギス』の膜を展開すると、その雷槍の1本を手に取った。


「せえ、の!!」


 掛け声と共に僕はその雷槍を飛龍の群れへと投擲する。

 刹那、凄まじい速度で打ち出された雷槍はあっと言う間に飛龍の群れへと到達し、軌道上を飛んでいた2匹の飛龍を瞬く間に貫いた。


「まだまだ!」


 その後、僕は生み出した10本の雷槍を次々に投擲していく。

 そして、10本全てを投擲し終える頃には52匹の飛龍の群れは、28匹にまで数を減らしていた。


 だが、遠距離からの攻撃を察知した群れはその飛行速度を増しており、攻撃を行う僕を真っ直ぐに目指してきたためか想定よりも早いペースでこちらへと接近していた。

 そして、ある程度近付いたとことで群れの何匹かが進行を止め、こちらへ向かって何かを吐き出そうとするような動きを見せる。


「あの動きは・・・・・・火球か! だったら、『水神球すいじんきゅう』!」


 瞬間、水の属性を得た僕の魔力は2つの水球を生み出す。

 そして、吐き出された火球を遮るように薄い壁のような形に姿を変えると、着弾した火球の尽くを打ち消して霧散してしまった。


「よし! ここまで近付いてれば直接叩くだけだ!」


 目の前で火球が防がれたことにも一切怯むこと無くこちらへ真っ直ぐ飛んでくる飛龍は、既に100m程の距離にまで近付いてた。

 そして、これだけ近付けば既に奴らは僕の間合いの中だ。


「『炎神拳えんじんけん』! 『風神脚ふうじんきゃく』!」


 両方の手と足に『アイギス』による防御の魔力を纏いながら、僕は二つの術を発動させる。

 すると、僕の拳は燃え盛る炎に包まれ、僕に足には濃密な風の膜が生み出される。


「ハッ!」


 そして、僕が地面を蹴ると同時に風の力で僕の体は打ち上げられ、瞬く間に飛龍との距離を詰める。


「やっ!!」


 掛け声と共に振り抜かれた炎を纏う右腕は、突然の襲撃に対応が追い付いていない1匹の飛龍の腹部へ易々と到達する。

 瞬間、飛龍に触れた炎が爆ぜ、爆炎と共にその体を吹き飛ばした。


「ふっ!」


 そして僕は、爆風により崩れた体制を難無く調えながら、足下に『アイギス』を展開する事でそれを足場とし、次の獲物を狩るために再度跳躍する。


 それから、僕は『アイギス』を空中での簡易的な足場としながら縦横無尽に空を駆け、次から次に飛龍の数を減らす。

 だがそれでも、羽を生やして自由に空を駆ける飛龍の方が空中ではアドバンテージがあり、その数を15まで減らす頃には気付けば僕は囲まれるような位置取りまで誘導されていた。


 そして、その状態であれば近付くより中距離攻撃が有効だと判断したのか、15匹の飛龍が同時に僕に向かって炎のブレスを放ってくる。


 だが、僕もその事態にさほど慌てることもせず、僕の体を包み込むように球状の盾を生み出すと、その表面にブレスによるダメージを最大限に逸らす形で魔力の流れを生み出し、そのまま止まること無く1匹の飛龍を吹き飛ばした。


「ううん、やっぱり1匹ずつだと時間がかかるな」


 方向転換を行いながら、更に1匹の飛龍を吹き飛ばしたところで僕はそう呟く。

『雷神槍』は、別に投擲を行わなくてもある程度の威力で打ち出すことが出来るのだが、その場合はどうしても威力が大幅に落ちてしまうことに加え、飛龍の厚い鱗に阻まれれば電撃によるダメージもあまり期待出来ない。

 そうなってくると、接近戦を行う現段階では『炎神拳』で直接叩いた方が効率的だ。


 だが、『炎神拳』ではどうしても直接殴る必要が出てくるため、一度に倒せる飛龍は1匹だけとなってしまう。


「う~ん、制御が難しいから僕にも被害が及ぶかも知れないけど、を使うかな」


 そう呟くと、僕は飛龍の群れの中心を位置取るように移動し、そこに『アイギス』による足場を形成して立ち止まる。


「『地神柱ちじんちゅう』!」


 そして技名を告げた瞬間、眼下の地中から何本もの土の杭が姿を現し、空中に向かって一斉に射出される。

 それは5秒ほど続き、終わる頃には残りの飛龍は体のあちこちに穴が開いている状態となっており、そのまま力を失い地面へと落下していった。


「いてて、やっぱりこの技は僕も多少は被害を受けるな」


『アイギス』による防壁でほとんど僕に降り注ぐ土の杭は軌道をずらす事で対処してるが、あまりその防御に魔力を裂くと自分の技で魔力を根刮ぎ持って行かれるという間抜けな事態が発生してしまうため、必要最低限な魔力しか守りには回せなず、十分に起動を逸らしきれなかった土の杭により僕の体には幾つかの切り傷が生じていた。

 正直、本来であればこんな厄介な技にするつもりなど無かったのだが、この技では土の杭に単純な指令しか出せない関係上攻撃の軌道上に僕が陣取り、土の杭を誘導してやる必要性が生じるのだ。

 その代わりに、魔力で固めた土の杭という物理的な攻撃を行うため、相手が魔術に対する防御力が高い場合であっても十分なダメージを与えることが出来る。


「でも、これで終り!」


 そう呟いた後、体に治癒力を高めるように魔力を回しながら足場として生成していた『アイギス』を消し、風の魔力で速度を落としながらアヤメの待つ地上へと戻っていった。

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