第7話 俊介と『梨子のトラウマ』
真一「梨子、真美、お前らの『トラウマ』の話、もう少しオレに話を預からせてくれへんか(くれないか)?」
梨子「え、うん…」
真美「しんちゃん、どうしたの?」
真一「なんか、お前ら見てたら、心の奥の奥に何かあるんやないか…と思って。今のままでは、どないも(どうしようも)格好つかんやんか」
梨子・真美「………」
真一「梨子、お前はお父さんが亡くなったことはいつ知ったんや?」
梨子「一昨年の5月くらいかな…。真美はその時はまだ知らなくて、この前しんちゃんの家に行く2ヶ月前にお母さんが真美に話したの」
真一「そうか…。今回は時間が無いから、一回南町帰るけど、また連絡するわ」
梨子「わかった…。あ、しんちゃん、もし帰るなら、俊介が途中まで車で送ってくれるから、乗って欲しいんや…」
真一「気つかわなくてもええよ。それに、梨子の大事な婚約者やろ? オレを送る暇あったら、梨子が相手してあげな」
梨子「違うの。何かしんちゃんに話したいみたいやったから…」
真一「オレに?」
梨子「うん…」
真一「……梨子、何か言うたんか?」
梨子「言ってないけど、昨日私を送ってくれたとき、俊介がしんちゃんと話したい…って」
真一「何やろ? …まぁ、わかった」
梨子「ありがとう」
真美「しんちゃん。お姉ちゃんだけじゃなくて、私のことまで気にかけてくれて…ごめんなさい」
真一「まぁ、しゃあない(仕方がない)やんか。真美と梨子のことやからなぁ…」
真美「しんちゃん、ありがとう」
真一「あぁ…。梨子、俊介くんにはどこまで話してもええんや?」
梨子「え…、お父さんとお母さんが離婚したことは話してもいいけど、お父さんが亡くなったことだけは…」
真一「わかった…。その辺の話は伏せておくわ」
梨子「うん。お願いします」
そうして、レストランを出た3人。店の前に俊介が車で迎えに来ていた。
梨子「俊介」
俊介「梨子、悪いな…」
梨子「ううん、しんちゃんも了承してくれたから…」
俊介「そうか…。悪いなぁ…」
梨子「謝るなら、しんちゃんに言って」
俊介「わかった」
梨子「しんちゃん、俊介」
俊介「昨日は失礼しました」
真一「いえいえ、こちらこそ。お世話になります」
俊介「いえいえ…。真美ちゃんも来てたのか」
真美「俊介くん」
真一「真美も知ってるんか、俊介くん」
真美「知ってるよ。たまにウチに遊びに来てるから。何してるかは知らないけど…」
梨子「真美❗」
真一「真美、お前もそのうちわかるわ…」
梨子「しんちゃん、車乗って」
真一「悪いなぁ、申し訳ない」
俊介「いえいえ、遠方から来ていただいているとお聞きして、これくらいは…」
真一「梨子、真美」
梨子「しんちゃん」
真美「しんちゃん」
真一「また連絡するで、少し待っててくれ」
梨子「わかった」
真美「わかりました」
真一「うん…」
俊介「じゃあ、出発しますね」
真一「よろしくお願いいたします」
梨子「しんちゃん、ありがとね」
真美「しんちゃん、ありがとう」
真一「あぁ…」
真一は俊介の車で名古屋をあとにした。
俊介「すいません、僕のワガママを聞いていただいて…」
真一「いえいえ、こちらこそ」
しばらく沈黙が続く車内、真一が話し始める。
真一「梨子が迷惑かけてませんか?」
俊介「いえいえ、とんでもないです。いつも僕のこと考えてくれています」
真一「そうですか…。ところで、梨子から伺いました。何か話がある…と」
俊介「実は、梨子のことで…」
真一「梨子がどうかしましたか?」
俊介「実はこの前、梨子にプロポーズしたんです」
真一「梨子から伺いました」
俊介「それで、返事をまだもらってないのですが、ボクがプロポーズした時、梨子の様子が変わったんです」
真一「どういうことですか?」
俊介「何か、思い詰めた顔してました」
真一「思い詰めた顔…」
俊介「梨子のご両親が離婚したことを梨子から伺っています。それで何かあるのかなぁ…って…。ご存知ないですか?」
真一は梨子の『トラウマ』の事を俊介には話さない約束を梨子としているので、安易に俊介には話さないようにした。
真一「いや、何も…。昨日今日、梨子から俊介くんの存在は伺っていました。オノロケとまではいっていませんが、好青年の印象を受けましたよ」
俊介「恐縮です。ボク、梨子とは高校の同級生で、席が隣だったんです。それで雑談してたら話のウマが合って、そこから仲良くなったんですが、あくまで同級生でした。でも梨子はボクの事を長い目でみてくれて、ボクの気持ちも汲んでくれる女の子だったので、梨子の事が好きになったんです。そこから付き合ってくれて…」
真一「そうやったんや…。そしたら、あんたらの思い出の場所言うたら、高校になるんかな?」
俊介「高校もですが、
真一「長良川? 岐阜県の鵜飼やってる長良川?」
俊介「ええ…」
真一「なんでまた長良川なん(なの)?」
俊介「前に二人で鵜飼を見に行って、下船するときに梨子がバランスを崩して川に落ちそうになったことがあって、ボクがしっかり支えたので事なきを得たのですが、その時に、梨子が泣いてたのです『怖かった』って…」
真一「そうやったんや…」
俊介「それで、体を支えるだけじゃなくて、これから先、梨子自身を支えたいって思ったんです。今でも、2人で長良川の話はしてますね…」
真一「それでプロポーズに踏み切ったんや…。なんやひょんなことから、そんな話になったとはなぁ…」
俊介「前々から梨子とのことはいつ踏み切ろうか迷っていました。ちょうどバランスを崩して体を支えたので『今だ』って…(笑)」
真一「色々ありますなぁ…(笑)」
俊介は真一に岐阜県の長良川を案内した。
真一「長良川はテレビで鵜飼の映像はナンボでも(いくらでも)見てるけど、生で長良川を見るのは初めてやなぁ…」
俊介「そうですか…」
真一「俊介くん」
俊介「はい」
真一「梨子の返事、もう少し待ってやってもらえんやろか?」
俊介「えっ?」
真一「梨子、今あんたのこと真剣に考えとる。昨日今日と話を聞いとったけど、あんたにええ加減(いい加減)な返事をしたくないから、時間かかってるんや」
俊介「そうなんですか…、ボクの為に…」
真一「梨子には『あまり待たすなよ』とは言ってあるから、もう少しだけ、もう少しだけ返事待ってやってくれんかな?」
俊介「大丈夫です。梨子の性格も知ってますから…」
真一「ゴメンな、おおきに(ありがとう)」
長良川を見ながら真一は俊介に詫びた。
その後真一は俊介に車で岐阜駅まで送ってもらい、東海道線の電車に乗り、家路についた。
帰宅後、就寝前に真一は考えていた。
真一(梨子はおっちゃんが亡くなったことのトラウマを引っ張っとる。俊介くんは好青年やから、梨子は余計に心配かけたくないんやろなぁ…。長良川の鵜飼見に行って、バランス崩して俊介くんが梨子を支えた…か。そういえば昔、スナックのママがおっちゃんに惚れてたんやったな…。当時はどんな様子やったんやろか…)
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