第6話 真一と梨子と真美

翌朝、真一はビジネスホテルで朝食をとった後、自室で考えていた。


真一(梨子も真美もおっちゃんの『トラウマ』になってたんやな…。真美についてはよりによって『幼なじみ』…。どないしたらええんか(どうしたらいいのか)…。それより梨子の方が深刻なのかも…。彼氏は好青年っぽかった。浮わついた男ではない感じやった。高校の同級生って言うてたなぁ…。結婚したいけど、おっちゃんのことで決心できんのやろなぁ、梨子は。真美は幼なじみとか…。こっちはどないかなるかな(どうにかなるかな)…)


真一は真美については、自分の経験を基にさとせばなんとかなると踏んでいた。しかし梨子についてはどうすればいいのか、一筋縄でいかないだろう…と踏んでいた。真美よりも梨子の方が重症だとにらんでいる。


梨子が迎えに来る10時が近づいてきた。真一はビジネスホテルをチェックアウトし、ロビーで待っていると、梨子が迎えに来た。


梨子「しんちゃん」

真一「梨子」

梨子「おはよう」

真一「おはよう」

梨子「しんちゃん、真美だよ」

真美「真美です。おはようございます」

真一「おはよう。大きなったなぁ。一段と梨子に負けんくらいかわいくなって」

梨子「また、しんちゃんのお世辞や」

真一「マジや」

真美「お世辞でも嬉しいです。照れくさいけど…(笑)」

真一「オレの事なんかわからんやろ?」

真美「すいません」

真一「そりゃ無理もないわ。だってまだ小さかって物心ついてなかったもんなぁ…。言葉も車のことを『ブーブー』とか言うてたから…」

梨子「まだ保育園行く前の頃だったからね…」

真美「お姉ちゃんからお話は聞いています。真一さん、お姉ちゃんと仲良しですね」

真一「そうやなぁ…。一応従姉妹にあたるからね。あ、真一さんやなくても“しんちゃん”でかまへんで。オレは真美のこと知ってるから…」

梨子「私、しんちゃんより年下なのに物心ついた頃から“しんちゃん”って呼んでたもんね」

真一「そうやな…」

真美「じゃあ、しんちゃん❗」

真一「現役の女子高生に呼ばれると照れくさいなぁ…」

梨子「ホントに照れてる(笑)」

真美「(笑)」

真一「高校生活は楽しいか?」

真美「はい、お陰さまで青春真っ只中です(笑)」

真一「一番楽しい時やもんなぁ…」

梨子「私も戻れるなら、高校からやり直したいわぁ」

真一「ホンマやな…」

真美「2人ともそんなに高校時代に戻りたいの?」

真一「戻れるものならね」

梨子「ホントにそうだわ」

真美「お姉ちゃんは俊介くんがいるじゃんか」

梨子「あんただって、りくくんがいるわね(いるじゃないの)」

真一「ん? 真美の彼氏?」

真美「彼氏じゃないです。幼なじみです❗」

真一「幼なじみ?」

梨子「真美と陸くんは、保育園からずっと一緒の学校で、ずっと同じクラスなの」

真一「幼なじみでも、腐れ縁のレベルやな…」

真美「でも、誤解しないでください。陸はただの“幼なじみ”ですから❗」

真一「真美は陸くんのことは何も思わへんのか?」

真美「え…何もないですよ。保育園からずっと同じクラスなので…」

真一「ホントのところはどうなん?」

真美「…ただの幼なじみです…」

真一「そうか…。梨子は俊介くんのことはホントのところどうなん?」

梨子「私は……」

真一「どうした?」

梨子「正直、どうしたらいいのかわからなくて…」

真美「あんなに仲良しなのに? 付き合ってるのに? なんで?」

真一「真美、梨子にも考えがあるんやと思う。あまり責めんと梨子にもペースがあるからな…」

真美「はい…」


真一は梨子を庇った。


真一「梨子、昼飯はどうするんや?」

梨子「あ、行こっか」

真一「うん。どんなうまいもん食いに行くんや?」

梨子「任せといて(笑)」


真一たちは、梨子に言われるがまま昼食を食べる為、店へと向かう。


到着したのは、さかえだった。

栄にあるレストランで3人は洋食を楽しむ。


真一「良い店、よう知ってるなぁ」

梨子「俊介に教えてもらったの」

