第5話 宿敵と鑑定スキル

 携帯の充電が切れたので、ライトなしでの探索になった。ダンジョン内は薄暗いが、慣れればある程度見えるのだ。


「初めて見る魔物だな」


 遭遇したのは岩のような体に手が生えた生物である。とても堅そうだ。



 こいつが、俺の車と衝突した魔物なのだろう。少し不思議ではあったのだ。ゴブリンに当たっただけで車が凹むのは分かるが、ライトのガラスまで割れるのかと。



「俺の愛車の仇だ、簡単に死ねると思うなよ?」


 衝突した方の魔物は消えてしまっているので完全に八つ当たりなのだが、俺の頭はどういたぶってやろうかという思考で埋まっており、それに気づくことは無かった。






 あかん、こいつ硬いわ



 動きは遅いし、攻撃も鈍いので当たることは無い。だがナイフで切りつけようにも硬すぎて刃が通らない。


 冷静に考えて岩相手にナイフは馬鹿だった。愛車への想いが強すぎて思考が単純になっていたな。


「よし」


 今度は関節を狙っていく。岩と岩の隙間、人間でいうなら脇の部分にナイフを通し、引き裂く。岩の魔物は苦悶の表情を浮かべ、もう一方の腕を使って逃げようとした。


 だが残念なことにこの岩の魔物は動きが鈍い。片方の腕が使えない今、こいつの動きは亀のように遅く、まったく逃げれていなかった。


 もう片方の腕も封じ、そのままナイフを押し込むと岩の魔物は動かなくなった。



「愛車の仇だ、悪く思うなよ……」



 そう言う俺の顔は、とても清々しいものだった。








 ゴブリンの喉を切り裂き、光となって消えていく死体を眺めながら考える。


だいぶ奥まで進んできたな。そろそろ、戻るのが大変になるだろうし、引き返そう。


 アイテムが落ちなかったことに少し落胆しながら帰路へ着こうとしたその時、


『レベルがアップしました』


『スキルを選んでください』



 レベルアップは嬉しいが、スキルとは? ステータスを呼び出し、確認してみる。


『獲得可能スキル』

・縮地

・剛



 2つのスキルが選択できるようだ。それぞれどんなスキルかが分からないが、縮地は移動スキルで剛は攻撃スキルのような気がする。


 俺は剛のスキルを選んだ。



『スキル剛を獲得しました』


 選んだ理由は、今のところ戦闘で移動に困っていないからだ。早速使用してみようと思ったのだが、そもそも『スキル』とはどんなシステムなんだ?


 今のところ体に変化は無いので使用するものだと思っている。どうやって発動できるかを確認しなければ。


「剛」



 そう口に出すと、体にほんの少し力が漲ってくる感触があった。


 これがスキルか……、沢山あれば戦闘の幅が広がりそうだ。


 初めてのスキルに興奮が収まらなかった俺は、岩の魔物を次々と殺していくのであった。









 そんな日々を過ごしていき三日程経った。基本的に出会うのはゴブリンと岩の魔物だけで戦闘自体は楽なものだった。


「扉か……」


 目の前には大きな扉がある。


 この先に何かがいるような気がする。それはただの勘だが、おそらく外れてはいまい。


「ゲームだったらボス戦ってやつだろうな」



 剛を使用してから扉を開き、中へと入っていく。思ったよりも中は広く、縦横20mほどの空間で、高さは5m程度。


「ブモォオオオオオオ!!!」


 現れたのは、体長2m程のゴブリンだった。


 すぐにナイフを投げつける。顔に吸い込まれていくナイフは奴の目に刺さり、雄たけびを上げる大型ゴブリンは怯んだ。


 魔物相手の戦闘は先手が重要だ。あいつらの知能は低く、攻撃に備えるという事をしない。知能の高い個体も存在するが、この大型ゴブリンも所詮はゴブリン。避けることはできないだろう。



 ナイフを引き抜いた大型ゴブリンは突進の構えをとる。俺はそれに合わせて姿勢を低く構え、ナイフを後方に隠す。


 近づいてきた奴の横ギリギリをスライディングで通り過ぎ、同時にナイフを振り足の健を切り裂く。

 倒れた大型ゴブリンに追い打ちを掛けようとしたが、腕を振りまわしてきたので距離を取る。



「攻めきれないな……」


 その後も何度か軽傷を負わせることはできたのだが決定打に欠ける。雑魚ゴブリンの時のように首に腕を回すのは些かリスキーだ。



 再度突進してきた大型ゴブリンであるが、腱を負傷しているため動きは遅い――いける!


 狙うは首、頸動脈を掻っ切る。


 俺のナイフは滑るように大型ゴブリンの首を撫で、勢いよく血が噴き出す。


「オォォォ……」


 大型ゴブリンは倒れた。



 「ふぅ」


 なかなか手強かったな、動き自体は単調だったが武器の相性が悪かった。呼吸を整えてから、光の粒子となって消えていく死体の方へ近寄る。


「おっ、アイテムだ」


 落ちていたのは飴玉のような、カラフルなオーブだった。手に取ってみると思いのほか重く、神秘的な光を放っている。


 綺麗だなと見つめていると、俺の目の前にステータス画面のような半透明のボードが出現した。



『鑑定のオーブを使用しますか? Y/N 』


 鑑定のオーブ? 良く分からないが、Yesだ。




『スキル鑑定を獲得しました』


 鑑定スキルが手に入ったらしい。ボス討伐でただの綺麗なオーブというのはどうかと思っていたが、実際はスキルが身に付くかなり良いアイテムだった。


 鑑定か、さっそく使ってみよう。



 『ダンジョンの壁』

  ダンジョンの壁。


 『ダンジョンの床』

  ダンジョンの床。


 『ゴブリンナイフ』

  ゴブリンの爪のような切れ味を持つナイフ。


 『ゴブリンの肉』

  ゴブリンの肉。食べることもできるがまずい。焼いてもまずい。




 内容が薄いっ!そして謎肉はやはりゴブリンの肉だったみたいだ。説明通り不味かったよ……



 4回使用すると使えなくなっていたので何故だろうと調べていたら、MPが0になっていた。


 なるほど、スキルを使用するとMPが減るのか。


 

 そして、剛がLv2になっていた。どうやらスキルもレベルアップするらしい。鑑定もレベルが上がれば内容が濃くなるかもな。



「この先は、進めるのか……?」


 ボスのいた部屋の奥には出口があり、そこへ向かう。


 少し進むとまた開けた空間があり、そこには下へと続く階段があった。


  

 先ほど鑑定スキルを使った時に気づいていたが、やはりここはダンジョンの中らしい。俺の記憶が正しければ、ダンジョンは階層構造であり、その数もバリエーションも多種多様だ。




 階層ごとは階段で繋がっていることが多い。おそらくこの階段も次の階層へと繋がっているのだろう。さっきの大型ゴブリンが第1階層のボスだとしたら、この先は第2階層ということになる。


「どんなところかな」


 成長するステータスに加え、新たなスキルの獲得。この先が楽しみでしょうがない。


 俺は階段を下り、ダンジョンの奥へと進んでいくのだった。






小鳥遊 無名 Lv7


 HP 200/200

 MP   0/32

 

 攻撃力 18

 防御力 18

 知力  10

 抵抗力 10

 素早さ 18

 運   13


 【スキル】

  剛 Lv2 鑑定 Lv1


 【称号】

  なし

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