第2話 梨子からの手紙
その夜、真一が仕事から帰宅した。
夕食時、美沙子は一雄と真一に皐月達が訪ねてきたことを話した。一雄は『ふぅーん』と、興味ない感じだった。それもそのはず、浩二と皐月が離婚した後に浩二は自ら命を断ったからだ。一雄は皐月に対して『魔性の女』のように思っているのだ。真一も黙って話を聞いていた。
すると、美沙子が真一に話す。
美沙子「真一、それで実は梨子ちゃんからあんた宛に手紙を言付かってるの」
真一「手紙?」
美沙子「うん。
真一「わかった」
美沙子「手紙を言付かったとき、なんか浮かない顔、思い詰めてる顔してたわ」
真一「なんでや?」
美沙子「さぁ、そこまではわからんけど…。何かあんたと話したい様子やったわ」
真一「そうか…」
夕食を済ませ、風呂からあがった真一は、仏壇から梨子の手紙を取る。ふと仏壇にある梨子と真美の写真を見た。真一は2階の自分の部屋で梨子の手紙を読む。
梨子『しんちゃん、お元気ですか? 久しぶりに南町の家におじゃまさせていただきました。懐かしかった。でも突然押しかけて申し訳ありません。実は、私のお父さんのことで話を伺いに来させてもらったのです。真美とお父さんの話を聞いて泣いていました。お母さんも申し訳ない気持ちでいっぱいです。堀川の家にとって、私のお母さんに対していい顔されないと思っています。でも、私と真美はお母さんの子供であり、お父さんの子供です。その辺りは分かって欲しい』
梨子は真一に自分の思いをありのまま手紙に書いていた。
梨子『あと実は、しんちゃんに話したいことがあって…。実は私、彼氏がいます。高校の同級生なんだ。将来一緒になりたいと思っています。でも私の中で、お父さんが亡くなったことで少し気持ちの整理がついていません(あ、これはお母さんにも真美にも誰にも言ってないから。しんちゃんだけに話してるよ)。友達とか彼氏に相談できることではないし、お母さん達に相談しづらいし…。それで厚かましいとは思うけど、相談できる人がしんちゃんしかいないと思った。それは昔、しんちゃんといとこの家へ北町駅からバスで行った時、冒険してるみたいで楽しかった。私からしたら、あの時しんちゃんが「お兄ちゃん」で誇らしかったし心強かったから、その印象が強いの。だから久しぶりに「お兄ちゃん」にだけ相談したくて…。しんちゃん、一度私の携帯電話に電話いただけませんか? 何卒よろしくお願い致します』
真一は考えていた。子供の頃、一人っ子の真一にとって、梨子と真美は妹のような存在だった。余談だが、幼なじみの優香は姉のような存在でもあったのだ。真一は、叔父・浩二が離婚する前日に梨子と真美に会ったのが最後だった。あれから10年が経った今、真一はふと梨子はどうしているのか…と思った。しかし、会うかどうか決めかねていた。それは皐月の存在と父・一雄の気持ちがよぎったからだった。
翌日の夜、真一は一雄と美沙子に聞いてみた。
真一「梨子の手紙のことのなんやけど…」
美沙子「梨子ちゃん、何て?」
真一「オレに会って話がしたいそうや…」
美沙子「そう…」
真一「会ってもええんか(いいのか)?」
美沙子「それは、あんたと梨子ちゃんの話でしょ。梨子ちゃんやったら別に良いんやないの?」
真一「親父はどう思う?」
一雄「ワシは関係ない話やから、梨子がお前に会いたいって言うてるなら、会ってやってもええんとちゃうか(良いのでないか)? 皐月はアカンぞ」
真一「わかった。真美もかまへんのか?」
一雄「真美もかまへん(かまわない)。お前の好きにしたら良い。皐月だけには会うな」
真一「わかった。少し考えるわ」
美沙子「考える…って、何をやな?」
真一「会って何を話したらいいのか…」
美沙子「近況報告でもしたら…?」
真一「まぁな…」
真一は、両親の意向を受け、梨子に会う予定をたてることにした。
翌日、真一は仕事から帰宅し、夕食と風呂からあがった後、梨子が書き残していった携帯電話の番号に電話をかけた。
梨子「もしもし…」
真一「もしもし…」
梨子「…しんちゃん?」
真一「あぁ…」
梨子「しんちゃん、久しぶり」
真一「元気か?」
梨子「うん。手紙読んでくれたんだね」
真一「あぁ」
梨子「ありがとう」
真一「あぁ」
梨子「私、本当は相手にされないんじゃないかと思ったの。でも電話してきてくれたから、凄く嬉しい」
真一「そうか…」
梨子「うん…」
真一「それで、話って…?」
梨子「ちょっと電話では…」
真一「…そうか…」
梨子「しんちゃん、今度どこかで会えないかなぁ?」
真一「いつ?」
梨子「私、土日は仕事だから…」
真一「仕事終わってからでも会えへんか(会えないか)?」
梨子「しんちゃん、土日が休みだよね…」
真一「うん…」
梨子「あ、土曜日に早上がりの日があるから、その日でもいい?」
真一「いつや?」
梨子「今度の土曜日」
真一「今週末はオレ何も予定ないから、会えると思う。名古屋まで行こか?」
梨子「ホント? じゃあ、夕方名古屋駅で待っててね」
真一「わかった。オレはそれまで一人旅してるわ」
梨子「うん。ありがとう、楽しみにしてるね」
真一は電話を切り、一雄と美沙子に断りを申し出る。
真一「今度の土曜日、名古屋へ行ってくる」
美沙子「梨子ちゃんに会いに…?」
一雄「……」
真一「あぁ…」
美沙子「気をつけて…」
一雄「ワシらのことはかまへん(かまわない)から、梨子の話を聞いてやれ」
真一「うん」
真一は両親に断りを申し出て、週末名古屋に向かう。
土曜日早朝、真一は梨子に会うため名古屋へ向かう。真一の『彼女』である旅に出るのだ。真一は梨子に会うこともさることながら、旅に出て『彼女とデート』することに喜びを感じていた。
急がない旅なので、南町から始発の普通電車に揺られてのんびりとした電車の旅に出た。
途中駅で京都行きの電車に乗り換え、車窓を眺めながら真一は『彼女』である旅と『デート』していた。
途中駅から約2時間、電車は京都駅に到着した。
京都から新快速電車に乗換、一路滋賀県の
新快速電車が京都駅を発車した。真一は運転席の後ろからの眺めは初めて見たのだ。
京都駅から1時間程で米原に到着した。
米原から東海道線の電車に乗り換える。
本来なら、京都から新幹線で名古屋まで40分程で到着するが、真一は急がない旅なので、新幹線に乗らず東海道線を利用していた。
米原からは岐阜まで各駅停車する新快速電車に乗換、
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