第4話 真一と梨子…10年ぶりの再会
真一がデパートの1階総合案内所付近で待ち合わせしていると、梨子がやって来た。
梨子「しんちゃん」
真一「おう、梨子」
梨子「お待たせ」
真一「大丈夫や」
梨子「久しぶり」
真一「元気そうやな」
梨子「うん。しんちゃん変わらんなぁ」
真一「オッサンになったわ」
梨子「まだ25歳やろ? オッサンじゃないよ(笑)」
真一「そうか…」
梨子「うん(笑)」
真一「梨子も大人の女性になって、美人になったなぁ。あの頃の面影はあるなぁ」
梨子「そう? お世辞でも嬉しいよ(笑)」
真一「お世辞やないで。マジや。梨子は叔父さんの面影もあるしなぁ…」
梨子「お父さんの面影ある?」
真一「うん。目元なんか特に…」
梨子「そうかぁ…。やっぱり私、お父さんの子供やものね…」
真一「…うん」
梨子「あ、しんちゃん今日は名古屋で泊まるの?」
真一「うん」
梨子「じゃあ、今夜はしんちゃんとデートできるね(笑)」
真一「彼氏に怒られるわ(笑)」
梨子「大丈夫。彼氏にはちゃんと断りを言って了解もらってるから」
真一「そうか…」
梨子「しんちゃん、今日はどこに泊まるの?」
真一「ん? そこのビジネスホテルや」
梨子「そっか…。じゃあ、しんちゃん行こっか」
真一「あぁ…」
真一は梨子に言われるがまま、名古屋駅前を出た。
梨子は真一を行きつけの居酒屋へ案内した。あらかじめ梨子はこの日のために予約をいれていた。
店員に案内され、奥の個室の座敷へ通される。真一と梨子は生ビールを注文した。
しばらくして、お通しと生ビールが運ばれてきた。
梨子「しんちゃん、南町からわざわざ来てくれてありがとう」
真一「いえいえ、梨子が声をかけてくれたからや…」
梨子「乾杯」
真一「乾杯」
2人は乾杯し、生ビールで喉を潤す。
真一「酒、よう(よく)飲むんか?」
梨子「うん、強いみたい(笑)」
真一「叔父さんの血引いてるなぁ」
梨子「お父さん、お酒強かったんだよね…」
真一「あぁ…」
梨子「しんちゃんは飲めるの?」
真一「すぐに顔真っ赤になる」
梨子「そうなん? いっぱい飲みそうな感じやけど…」
真一「親父に似てるんかも」
梨子「叔父さん、
真一「うん。お母ちゃんは飲めるけどね…」
梨子「おばさんと叔父さんの真ん中ってとこかな…(笑)」
真一「どうなんやろなぁ…」
談笑しながら、料理を注文する真一と梨子。
真一「ところで梨子、オレに電話では話せない話って…?」
梨子「うん…」
真一「叔父さん…お前のお父さんのことか?」
梨子「うん…」
真一「どうした?」
梨子「あのね、しんちゃん…私、彼氏がいるって言ってるじゃん」
真一「うん」
梨子「実はこの前、プロポーズされて…」
真一「そうか、めでたいやないか」
梨子「うん。でも…」
真一「何や?」
梨子「私、この前しんちゃんの家にお母さんと真美と3人で行ったでしょ」
真一「あぁ…」
梨子「それで真美がお父さんの面影知らなくて、おばさんからお父さんの遺影を見せてくれたとき、真美が号泣してて…」
真一「らしいな…」
梨子「それで、真美を見てたら、何か私ももっとお父さんの事を知りたくなって…。お母さんと離婚した後のお父さんの気持ちを考えたら、結婚してもいいのかなぁ…って考えてしまうようになったの」
真一「なんでや?」
梨子「お母さんと離婚した後、私と真美はお母さんと一緒に名古屋に帰って、お父さんは北町で1人になった。お父さんが“うつ”になっていたなんて知らなかった。酒に溺れて自分を責めて…そして…海に車ごと飛び込んで…」
真一「………」
梨子「そんなお父さんの事を考えてたら、私、彼氏と素直に結婚できる自信がなくて…」
真一「トラウマになってんのか?」
梨子「……そうなのかも…」
真一「そうか…」
真一(やっぱり梨子も『トラウマ』になってたんか…)
真一は心の中でつぶやいた。
真一「それで、お前は彼氏のプロポーズを受けるんか? それとも断るんか?」
梨子「『少し考える時間が欲しい』と伝えてあるの」
真一「そうか…。なんで(なぜ)お父さんの事を気にしてるんや?」
梨子「…やっぱり、亡くなったからかなぁ…」
真一「………。お前の両親は離婚したけど、お前はお前やんか。違うか?」
梨子「しんちゃんが言ってることはよく分かるけど…、実の親の事やし、とても他人事とは思えないの」
真一は梨子の返事にハッとした。真一も高校時代、同じ境遇だったからだ。
それは真一が高校時代、養護教諭(保健室)の大川先生に幼なじみの優香に対して、自分の本当の気持ちを話したことだった。
(回想)
真一「ちょっと先生と2人で話したい事があって…」
大川先生「何や? 加島さん(優香)のこと?」
真一「…ええ」
大川先生「あんた、加島さんのことどう思ってんの?」
真一「…幼なじみですよ」
大川先生「でも好きなんでしょ?」
真一「………」
大川先生「好きやって言うたらエエだけのことやな」
真一「そうはいかんのですわ」
大川先生「なんでや?」
真一「誰にも絶対言わないで欲しいんですが…」
大川先生「なんや?」
真一「約束していただけますか?」
