アヒル事件簿 第三話
『あ、見つかっちゃったよ、どうするの?!』
『見つかったのは、僕達じゃなくてあっちだよ、あいつらドロボーだよ、捕まえなきゃ!!」』
『でも、どうやって?』
今まで好き勝手に動き回っていたけど、人間に見つかるなんてことはなかった。それにパトロールするのだって、まさか本当に泥棒とはち合わせするなんて、思ってもみなかった。どうしようかと皆で右往左往していると、
『中に入れってさ』
『逃げるの?』
『今の声なにー?!』
『今のは戦いのおたけびなんだって』
戦いのおたけびってなにー?と口々に質問が始まったけど、今はそれどころじゃない。
『逃げないで戦うの?』
『ドロボーを捕まえるんだよ!! パトカーがするみたいに、追いかけるんだって』
『なるほどー。でも爆発しないよね?』
『爆発するのはあっちじゃない?』
言われるがままに
『わああああ、ちょっと待ってぇ』
『回ってるよぉぉぉぉ』
『爆発してないけど死んじゃうぅぅぅぅ!!』
『◎◎◎( ▼ ω ▼ )~~!!!』
僕達の悲鳴を無視して、
『目がまわるぅぅぅぅぅ』
『たすけてぇぇぇぇぇぇ』
中で振り回されている僕達のことを無視して、
『わあ、はねてるよう!』
『ドロボーより僕達がしんじゃうぅ!!』
泥棒達が
『逃げちゃうよ、追いかけないと!!』
『もう僕、目が回って気持ち悪い……』
『僕は頭痛い……』
『もう無理ぃ……』
そんな僕達のことなんておかまいなしに、
『ま、まさかっ』
『
『無茶苦茶だぁ!!』
『爆発よりひどいぃぃぃぃ』
泥棒達が乗り込んだ車を、
『な、なんとかドラマでやってるみたいに、車に乗り移らなきゃ』
ハコフグがそう言いながら、グルグル回る
『◇■◎□( ▼ ω ▼ )!!』
『お面君が僕達をあっちに運んでくれるってさ』
『一体どうやって?』
『なんだかイヤな予感がするよ、やめておいたほうが良くない?』
『▲□( ▼ ω ▼ )!!』
お面君は、転がる
『わあああああああ』
『やっぱりぃぃぃぃぃ』
だけどお蔭で僕達はその勢いで、空を飛んで車へと乗り移ることが出来た。
『もうひどいよ! パトロールなんて二度としないから!』
『ドロボーのせいだよ! こいつらが来なかったら、楽しくタイシカンの中を見学できたのに!!』
『酷いヤツだよ、やっつけちゃえ!!』
『とつげきぃぃぃ!!』
+++++
メンデス警部から知らせを受け、あわてて大使館に駆けつけると、大使館正面は
警備員が常駐しているつめ所の半分は、えぐり取られ中が剥き出しになっており、正面ゲートは鉄柵がもげ落ち、その先で変な形に曲がって転がっていた。
その先へと急ぐと、車が突っ込んだ正面玄関は漏れたガソリンが炎上したために、破壊されただけではなく焼け焦げている。ひしゃげて消火剤まみれになった車が、その衝撃と火災の激しさを物語っていた。
「なんとまあ。これだけのことがあって、誰も死んでいないというのが不思議なぐらいですね。
「すぐに取り押さえて警察署に連行しました。盗んだものがないか取り調べ中です」
警部が横に立って、報告をしてくれる。
「忍び込んだ後、なぜかなにも
「警備側に怪我人が出なくて幸いでした。犯人は大使館に再侵入しようと、強行突破をしようとしていたのですか?」
こちらの質問に、警部は不精髭がはえはじめた顎に手をやりながら首を傾げた。
「そこが不思議なのですよ。街の防犯カメラに録画されたものやパトロール中の警察官によると、市街地を一時間近く走り回っていたようなのです。途中から署のパトカーが追尾していたのですが、なぜか、
「意味不明?」
「なんでも、小さい宇宙人の集団に襲われたと口々に言っているそうですよ。まあ確かにこのあたりでは、未確認飛行物体の目撃情報はあるにはありますが、犯罪の理由にされたのは初めてです」
困ったものですよと、あきれたように警部は笑う。黒焦げになった車の周りには、すでに立入禁止のテープが貼られ、警察署の鑑識と消防隊の隊員が調査をしていた。この焼け焦げた様子だと、調査が終わっても当分は、裏口を使うしかないだろう。
「かなり派手に燃えてますね」
「けっこうなスピードで突っ込みましたからね。ガソリンが勢いよく噴き出して、そこに引火したようです。玄関ホールの絵画も燃えてしまったようで」
そして、車に跳ね飛ばされたらしい
「……?」
テープが貼られている脇の芝生に、なにか見た覚えのある黄色いものが落ちていた。近寄ってかがみこむと、いつも持ち歩いてい
「どうしてこいつがここに?」
昨日も仕事場からつれ帰ったはずなのに、どうしてアヒルのボールペンがこんなところに転がっているのかと、首をかしげた。知らず知らずのうちに、ここで落としたんだろうか? そう言えば雛子さんと初めて夜をすごした時も、なにやら不思議なことが起こっていたような記憶が。まさか……?
「おいおい、君はここで一体なにをしていたんだい?」
手にしたボールペンを見下ろしながらたずねてみても、答えが返ってくるはずもない。
「あまり無茶をするんじゃないよ、自分が燃えちゃったら、どうするつもりだったんだ? 君にもしものことがあったら、雛子さんが悲しむじゃないか」
そうつぶやきながら、いつものようにポケットに差し込んだ。そしてもう一度、ひしゃげて焼け焦げた車に目を向ける。
「だけど、これが君のやったことならお手柄だね」
そう呟いた時、なぜか嬉しそうな歓声が聞こえたような気がしたのは、まだ夜が明けたばかりで、目が覚めきっていないからに違いない。
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