第6話:豊かな野営食
「食べたい果物はあるかい?」
俺は護衛についてきている騎士隊と工兵隊に食べたいモノを確認した。
こんな最前線の開拓地では、普段食べているような美味しい食事は望めないのが普通なのだが、それでは可哀想だと思ったのだ。
どうしても用意できないのならしかたがないが、用意する能力があるのなら、できるだけ美味しい食事を提供するのが主家の義務だと思う。
「メロンです、メロンが食べたいです」
「私はリンゴです、子供の頃からリンゴが大好きなんです」
「いやいや、ここはブドウだろう、メロンはともかくリンゴはないぞ」
「いやいやいや、ここはイチジクだ、イチジクに勝る果物はない」
みな喧々諤々と果物論争を始めてしまっているが、喧嘩までには至らない。
俺がリクエストされた果物全部を提供する事を知っているからだ。
それがまだ分かっていなかった初日は、殴り合いの喧嘩になりかけていた。
食べ物の恨みは怖いと言うが、公平に分け与えられないなら一切渡さない方がいいのだと、その時心から思った。
「こら、こら、言い争うんじゃない、ちゃんと全部作るから、目当ての果樹の前に並んでいなさい、直ぐに実らせるから」
もう果物の提供を始めて7日目だから、たいがいの果物の木々は数もそろい最盛期の状態になっている。
俺が魔力を注ぎ込めば、季節を無視して実ってくれるから、後は取り放題だ。
中には2種3種4種もの果物を手にしている者もいる。
主食が大鍋に似た肉麦粥と決まっているから、果物で食事を豊かにするしかない。
「ヴェデリン様、イチゴ、草イチゴをお願いします、大好きなんです」
「おお、私も草イチゴが大好きです」
「ヴェデリン様の草イチゴは、今まで食べた事がないくらい甘いので、実らせてくださるのなら私も食べたいです」
俺の実らせる果物は、前世で食べていた味を基準に糖分を多くしているから、この世界この時代の果物とは比較にならないくらい甘くて旨みも多く美味しいのだ。
一度食べたら病みつきになるのもしかたがないだろう。
「おおい、魔猪と魔熊を狩って来たぞ、解体して明日の料理に使え。
魔石と素材になる部分は分けておくのだぞ」
「「「「「はい、ジュリアス様、直ぐに解体させていただきます」」」」」
長兄のジュリアスが魔境にまで足を伸ばして美味しい魔獣を狩ってきたようだ。
これで明日は騎士も工兵も塩辛い干肉と大麦で作った肉麦粥から解放される。
本当は祖父と次兄のローガンも狩りに参加していたのだろうが、全ての手柄を跡継ぎ予定のジュリアスに与えるのだな。
いい女房は旦那の胃袋を掴むと聞いたことはあるが、いい主人も家臣の胃袋を掴むのかもしれないな。
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