第4話 おしかけ妻昼下がりの誘惑

「あー、お昼からすごく美味しかったよー。ご馳走様、マイちゃん」

「どういたしまして、透さん。夜はもっと腕によりを掛けますよ」

「ありがとう。マイちゃん、僕も頑張るよ」

「えっ、夜頑張るって、えええっ、透さん、ええええっ」

「え、いや、夜頑張るってんじゃなくって! 頑張って食べるって意味だよ!」

「えー、そーなん、ですかー……。夜、頑張ってくださっても、いいのに……」

「え、何か言った? マイちゃん」

「あっ、あははっ、いやー、なんでもないですっ! なんでもっ! あははは……」


 休日はこのバカップルぶりである。


 入籍はしていないが、真名は既に『小森マイ』である。さっさと婚姻届けを出さないと話がややこしくなりそうだが、透は第2話『巻きで参ります』のとおり、順序を重んじるタイプであった。


 それはともかく。


 暖かい午後だ。このロフトハウスはロフトになってる側が南向きで採光面積が大きい。室内は冬でもぽかぽかだ。ちなみに夏は天窓を開ければ暖まった空気は空に抜けていく。快適設計であった。


 片づけ物が終わると、しばしやることがない。若い男女が一つ屋根。この状況ですることと言えば!


『楽しい休日お昼のワイドだよショー!』


 おやつを食べながらのテレビ鑑賞である。


『……先日のええもん見つけ隊の生放送中に偶然撮影された宙を舞う巨人について、新たな視聴者情報が寄せられました。まずは撮影された別アングルのビデオをご覧ください』

『画面が揺れて分かりにくいですが、ビルとビルの間を飛んでいるのは女性のように見えますね』

『前方の小さな灰色の物体を追いかけているようにも見えます。あっまた跳躍しました』

『ビルのサイズから推算すると、幅跳び10メートル以上になりますね』

『別の映像も送られてきています。こちらは、短いですが鮮明ですね』

『近くのビルの窓から撮ったものだそうです』

『緑の髪の女性に見えますね』

『しかし、あの大きさだと3メートル近くあることになります。信じられません』


 マイと透は飲みかけのお茶を噴き出した。

 マイの噴き出したお茶は高さがあったため霧散し部屋に虹がかかった。


『ここで現場となった北新山市中央大通り商店街で魚屋を営む定本繁雄さんと電話が繋がっています。定本さんはあの巨人をご存じだそうですが』

『ああ、ご存じも何も、この辺のもんはみんな知っとるよ。今更テレビ局が何言っとんじゃと思うな』

『地元では有名な巨人ということですね。その正体は?』

『それはの』



 ぴぽーん。ぴぽぴぽぴぽーん。


 小森邸の玄関に鳴るチャイム音。

 しかし、応える者はいない。


 マイも透も、既にお昼寝だ。


 正座したマイの太腿にはさまれるようにスヤスヤと眠る透。

 彼を抱えるようにしながらも、自身も眠るマイ。


 そんなけだるい午後に、いつまでもぴぽぴぽぴぽーんという音が響いていた。



◇◇◇◇


 昼下がりの誘惑とは、おわかりでしょうが芸能界からのお誘いです(タイトル詐欺)。

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