第6話 変化への対応

 大規模空間――通称ダンジョンが発生したというニュースは、世間を静まり返らせるには十分な出来事だった。


 

 大まかな内容はこうだ。


 先の大地震はダンジョン発生の際に起きたものである。この災害は世界各地でも同様に発生しており、世界は今大混乱に陥っている。国民の皆様には国からの指示に従い、安全第一に行動してほしい。


 現在はダンジョンについて調査中である。各国と情報連携しての調査なので時間はかかると思われるが、くれぐれもダンジョン発生個所、またはその付近の地域には近づかないようにして欲しい。



 その他にも、被害状況や対策等々が知らされた。










 大地震から1ヶ月、少しずつ復興が行われているタイミングでダンジョンの詳細が公開された。

 その内容はまるでゲームのような、馬鹿馬鹿しいほど非現実的で、信じられないものだった。


 だが、フェイクニュースであるとは誰も思わなかった。いや、



 何故なら、彼ら全員はこの一ヶ月で身に染みて感じていたのだ。この世界の変わり様を、そしてこれは紛れもない現実であることを。




 一人一人の頭上には、数字が浮かんでいた。非現実的で信じ難い。


 そう、まるでゲームに出てくるような――半透明のボードが。







「やはりこれは、『ランキング』なのでしょうか……」


 男は頭上を指さしながら問いかける。


「ああ、恐らくはな」


「こんなシステムまで登場してくるとは、まさしくゲームではないですか」


「まったく、ふざけた世界になったものだ」




 日本のとある会議室で首相である杉本 司と、新しく設置された『ダンジョン庁』の大臣である中村は頭を悩ませていた。


 ダンジョンが発生したことも大きな問題だが、そもそもこの世界の仕組みそのものが変わってしまったとすら覚えるこの大きすぎる『変化』に対し、国は今までの常識が通用しないという不安から、安易に政策を打ち出せないでいた。


「ダンジョンとやらから得られる資源の使い道はあるのか?」


「それについてですが、資源そのものは今の生活に決して必要とは言えません。服や食物、武器といったものが主ですからね。ですが、ダンジョン内では必要不可欠な代物です」


「というと?」


「これはあくまで推測であり、調査中の内容なのですが、ダンジョン内に出現する生物にはダンジョン内から入手できる物でしか効果がないようです。」


 ダンジョンから得られる武器や装備でないとダンジョン内の生物にはほとんどダメージを与えられない。また、装備についても同様であり、ダンジョン探索においてダンジョン産のアイテムは必要不可欠である。


 中本はそう詳しく説明した。


「ならば、ダンジョン内の探索はそう急ぐ必要はなさそうだな」


「ええ、被害は最小限に抑えたいですからね……」



 杉本と中村はそう結論付けた。同じ頃、世界各国の上層部も似たような結論に至っていた。


 ダンジョン資源に価値はない。危険を冒してまで探索する必要もないだろう、と。





 その考えは一瞬にして覆された。


 ダンジョンから「スキルオーブ」なるものが発見されたからだ。



 ♢




 あくまでスキルは技術であり、そこに価値はないと思われていた。

 しかし、ダンジョンに挑んでいた一部の人々は気づき始めていた。


 ――ステータスの重要性、そしてスキルの可能性に



 どこからか漏れ出したそんな情報は噂程度に広まり始めた。未知のスキルはこれまでの科学では証明できない結果を生み出す。その「価値」はどれだけのものだろう。


 憶測が憶測を呼び、情報は瞬く間に広がった。




 ステータスは上げると、今よりも良い自分になるってさ!

 

 まるでゲームのようなスキルもあるぞ!


 魔法だってあるかもしれない!



 ダンジョン攻略にはステータスが必要であり、ダンジョンではステータスを上げられる。そしてスキルも手に入る。この魅力的なサイクルに人々が気づくのは時間の問題だった。










 その後、程なくしてダンジョンは一般の人々にも公開されることとなった。ダンジョンから得られる富を国が独占するというのは、国民が納得しないだろう、という意見があったためだ。



 新しく入った情報に、ダンジョンから得られる資源――所謂ドロップアイテムには回復効果のあるポーションがあるという内容も、ダンジョン一般公開の意見を後押しした。


 医療に革新が起きるであろうポーションの存在は、ダンジョンのスキルオーブ発見に次ぐビッグニュースであった。


 ステータス上ではHP回復効果があり、傷口に使用すれば軽傷なら完治するというのだから、ダンジョンに挑まない人でも喉から手が出る程欲しいだろう。





 そんなわけでダンジョンは一般公開され、それに伴って政府はダンジョンの管理・運営機関を創設した。ダンジョン公開については天皇までもが動き、憲法の改正まで行って、ダンジョンが国営であるというのは絶対的なものとなった。これには、流石に企業も入り込む余地を失った。


 この、ダンジョン国営は首脳会議で決まった事である。あまりにもダンジョンが及ぼす影響が大きいものとなったため、各国は協力体制を取り、足並みをそろえてダンジョン諸々の対策に取り組んだのだ。


 といっても完全に一致団結という訳でもなく、やはり競争はあるのだが……








 ダンジョンが発生した国は、狙ったのかのようにどこも先進国で、計7か国それぞれにダンジョン管理・運営機関が設置された。


アメリカ合衆国 ダンジョン対策連合 通称『連合』


日本 ダンジョン管理協会 通称『協会』


中国 ダンジョン運営組合 通称『組合』


ドイツ・イギリス・フランス・イタリア ダンジョン管理機構 通称『ユニオン』




 制度が整うにつれ、人々はダンジョンを身近に感じるようになった。


 こうして、ダンジョンの存在は社会に深く結びついていくのであった。

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