第2話:仕手株勝負

 俺は勝負をかけて全力で信用売りをした。

 660億分の信用売りを叩きつけた事で、株は一気に急落した。

 そこに更に660億分の信用買いを清算する売り注文を叩きつけた。

 もしここで強力な仕手筋が買い勝負に出たら、俺は全てを失うだろう。

 とは言っても、清算する前の400億など単なる数字でしかない。

 実際に失うのは最初に投入した宝くじ当選金40億だ。

 あぶく銭が泡と消えるのは当然と言えば当然だ。


「値動きが危なくなっているぞ、もし本当に買っているのなら、損切りしてでも清算しておいた方がいいぞ」


 隣家の親父さんが翌日俺に声をかけてくれた。

 仕手株に乗りたいと相談はしたが、仕手が始まった時に実際に便乗して買うか買わないかは、本人の決断次第だ。

 今俺が儲けているのか損をしているのかも隣家の親父さんは知らない。

 まさか俺が宝くじで42億円を当選して、そのうちの40億も投資しているとは想像もしていないだろう。

 俺が深みにはまらないように、常識的な事を教えてくれただけだ。


「はい、分かりました、今日中に全部清算します」


 俺はこのまま底値まで信用売りを叩きつけたい気持ちだったが、隣家の親父さんの教えに従うことにした。

 最安値で買って最高値で売る事なんかできるはずがないのだ。

 同じように最高値で信用売りして、最安値で清算買いする事も不可能だ。

 もう養老馬牧場を設立するには十分な金額を得ている。

 これ以上欲張って全てを失ったら馬鹿以外の何物でもない。


 昨日の時点で保証金が600億程度、信用売りしていた額が1000億ほどで、その全てを清算するにのに意外と日数がかかってしまった。

 俺が1000億分もの信用売り清算の買いを入れたのに、暴落の流れは変わらず、連日のストップ安となった。

 欲深く行けばもっと儲けられたかもしれないが、逆に反発して高値となり、全てを失っていたかもしれない。

 だがそもそも勝負株を教えてくれたのは隣家の親父さんだから、引き時だという教えも守るべきなのだと思ったのだ。


「どうだ、もう株は懲りたか?」


「はい、もう二度と株はしません」


 隣家の親父さんは、初めての仕手参加で俺が負けたと思ったのだろう。

 だが俺は隣家の親父さんお陰で1200億円以上の利益を手にれる事ができた。

 本当ならお礼をしなければいけないのだが、そんな事をして痛くもない腹を探られて、違法売買だと言われたくない。

 隣家の親父さんは癌で余命いくばくもないから、残される奥さんと娘さんに何かあった時に、助ける事で御礼とする事にした。

 これで全て問題なく終われると思ったのだが、俺は母親の勘と弟の身勝手を忘れてしまっていたのだ。

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