第16話 好きという正直な気持ちはどこまでも連なって、冬なのに、雨の中でもあったかい……?

 (未咲語り)

 うみちゃんとロコちゃんがくっついた経緯はこう。


 まずロコちゃんが何気ないところでつまずいて転び、それを気遣ったうみちゃんが直後、トイレに行きたいと言いだす。

 そのときに相当我慢が効かなかったらしく、両手できゅっと股のところをおさえたという。

 それがこのときのロコちゃんにとって、とてもいとおしく思えたらしい。


 ロコ「(ふだんはあんなに狼さんなうみちゃんが……♫)」


 そこのギャップに萌えたらしい。単純な話。

 それをきっかけに、これまであった楽しいことから苦しかった思い出まで、とにかくいろいろな思いが頂点に達してしまったらしいロコちゃんは、少し大胆な行動に出る。


 ロコ「うみちゃん……っ!」

 うみ「おうなんだ……って、えええええええっ?!」

 ロコ「はぁはぁはぁっ……あのね、わたし、もうどうなっても、いいかも、って……」


 そう言ってはくねくねと踊りだし、きゅるんとした目をうみちゃんに投げかけている。


 うみ「なに言ってんだよ、スカートおろせって! もしかしてお前、我慢できないのか?!」

 ロコ「そう……んっ、だからね……いっそのことうみちゃんに見てもらおうかなって……」

 うみ「こんなところでやめとけって、お前! ほら、さっきの人も振り返っちまったし……」

 ロコ「だって、急にしたくなっちゃったんだもん……!」

 うみ「いや、たとえそうだとしてもだな……」

 ロコ「あのねうみちゃん、聞いて! わたしね、ずっとうみちゃんのことが大好きだったの……」

 うみ「え、え〜〜〜っ?!」

 ロコ「ひと目見たときから、わたしにはこの子しかいないんだって気づいちゃって……」

 うみ「お、おう、そうか……ははっ、ははははっ!」 

 ロコ「も〜

、笑わないでようみちゃん……」

 うみ「なーんだ、そういうことか! そういうことだと思ったよ!」

 ロコ「うんっ。だからね……んんっ!!」


 照れたと思ったら、ひときわぶるりと大きく震えて、それでもまだおもらししないように耐えているロコちゃん。


 ロコ「わたしのおしっこ、見てくれるよね?」


 そう言ってひと呼吸おいて準備が整ったあと、ぷしゅい〜っと激しい音をさせながらロコちゃんは気持ち良さそうな顔をしたらしい。


 ロコ「はぁぁぁっ、んんんっ……」


 それを見ているうみちゃんはというと、自分がしたいこともあってか相当どぎまぎしていたらしい。


 うみ「な、なぁ……そろそろ終わらないのか?」

 ロコ「だめ……ぜんぜん止まらない……」

 うみ「そっかー……(おいおいおいおい……これ、どうすりゃいいんだよ……!)」


 うみちゃんのもじもじは、ロコちゃんのときに比べてもかなり強くなっていた。限界が近そう。


 うみ「あぁぁっもう、あたしもトイレいきたいんだよぉっ! お願いだからやめてくれ! そんな気持ち良さそうな音聞かせないでくれってばぁっ! うっ、うぅっ……」


 その涙に呼応するかのように、穴は痙攣し太ももからも透明な液体がつーっとうっすら流れてくる。


 うみ「おしっこ、トイレ行きたい……なんでみっともなくロコみたくあたしも漏らさないといけないんだよっ……」


 またさらに我慢が効かなくなり、今度はちびった程度じゃ済まなくなるくらいにまで下着を汚す。


 うみ「うぁ……なんじゃこりゃぁ……」


 さすがにやっちまったと思ったうみちゃんは少々はしたないと思いながら濡れた部分に手を伸ばす。


 うみ「もう、限界が近そう……」


