夜の雷光神②「九郎クーン、さらに夜を楽しみましょうデース」


 次の日──九郎が通う学校に、一人の新任教師がやって来た。

 テレビ朝礼で、校長先生の挨拶に続いて、若い男性外人教師が挨拶をする。


「今日からこの学校でみなさんと一緒に学園生活をエンジョイする、教師の【スンマヌス】デース………ギリシャから、どんぶらこっこと流れて来ました『スンさま』とか『スンさん』と気楽に呼んでくださいデース」

 容姿端麗な外国人教師に、各教室から女子生徒の「きゃあ、スンさまぁ!」の目がハートマーク声が響く。

 スンマヌスこと、スンさまは自己紹介の時に妙なコトを言った。

「間借りして住む場所は『神有月荘』の、鳥越九郎くんの部屋の押し入れデース………九郎くん、よろしくデース」

 九郎の教室で、ざわつきが起こる。

 腐女子のヒソヒソ声が九郎の耳にも届く。

「聞きました奥さま、男同士で同じ屋根の下で同居ですって………いや~ですわね」

「きっと、男同士で間違いが起こりますわ………そのうちに、同居じゃなくて同棲に変わりますわ………教師と生徒の関係を越えますわ、不純ですわねぇ」


 学校の昼休み──中庭の繁った樹の根元の芝生に、胡座をかいた姉比売が樹に背もたれして立っている九郎に言った。

「お主の学校に今朝新任したあの、スンなんとかという教師………あやつ、くたれ神じゃ、用心せい」

 姉比売は一応神なので、学校の敷地内を彷徨いていても不審者にはならない。


 九郎と姉比売の所に、スンマヌスがやって来て言った。

「探しましたデース、九郎さん。今夜からよろしく頼みますデース………お母さまからの了解は得ていマース」

 姉比売の口から「ヒュッ」という音が聞こえた。

 スンマヌスの口からも「ヒュッ」という音が聞こえた。

 人間には聞き取れない、コンマ数秒の超高速の神会話だ。

 姉比売がスンマヌスを訝る目で見ながら言った。

「お主………何が目的じゃ、お主の神格を高める方法はなんじゃ? それが目的で九郎に近づいたのであろう」

「オーッ、何を言っているのか。さっぱりわかりまセーン………わたしは九郎さんとお近づきの〝お尻合い〟になりたいだけデース………今夜、親密を深めるために日本の伝統『闇鍋パーティー』を開きマース。あなたも参加してくだサーイ」

「ふんっ、闇だけよけいじゃ………普通の鍋なら食ってやる………ヒュッ」


 神同士の会話が終わると、スンマヌスは九郎に「わたしの引っ越し荷物は、神有月荘に届いているはずデース………それでは夕食の鍋を楽しみに」

 そう言い残して去っていった。

 いきなり、夕食に鍋と言われた九郎は首をかしげた。


 神有月荘の九郎の部屋で、スンマヌスが用意してグツグツと食材が煮込まれている鍋を、九郎と姉比売は眺めて顔をしかめる。

「さあ、どんどん食べてくださいデース! お近づきの鍋パーティー、デース」

 鍋の中は七色に色分けされていた。姉比売がスンマヌスに訊ねる。

「これはなんじゃ?」

「レインボー鍋デース、虹鍋とも言う故郷の名物伝統料理デース。トマトスープやキムチスープ、カレースープや豆乳スープ、グリーンスープで色分けしまシータ………青色と紫色を上手に出すのが難しいデース」

「また、面妖なモノを………混ぜると何色になるのじゃ」

「最後には、真っ黒なゴマ味のスープに変わりマース。いろいろな味の変化が楽しめマース」

 スンマヌスが、九郎と姉比売の小皿に不気味な鍋の具を取り分けて言った。

「とりあえず、食べてみてくださいデース」

 九郎と姉比売は、恐る恐る口に運ぶ。

「あれ? 見た目よりも悪くない………トロけたチーズが入っているせいかな?」

「ふむっ、不思議な味じゃが………確かに悪くない」

 三人は鍋パーティーを楽しんだ。


 数時間後──ほとんど空になった鍋。消灯した部屋で九郎、スンマヌス、姉比売の三人は雑魚寝する。

 深夜を過ぎたころ………夜の雷鳴が聞こえ、眠ったフリをしていたスンマヌスが目を開けて、立ち上がる。

 稲光の中、スンマヌスの姿がギリシャ神話に登場する神々のような格好に変わる。

 スンマヌスの下半身は、おぞましく蠢く触手だった。

 スンマヌスは、乳牛胸と角と牛尻尾が生えて、牛神女でヨダレを口の端から垂らして、だらしなく眠っている姉比売に近づくと、姉比売の頬をムニュとつねって眠っているのを確認する。

「ハルメヒト神が言っていたように、牛神女になると朝まで起きないデースね」


 二度目の稲妻で、スンマヌスの姿がアメーバかスライムから、触手が生えた姿に変わった。

 アニメかマンガっぽい、並んだ二本の横線目と▽〔三角形〕口のスンマヌスは九郎に近づいて寝顔を観察しながら呟いた。


「それでは、九郎くんを使って。わたしの神格を上昇させますデース………その前に、念のために」

 スンマヌスは、九郎の鼻先に香水のようなモノを吹きつける。

「『ヒュプヌス花』の眠り香水デース、これで朝まで九郎くんは、ぐっすりデース………それでは、はじめますデース」

 触手が眠る九郎に向かって伸びる、九郎の顔が上気して桜色に紅潮する、無意識に腰を浮かせた九郎の口から「うッ」という声が漏れて、高揚した表情に変わった九郎を見てスンマヌスが言った。

「まだまだ、序の口デース………たっぷりと【夜の雷光神】スンマヌスの超絶テクニックで、気持ちよくさせてあげマース! 何回も意識が吹っ飛ぶほどの強烈な快感を九郎くんに、朝まで与え続ければ。わたしの神格は上昇して………はっ!?」

 スンマヌスは、背後に気配を感じて振り返る。

 そこに寝ぼけ眼で立つ、歪世野姉比売の姿があった。

 寝ぼけた姉比売は、回転蹴りでスンマヌスを吹っ飛ばす。

「ぐげぇぇぇ!?」

 ベチャ。

 吹っ飛ばされたスンマヌスは、そのまま壁に激突して意識を失った。

 スンマヌスを、ふっ飛ばした姉比売も、パタンと倒れそのまま寝た。


 翌朝、目覚めた姉比売が大きく伸びをする。

「ふぁ~っ、よく寝たのぅ」

 姉比売は寝癖頭をポリポリ掻きながら、部屋を見回して呟く。

「特に何も無かったようじゃのぅ………あの壁に張りついているのが、スンなんとかの神正体か。だらしない姿じゃのう……寝相も悪い」

 姉比売は、少し頬が赤い九郎の寝顔を眺めながら。

「それにしても、スンなんとかの九郎を利用した神格を高める方法がどんな方法なのか? まったく、わからんのう」

 そう言ってから、姉比売は二度寝をした


神3~おわり~


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