大川先生「…わかった。約束する」
真一「……実は、オレが中学3年の時、叔父さんが亡くなったんです。叔父さんは高校の時、好きやった同級生と付き合ったのですが、彼女は高校卒業後、大学に行くことになったんです。叔父さんも彼女と同じ大学に行きたくて、ウチの婆さん(叔父さんの母親)に『大学に行かせて欲しい』と頼み込んだのです。けど、ウチは貧乏だったので大学に行くお金などありませんでした。それでも叔父さんは彼女のこと諦めきれずに、婆さんの反対を押しきって奨学金制度を使って大学に行ったんです。けど、大学に行ってから、2人の間に子供ができたんです。双方の両親からこっぴどく叱られ、子供は中絶となったのですが、本人たちは本当に愛し合っているので家族が無理から引き裂くのはどうか…とのことで、中絶を条件に結婚したのです(当時は『できちゃった結婚』が世間では許されなかった時代)。結婚後は2人の女の子を授かったのですが、叔父さんは名古屋で就職しても人間関係でやめてしまう事が度々あったんです。それで、叔父さんは地元に帰って来て夜勤の工場で働く決心をしたのですが、奥さんに何の相談もなく地元に引っ越すことに、奥さんは怒ってしまって、地元に引っ越ししてしばらくして離婚してしまったのです。その時、金目のものは全て離婚した嫁が引き揚げ
、娘2人と一緒に地元を出て名古屋に帰ったんです。その時叔父さんは『うつ』になっていました。正気の状態でないときに離婚の相談をして、叔父さんをドン底に沈めたのです。そして、叔父さんは車ごと海にダイビングしたんです。叔父さんが亡くなってしばらくして、婆さんがオレにこの話をし始めて『お前の両親にも誰にも言うな』と言われたんですが、いまのオレは叔父さんと同じ轍を踏もうとしているんです。それに、叔父さんは『オレみたいな男になったらアカンぞ』と何度も何度もオレに言うたんです。それが最期の言葉でした。だからオレは『女の子と付き合ってもロクなことはないんや。他人に担がれても結局遊び半分で笑い者にされるだけ』やと。『それなら始めから女の子には興味を持たないでおこう』、そう決心したんです。だから、オレは優香ちゃんとは一緒になれんのです」
大川先生「………。けど、それは叔父さんの人生であって、あんたの人生やないやんか? あんたは叔父さんみたいにならんように気をつけたらエエだけなんと違うんか?」
真一「叔父さんが亡くなった時、親父は叔父さんの兄なので、悔し涙をにじませてました。何度も何度も叔父さんは酒に溺れても親父は必死で話し合っていました。それに婆さんにそんな話聞かされたら、親父の息子であり婆さんの孫であるオレは、この話を無視なんてできませんやん❗ やっぱり目の当たりにした者しか、この気持ちわからんのでしょうね…。」
大川先生「………。あんた、相当傷ついてるんやな…。その事を考えんと加島さんのことだけ考えられんか?」
真一「優香ちゃんのこと考えたら、(叔父さんの事が)出てきますわ」
真一(梨子もオレと同じ気持ちやったか…)
真一は考えていた。
真一「少し
梨子「うん…。なぁ、しんちゃんやったらどうする?」
真一は一瞬絶句した。真一は自分の経験した気持ちを梨子に話せばいいのか、迷っていた。
真一「梨子はお父さんが『亡くなった』ことに引っ掛かってるのか、お母さんと離婚したことが引っ掛かってるのか、はたまた何が引っ掛かってる?」
梨子「『どれが?』って言われたら、全部になるのかも…。お父さんとお母さんが離婚して、お父さんが“うつ”になって自暴自棄になってて、アルコール依存症っぽくなってて、就職したガラス工場辞めた翌朝、海にダイビングしたんやから…」
真一「梨子はどうしたいんや?」
梨子「わからない…。今の私じゃ、結婚しても私、彼氏に申し訳たたないかも…」
真一「………。真美はどないしてる? お年頃の女子高生なんやろ?」
梨子「うん。この春卒業やけどね…」
真一「そうか…」
梨子「実は、お母さんから聞いたんだけど、真美もお父さんのことで引っ掛かってるみたいなの」
真一「えー…。よりによって姉妹でか?」
梨子「うん。真美も高校で好きな男の子いるみたいだけど、前向きになれないみたい…」
真一「同級生とか後輩とか?」
梨子「それが…幼なじみなのよ」
真一「幼なじみ…」
真一は困惑した。
梨子「保育園から高校までずっと一緒のクラスの男の子で、クラスの子から『夫婦みたいやな』って言われるくらい阿吽の呼吸がぴったりらしい。幼なじみの男の子のことは私もよく知ってるから…」
真一「そうか…」
真一は梨子だけでなく、妹の真美も真一同様に叔父さんの『トラウマ』に悩んでいた。しかも真美に関しては、真一と全く同様の内容で、真一は真美の気持ちがよくわかっていた。
真一は、これを境に話すことをやめ、黙りこんでしまった。梨子も黙り混んでしまい、お互いビールを飲んだ。居酒屋の奥の座敷の個室は『お通夜』状態だった。周囲の個室からワイワイ騒ぐ声が響きわたっていた。
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