 一歩でも動いたら、中にためているものが全部出てしまう。そう悟ったらしい。


 うみ「ロコ、あんがとよ……おかげであたしも、ここまで自分を捨てることができたぜ……」

 ロコ「えっ……もしかしてうみちゃんも、もう限界なの?」

 うみ「あぁ……でも心配すんな。もうじき雨が降る。そいつが全部洗い流してくれるさ」

 ロコ「そういう問題じゃない気がする……でも確かに、わたしもこのままじゃ恥ずかしいよぉ……」

 うみ「だから言ってんだよ、これからのあたしたちのことをどこまでも考えてくれている天気を。いまはちょっとアレだけど、そのうちみんな気にしなくなるさ」

 ロコ「そ、そうだといいけど……」

 うみ「さみしい思いばっかさせてごめんな……なぁロコ、いま一度、抱きしめてもいいか?」

 ロコ「うん。あっ、あとできれば、うみちゃんのおしっこ、わたしの脚にかけて?♡」

 うみ「わかったよ」


 ぎゅっと抱きしめて、うみちゃんは果てた。


 うみ「おしっこって、こんなにもあったかいんだな……」

 ロコ「わたしにもちゃんと伝わってるよ……うみちゃんの心臓の音もしっかり聞こえてる……」


 うみちゃんのおしっこを受けて、ロコちゃんもたまらずまだ残っていたぶんを放出しきったという。


 うみ「ふふっ、気持ち良さそうな顔してるな」

 ロコ「も、もぅ……からかわないでよぉ……」

 うみ「ははっ、まぁあたしもそうなんだけど」


 そう言っては勢いを強め、追い打ちをかける。


 ロコ「だめっうみちゃんっ……そんなにおしっこかけちゃだめぇっ……」


 脚にかけられているうちに、ロコちゃんのなかでなにかが変わっていったらしい。


 ロコ「はぁはぁ……いっちゃう……みんながいるところでわたし、うみちゃんにおしっこかけられて、わたしも一緒におしっこしながらいっちゃうよぉっ……」


 その宣言どおり、ロコちゃんはかるく絶頂した。

 勢いが強まったのか、あるいは潮だったのかはわからないけれど、とにかく何か出たらしく。


 うみ「おっと、あたしにもかけてくれよ。ひとりだけずるいぞ」


 そう言って、うみちゃんも脚にかけてもらおうとする。

 これはおしっこで結ばれた愛。いわばおしっこ愛だ。

 ともすればこれが終わったあと、それのようにほんとに急速に冷めていくことがあるかもしれない。

 それでもいいのかもしれない。

 わたしたちはおしっこで互いを完全に理解し、そして離れていく。

 いつかあの頃は、とんだくだらないことで盛り上がってたなんて話しあったりもするのだろう。

 それでいい。むしろそのほうが、適切な距離を保てそうな気さえしてしまう。

 そう、わたしたちはおしっこメイト。誰にもじゃまされないこの瞬間が、ずっと続きますように――


 未咲「ねぇ、あのふたりって……」

 玲香「間違いないわね。行きましょう」


 突撃と言わんばかりに、件のふたりに急接近。

 野次馬のような真似をしたくなかったけど、街なかで偶然見かけたのだから仕方がない。


 未咲「いやー、おみごと! わたし感動しちゃったよー」

 玲香「涙いってきも垂れてないんだけど」


 その声に気づいたふたりが、素っ頓狂な返事をする。


 うみ「はっ?!」

 ロコ「えっ?! ふたりとも、いつからいたの……?」 


 問いかけには答えず、未咲が続ける。


 未咲「こほん。まぁ仕方ないよね、なんてったってここは、いつまでたっても冬なんだもん」

 玲香「それを言い訳かのように使うの、最近わたし好きじゃなくなったのよね……」


 そう言って、誰よりも大きく震え上がる玲香ちゃん。つられてしたくなっちゃったのかな……?


