第4話 ステータスの発見
「ゴブリン、なのか……?」
いや、よく見ると少し違う。俺が前世で出会ったゴブリンはもう少し大きかった。見た目ももう少し凶暴だったし、こいつのように弱々しい佇まいはしていなかった。
ゴブリンと酷似しているが別の生き物だ。だが何故こんなところに……まさか、俺は異世界に飛ばされたのか?
「うぉっ!」
ゴブリン?がこちらに襲い掛かってきた。いかん、今は敵に集中しなければ。もし、本当にここが異世界でこいつが魔物ならば、気を抜いたら殺されてしまう。
「久しぶりだな、戦いってやつは」
だんだんと思い出してくる前世の記憶。魔物との戦い方。
ゴブリンの突進をすれすれで回避しつつ足を引っかける。体制を崩した所に蹴りを入れ、確実に転ばす。立ち上がろうとするゴブリンの首にすかさず両手を回し、一気に首の骨を折る。
「ピギャッ!」
短い悲鳴を上げたゴブリンはバタリと崩れ落ちた。
意外と動けるもんだな。体を鍛えていたとはいえ、こっちの世界での実践は初めてだ。それに、前世で培った戦闘技術が役に立つ日が来るとは思いもしなかった。
死んだゴブリンの様子を眺めていると、光の粒子のようなものになって消えていった。こんなゲームみたいな仕様は前世では見たことがない。そして前世の記憶と照らし合わせていてふと気づく。
もしや俺がここに来た時に車がぶつかったのは魔物ではないかろうか。だから車に衝突の跡が残っているのにも関わらず、ぶつかった物は見当たらなかったのではないか?。
『レベルがアップしました』
「ん?」
頭の中に何か聞こえた気がする。レベルがアップしました?ますますゲームみたいじゃないか。もしかしてステータス画面とかもあったりするのだろうか……
「マジであったよ」
あれやこれや試していて、ステータスと声に出したら半透明な宙に浮くプレートが出てきた。
小鳥遊 無名 Lv2
HP 110/110
MP 22/22
攻撃力 11
防御力 11
知力 10
抵抗力 10
素早さ 11
運 10
【スキル】
な
【称号】
なし
……まずい、よく分からない。
ステータスの存在まではたまたま見たことがあるアニメのおかげで知っていたが、その中身までは知らないぞ……
HP、MP、攻撃力、防御力、素早さ はなんとなく分かる。運はそのまんまの意味だろうか、高いと良さそうだな。
問題は知力と抵抗力、そしてスキルと称号だ。
知力は頭の良さだろうか。まぁ高い方が良いのだろう。抵抗力については意味が分からない。一体何から抵抗するというのだ……病原菌か? もしや免疫力のことか!
「なかなかリアルだな、ステータス」
スキルはそのまんま技術か?『なし』とあるが俺に差し当たって技術は無いということか。戦闘技術には多少自信があるが、これは『スキル』とやらに含まれないらしい。
称号だが……これは必要なのか? これも『なし』だが、あると何か特典があるのだろうか。
しまったな、こんなことなら本格的なファンタジー系のゲームをやるなり、本を読むなりしておけばよかった。くそっ、現実逃避のために恋愛小説ばかり見てたのが失敗だった……
それからステータスについて色々考えた。
あまり理解はできていないが、なんとなくシステムは分かってきたぞ。基礎ステータスが10であり、おそらく先程のレベルアップで攻撃力、防御力、素早さが1ずつ上がったのだろう。
となると1レベルアップで合計3ポイントアップという訳だ。
やばい。少し……いや、かなりワクワクしてきた。
思えば前世では戦闘こそあれど、こんな律義に数値化されるような世界じゃなかった。目に見えて成長していくこの感じ……良い、実に良い!
どうせ異世界なんだ。
前世ではできなかった自分勝手に生きるというということ。今世は平和だが、人間不信もあって生きにくい思いをしていた。
「俺はこの世界で、好きに生きてやるぞ!」
♦
なかなか恥ずかしいことを言った気がするが、後悔はしていない。どうせ誰も聞いてやしないさ。
あれから何度かゴブリンに遭遇したが、体が慣れてきたのかさくさくと倒すことができた。そして分かったのは、どうやらこの世界の魔物は『倒したら消える』ということ。そして、稀にアイテムを落とすということ。
「おっ、これで二個目か」
最初は半信半疑だった死体の消滅も慣れてきた頃、ゴブリンの死体がナイフのようなものを落としたのだ。そいつが持っていたわけでもないのに、だ。
ちなみにこのナイフのおかげで戦闘はだいぶ楽になった。あれから30体ほどのゴブリンを倒し、レベルも3に上がっている。
――順調だ、そしてとても楽しい。
気づけば数時間ほど探索と戦闘を続けていた。
体に疲労が溜まってきたし、腹も減ったので一度車がある場所へと帰ってきた。
「食えるか……これ」
今、俺の手にはゴブリンが落とした謎の肉がある。
この世界はなかなか優しい世界だ。ステータスは便利だし、死体は消えてアイテムだけ残る。つまりこの肉もきっと食べれる物なのだろう……。
結局食べた。まずかった。
とりあえず腹ごしらえは済んだので寝ることにする。しっかり車にロックを掛け、シートに横たわる。
起きてから夢じゃなかったことに安堵する。普通逆なのでは? と思ったりもしたがしょうがない。俺はこっちの世界の方が充実しているのだ。
「よし、先へ進もう」
既に迷いはなかった。この世界がゲームのように都合の良い世界ならば、理不尽な死はないはずだ。
若干危機感が薄くなってきている気もするな……気を引き締めていこう。
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