第16話 GO TO HEAVEN

 ヴィーナは苦い顔をする。彼女自身メンズ・オークションが人権侵害に相当することとわかっていてもイベント決行はアメリカ本社の決定なのでそれに逆らうことが出来なかった。だからゆきひとの前でそういった言葉を口にしないように気を付けていたのだ。

 

 ゆきひとは返答に悩んだ。心の片隅に人権侵害を受けているのではないかという気持ちは少なからずあったが、深くは考えていなかった。


「そうかもしれないですね。でも俺にはどうすることも出来ないし」


「嫌ならやめたっていいんだぞ。君が楽しくないなら、自分もこのイベントは楽しめない。前回のイベントはネット中継で見させてもらったが、悲惨なものだった。もし現状に不満があるのなら自分が弁護するぞ!」


「あの、ずっと気になってたんですが、前回のイベントでは何があったんですか?」


 先日も同じ疑問を抱いていた。連れのボディガードは答えないし、その妹は知らない。ヴィーナも答えてくれなさそうな上に聞きづらい。何より彼女を困らせたくないという思いがあった。

 会場の空気が曇る中、オネットは平然としながら答える。


「そのことは当事者のプライバシーを侵害してしまうから、自分の口からは言えないな」


「今何処で何をしてるんですか?」


「それは自分も知らんぞ!」


「そう……ですか」


「で、どうなんだ? イベントは楽しんでますか?」


「今は頭が空っぽなんで、楽しんでると言えば楽しんでいますね……」


「それは良かった! 今回のイベントは一千億を軽く超えるほどの経済効果が見込まれているらしい。仮に自分がゆきひと君の弁護をというのは個人では難しくもあったのだが、君が楽しんでいるなら問題ないな!」


「まぁ俺なんかで役に立てるなら」


「君のその心意気に自分は感動した!」

 

 オネットはゆきひとの言葉に安堵し胸を撫で下ろした。……が、質問の内容が内容だけに会場の空気は重くなっている。それを察知できないパステルではない。


「み、皆さーん。もっと盛り上げていきましょう!」


 オネットもその異様な空気を汲み取った。


「皆すまない。会場の空気を悪くしてしまったね。ではゆきひと君、自分と結婚した暁には是非セックスしよう!」

 

 萌香は思わず前に乗り出した。


「セセセセセセックス!?」

 

 両手で頬を包む。

 そういった状況を想像してしまった。

 顔は紅に染まり火を吹いていた。

 ゆきひとも何がしか想像して片手で顔を隠す。

 一方のオネットはあっけらかんとしている。


「何だかとっても、ゴー! テュー! ヘヴン! ……な気持ちになれるいう噂を耳にしたが」


「性に対する知識が無さすぎですわ!」


 萌香は昇降機に設置されている転落防止用の手すりを力強く叩く。

 この話題にアラブの女帝が食いつかない訳がなかった。


「わらわも気になる。男の逞しい筋肉だけではなく、ア、レ、とか」

 

 耳に入ってくる言葉を全て想像してしまう萌香は堪らず耳を塞ぐ。


「やめてやめてやめてやめてええええ!」


「どうなんだゆきひと。これは詫びだ。自分と元気いっぱいにセックスしよう!」


「えっと……」

 

 炸裂する下ネタに言葉が出てこないゆきひと。

 耳を塞いでいた萌香だったが、隙間から声は聞き取れていた。


「ゆきひとさん! そのようなお下品な言葉に耳を貸さないで下さい!」

 

 困惑の表情を見せるオネット。


「セックスとはお下品な物なのか?」


「いえ……そういう訳ではではありません。神聖な行為です。しかし結婚前に話すことではありません。相手の男性と心を通わせてからする行為なのです。わかりましたか? 弁護士さん」


「で、どのように気持ちよくなるのだ?」


「えっと……それはわたくしにもわかりませんが……」


「皆経験が無いのか。わらわが今度教えてやろう」


「おおっ、タンナーズ殿お優しい!」


「変なことをお教えにならないで下さい!」


「不服か? わらわは其方らと四人でのプレイでも構わないが」


 ベルを焦って鳴らすパステル。


「質問討論ステージ終了ー!」


 これ以上この三人を喋らすのは不味いと判断した。

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