真美「仲良しなのに、なんで中々結婚しないのかねぇ」

真一「真美、梨子にも考えがあるんや。周りがとやかく言うことやないで、そっとしておいてやれ」

真美「はい…」

梨子「しんちゃん…」

真一「ん?」

梨子「ううん、なんでもない…」

真一「うん…」


しばらく美味しい洋食に舌鼓をうつ3人。


梨子「しんちゃん、よく食べるね(笑)」

真一「うまいもんはうまい。梨子の彼氏はグルメ派か?」

梨子「どうなんだろう…。ファーストフードとか味噌カツとか、色々食べてるよ」

真一「真美は好き嫌いあるんか?」

真美「…ピーマン」

真一「みじん切りからチャレンジしてみよか。まずは焼き飯に入れて食べてみな? オレもガキの頃ピーマン食えんかったけど、お母ちゃんが焼き飯にみじん切りにして入れてあって、違和感なく食べれたから、今度は青椒肉絲チンジャオロースで千切りピーマンチャレンジして、クリアしたら、最終的にピーマンの肉詰めフライで、これもクリアしたから克服できたわ」

梨子「真美、チャーハンからやってみなよ」

真美「しんちゃんからいいこと聞いた。お母さんに作ってもらうね」

真一「あぁ…。真美は彼氏おらん(いない)のか?」

真美「…いないよ…」

梨子「一応、“片思い”の人はいるけどね…(笑)」

真美「お姉ちゃん❗」

真一「若いなぁ…青春してるな(笑)」

梨子「しんちゃん、オッサンみたいなこと言わないの❗」

真一「もうすぐオッサンの域に入るわ(笑)」

梨子「まだ若い❗」

真一「片思いの人がおるだけでもええやんか。どこにおってんや(いるの)?」

真美「…近所に…」

真一「幼なじみの子か?」

真美「………」

真一「オレはあくまでも第三者や。梨子みたいに冷やかしはない。そう(幼なじみ)なんか?」


真美は重たく首を縦に振った。


真一「そうか…。いつから好きなんや?」

真美「…保育園の時から…」

真一「初恋の人か?」

真美「……うん」

真一「そうか…。梨子は俊介くんとはいつ知り合ったん?」

梨子「高校の同級生」

真一「幼なじみではないんか?」

梨子「違うよ。中学まで全然違って、高校で知り合ったの」

真一「そうか…。どこに惹かれた?」

梨子「優しいし、いつも私のこと考えてくれる」

真一「高校の時に何がきっかけで急接近したん?」

梨子「同じクラスで席が隣だったの。それで、話しているうちに仲良くなって…。俊介は優しいし、何て言うのかなぁ…ダンディなところかな」

真一「“男”やったんやな…」

梨子「そうなの」

真一「そやのに、お父さん(浩二)の事が引っ掛かってるって…?」

梨子「…………」

真一「何が引っ掛かってる?」

梨子「…………」


梨子はしょんぼりしている。真美は真一と真美のやり取りを固唾を飲んで見ている。


真一「おっちゃんが亡くなったこと自体が引っ掛かってるんか?」


梨子は首を縦に振った。


真一「お父さんが亡くなってから10年が経ってる。もう戻ってん(来ない)ぞ。でもな、ベタやけど、お前らのココ(心)にあるんやないか?」


梨子・真美「………」


真一「お前らだけやない、オレもや。お前らが深刻に考えなアカンことではない。確かに亡くなった理由は衝撃やったかもしれん。けどな、歴史的事実で今どうすることも出来んやん。梨子、俊介くんとなんで付き合ってるんや? 真美、なんで幼なじみの男の子に片思いしてるんや? 前に一歩踏み出せれんのか?」

梨子「そんな簡単に踏み出せないよ」

真美「そうよ。私の一方的に勝手な思いだから…」

真一「でも、梨子は俊介くんに返事してないんやろ?」

梨子「…うん…」

真一「どうするんや? いつまでもほったらかしには出来んやろ?」

梨子「わかってる。でも、私どうしたらいいか、わからなくなってきて…」


梨子がパニックになっている。真美が梨子の背中を擦る。真一はそれ以上、梨子に声をかけられなかった。

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