 玲香「冗談じゃないわよ、こんな寒空でずっと野次馬みたいなこと……」

 未咲「『みたい』っていうか、ほとんどそうだよね……」


 鼻水が垂れそうになってるわたしの幼馴染。体勢もだんだん怪しくなっていく。


 未咲「ふたりに感化されて、わたし決めました!」

 三人「?」

 未咲「れいかちゃんっ」

 玲香「?」

 未咲「すき。大すき」

 ロコ「〜〜〜〜〜〜?!」

 うみ「お、おい、マジかよ……こんなところで……」


 たちまち、世界が歓喜に湧く。

 街ゆく人々は足を止め、祝福ムードに包まれる。


 この頃すでに雨が降りはじめていて、足もとにあるものがもうなんなのかわからなくなっていた。


 未咲「えっと……公に言ったのはこれがはじめて、だっけ?」

 うみ「いやいやおおやけすぎんだろ……恥とかさ、そういうもんがないのか、お前には……」

 ロコ「すごいよ未咲ちゃん……わたし、ここで声を出すことすらせいいっぱいだったのに……」

 うみ「ちなみにお前の告白も、ちゃーんとみんなに聞こえてたからな」

 ロコ「えっ?! そうなんですか、皆さん……?」


 静かにうなずく聴衆。


 うみ「おもらししてたところもばっちり……」

 ロコ「も、もぅ! 皆さん忘れてください!」


 あたたかな笑いに包まれる。オーガズムに達してしまったことに関しては、さすがに良心がはたらいて誰も言わなかった。


 うみ「まぁそれを言ったらあたしもだけどな……おっと、そろそろ例のふたりが……」


 快い玲香の返事を聞きたいところ。さてどうか。


 玲香「こ、こんなところで言えるわけないでしょっ(もじもじ)」

 未咲「あーっ、はぐらかしたー! 皆さん、聞きましたか?! わたし、きっと生涯孤独だよー!」

 玲香「ち、ちがうのよっ……お……」

 未咲「お?」

 玲香「おしっ……」

 未咲「おし? 何なに? よく聞こえないなぁ」

 玲香「わ、わかってるくせに、わざとらしい反応やめなさいっ……んひっ……」


 あきらかにヘンな声が聞こえて、ここにいる全員がすべてを悟った。あぁ、この子、そう長くはもたないな、と。


 玲香「いいからそこどきなさいよ……さもないと痛い目にあうわよっ……」

 未咲「うんっ。だーいすきな玲香ちゃんにだったらわたし、何されてもいいかなーって」

 玲香「そういうのほんといいから……あぁっ」


 その叫び声によって、完全に黄色信号からその色を変えてしまった。


 玲香「どうしよう……我慢できない……」


 しゅぅ〜〜〜っ。こんなところでは本来聞こえてはいけない音が、まわりの人全員の耳に届く。


 男の子「ママー、おねーちゃんどうかしたの?」

 母親「しっ、見ちゃいけません」


 静かにするように男の子のお母さんがそう言っているのを聞き、ついにわたしがしてしまったことの重大さに気づく。


 玲香「うぅ、なんで止まらないのよ……」


 現実逃避にも思えるそのことばから、わたしはあきらめ以外の感情はなにも読み取れない。

 でもきっと玲香ちゃんの頭の中は、いまごろぐちゃぐちゃになっているに違いないよね。


 玲香「なんでこんなところで……わたし、どこまでもついてない……」


 そう思ってしまう玲香ちゃんの思考回路もわからなくはない。だけどここは、あたたかい解釈をしたいところかな。


 未咲「大丈夫、わたしもおもらしするから……」


 そう言っては仁王立ちになる未咲。準備は万端といったところ。


 未咲「ひとりじゃないよ。これからもよろしくね、玲香ちゃん……」


 そう言って未咲は、なんのためらいもなく乙女の水門をひらく。


 未咲「ほら、わたしも我慢できなかったよ……これでいいよね、玲香ちゃん……?」

