根っからの人間嫌い
第3話 ダンジョンのできる日常
仕事を終えて、今は富士樹海へと向かっている。富士山は遠くから見てとても綺麗だったが、樹海はなかなか見えてこないな。
富士樹海と言えば自殺の名所らしいが、どんな所なのだろうか。別に死ぬ気なんてないが、パワースポットのような効果があると聞いたことがある。行けるなら奥の方まで行ってみたい。
「おっ、見えてきたな」
間近で見るととてつもなくでかい富士山。その北西に位置する樹海もなかなかに広い。車で行けるか不安だが、進めるところまで進んでみよう。
♢
行けるところまで行こうとは思っていたが、かなり近づいてきたな……。心なしか空気が淀んでいるような気もするし、流石自殺の名所。マジで危ない所なのかもしれないな……。
車で走らせることニ十分。道路の舗装は砂利に変わり、見える景色は木々ばかりだ。
「そろそろどこかに車を停めたいんだが」
先ほどから車を停めるれそうな場所を探しているのだが一向に見つからない。行き当たりばったりで来ようとしたのが間違いだったな。ちゃんと樹海の入り口や駐車できる所を調べておくんだった。それよりも……
なんか暗くないか?
夕暮れ時とはいえ季節は夏真っ盛り。まだまだ明るいはずなのだが何故が暗い。
ってゆうかなんか揺れてないかっ!?
いつもは安定した走りを見せる俺の愛車が揺れている。地震か何かか?かなり大きいぞ。
慌てて車を停めようとブレーキを踏もうとしたその瞬間、俺の視界は別の物へと切り替わった。
ガンッ!という大きな音が響き、車内に衝撃が伝わる。何かにぶつかったようだ。
「おいおい、何がどうなってる……」
突然視界が切り替わったと思いきや、続けて大きな衝撃。とにかく状況を把握しようと車から出た俺の目に映ったものは、信じられない光景だった。
「どこだ、ここは」
辺り一面木がびっしり生えていた樹海とは打って変わり、周りは壁に囲まれた殺風景な空間となっていた。暗くてよく見えないがどうやら通路状になっており、どこまでも続いていきそうな感じはトンネルというより洞窟を想像させた。
携帯を出してライト機能で辺りを照らす。車の前方を照らしてみるとそこには何もなく、岩などにぶつかったわけではなさそうだった。
一体何にぶつかったんだろうか。衝撃は確かに俺にきたし、何より車が凹んでいる。何かに衝突したのは明らかだ。
車はもう駄目っぽいな。ライトは壊れており周辺に割れたガラスが散乱している。エンジンもこの凹み具合だとやられているだろう。
愛車が壊れてショックではあるが、今はそんなことで落ち込んでいる状況ではない。
一旦落ち着こう、これからどうするべきか決めなければ。
普通に考えるならこの場から動かない方が良いだろう。救助が来るまで車内で待つのが安全だ。しかしこの状況から推理するに、おそらく待つというのは愚策だろう。まともな食糧がない上に、前代未聞の瞬間移動。ここが富士樹海であるのかも不明な時点で救助が来る確率も低い、となると、
先へ進むしか……ないよな。
さっき見た感じだとここは恐らく通路状になっている。もしここが洞窟やトンネルの中ならば、進んでいけば出口にたどり着く可能性がある。
だが、同時にリスクも高まる。突然飛ばされたおそらく未開の地では何が起こるか分からない。注意して進む必要がある。
先へ進むために携帯のライトを前方へ向ける。やはり通路状になっているようで見える範囲では直線のようだ。
歩くこと10分。その間、特に変化はなかった。相変わらず薄暗く、壁に囲まれただけの空間が続いていた。
俺の呼吸音と足音だけが響く。
「別れ道か……」
左右に分かれた道は暗くて先が把握できないが、進むのならばなるべく迷わないにしたい。ここは右手の法則を信じて右に行ってみよう。
再び歩くこと10分。俺は足を止めた。――物音がする。
耳を澄ましていると、ピタッ ピタッという足音のようなものが聞こえてくる。靴を履いている俺の足音のようではなく、裸足で歩いているような音だった。
ライトで先を照らしてみると、人影が映った。
生存者かもしれない。俺のように突然移動された人が他にいたのだろう。
会ってみるか? いや、やめておこう。どうせ二人になったところでこの状況は解決しないだろう。逆に足手まといになる可能性もある。
俺がどうするか悩んでいると、人影の方から近づいてきた。明かりに気づいたんだろう。
しょうがない話をするか、と身構える俺の前に現れたのは少し小柄な人、いや魔物だった。
「うそ……だろ……?」
ありえない、あいつは前世で見た生物だ。
緑色の薄汚れた肌。尖った爪に角ばった骨格。耳の先が長く伸びており、顔の半分はある。こいつは、まさか……
「ゴブリン、なのか……?」
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