第3話 堕ちる、媚薬

「―!!……なに、これ…」


 気づいたときには、自由を奪われていた。

 だが、何か物理的に拘束されたわけではなくて。


―…身体が…


 とにかく、だるい。

 全身倦怠感、とでもいうような重さで、何より。


―……熱い…


 酷い風邪でも引いて熱に浮かされたかのように、体が火照っているのを感じた。


―何故…


「―気が付きましたか?ああ、下手に動かない方がいいですよ?…と言っても、今のあなたはそんなに自由は利かないと思うんですけど、ね」


 意味深な言い回しと、見透かしたような、不敵で、冷たい微笑みに、戦慄が走った。


「…あたしの体に、いったい、何を、したの…?!」


「…僕なりの、愛情表現、とでも言えばいいでしょうか?」


 と言いながら、彼は懐から、何かを取り出して、あたしの目の前にに突き付けた。


「…これ、は…?」


 時折遠のきそうになる意識を何とかたぐりよせ、その、小瓶らしきものに書かれた文字を読み取ろうと試みる。


「…D…e、f……r…?」


「“Defender”―この名前を聞くのは初めてですか??…そうですか。あなたを、悪い虫たちから守るための…お守りのようなものです。小柄なあなたには、少し効き目が強すぎたみたいですが…。今の私には、これしか持ち合わせがありませんので…まぁ、慣れれば、むしろ心地よくなっていくと思いますよ?この、気だるさも、熱も…ね?」


―…嘘だ。


 あたしは直感した。

 この人も、彼らも、また、あたしを騙そうとしている。


「―あなたさえ良ければ、その体を少しばかり、開発させて欲しいのですけれど…そうすれば、この“お守り”も、あなたにとって至上のパートナーになってくれると思いますよ」


 あたしの疑念を察した彼は、そう、付け加えた。


 そうだ。結局は、そういうことなのだ。


 すべては、彼らの、思惑通りに、嵌められたのだ。


 かつての彼の時のように…。


「……」


「ああ、忘れていましたが、先ほど貴方の弱みに付け込んで、悪事を働こうと狙っていた輩は、既に対処しておきましたのですが―」


「……じゃあ、何故まだ…」


「最後の仕上げが、終わっていませんので」


「…仕上げ?」


 嫌な予感がした。


「まだ、油断は出来ませんからね。念のため、あなたの弱いところを、調べさせて頂きます。ああ、そんなに時間は取らせませんから。但し、この状態のまま、もうしばらくだけ、辛抱してもらえますか?」


「…嫌、と言ったら?」


 すると彼は、なぜかとても嬉しそうに微笑みながら、こう言ってのけた。


「―今のあなたは、私に抵抗できる力は、残っていないでしょう?」


 その瞳は冷たく、私を捉えると。


「―…!!」


 無防備で無抵抗な私の体を隅々までを、容赦なく、這い回り始めた。


「……やっ…!!嫌っ…!!」


「ああ、ここが、あなたの弱いところなんですね…ふふふ。では、この辺りは、どうでしょうか??」


―…熱い…、…やめて、お願い……これ以上は、もう……


 熱に逆らえなくなって、意識を手放して。



 きっと、堕ちてしまう、から。





 まだ、あの人の面影を、奥深くに、抱いたまま……。



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