 玲香「いいも何もねぇ……あのね、わたし、さっきすごく恥かいたのよ?! ねぇ、本当にわかってるの、あんた?! あんたがそこどかなかったから、わたし、わたし……」


 本当はたぶん、どいてもどかなくても結果は同じだったんだろうけど。


 未咲「あぁ、泣いちゃだめだめ。これでおあいこなんだから……」

 玲香「おあいこ、ってねぇ……」

 未咲「ねぇわかる? 玲香ちゃん。このときのためにね、さっきトロピカルなマンゴーを……」

 玲香「いまのちょっと余計だったわね……そこは言わないほうが、わたしは好きだったんだけど……っていうかいつの間に?! わたしが見えてなかっただけ?! みんな見えてたの?!」

 未咲「そうみたい。ねぇ、みんなそうだよね?」


 ちょうどいま未咲の手を見てみると、カップにおさまったマンゴーのかけらが見える。

 とっさにしては不自然だし……本当にそうだったのかも。


 未咲「わたしはこれで気分をたかめました! えっへん!」

 玲香「そんなあぶない薬みたいに……」

 未咲「だって、ほんとにそうだったったもん!」

 玲香「わかったから、ひとまず退散するわよ!」

 うみ「皆さん、お騒がせしました!」

 ロコ「あぁん、待ってよみんな〜!」


 ロコだけ排泄が完全に終わっておらず、はしたない格好でうみに抱えられるかたちで一幕を閉じた。


 ♦


 場所を変えて、未咲がまたとんでもないことを口走る。


 未咲「玲香ちゃん、おもらししてもいい?」

 玲香「ダメよ、あんたは家まで我慢して!」

 未咲「えぇ〜、だってぇ〜……」

 玲香「だっても何もない! ほら歩いて!」

 未咲「くぅ〜ん……」


 犬みたいにすねる未咲も正直悪くはなかったけど、ここは心を鬼にした。


 未咲「ほんとにがまんできないのに……」


 そう言ってガチめにもじもじしだす未咲。気づけば太ももは、汗以外のなにかに濡れているような……?


 未咲「ほら、見て……」


 未咲のクロッチはもうすでにあきらかに濡れているけど、それに輪をかけたようにまたさらに濡れている。


 玲香「えぇ……」

 未咲「だから言ってるのにー……」


 呼吸はみだれて、いまここでおしっこするかしないかの瀬戸際に立たされている、なんとも情けないわたしの幼馴染。


 玲香「じゃあもう、ここでしていきなさい。漏れちゃいそうなんでしょ?」

 未咲「うんっ。じゃあお言葉に甘えて……」


 外気に無防備にさらされる未咲のだいじなところ。まじまじと見たのはいつぶりだろう……。


 未咲「あっ、でちゃう……」


 小さく噴き出したかと思えば、そこから先はわたしでも見たことあるかどうかわからないくらいの量がどっとあふれて、そこまでしたかったのならもっと早く言ってくれればよかったのにという気持ちにさせてくれる。


 未咲「もうここまできたら、いっそパンツはいたままでもいい気がしてきた……」


 パンツを履きなおし、濡れ感を楽しむ。未咲くらいしかできないんじゃないか。あと春泉。


 未咲「春泉ちゃん、どっかで見ててくれてないかなぁ……」


 言ってるそばから本人の名前。いますぐにでも出てきてしまいそうだ。さながら幽霊のように。


 春泉「ほぇ? いま、ハルミのこと呼んだ?」

 未咲「……やっぱりだめ! いまわたし、死んじゃうくらい恥ずかしいことしてるよぉっ!!」

 玲香「こんなことってあるのかしら……」


 なお止まることはなく、うみとロコのふたりは笑っていた。笑うところかどうかはさておいて。


 ロコ「んっ、またおしっこしたくなってきちゃったかも……」

 うみ「よし、続きはまたあの公園でな。間に合わなかったってことにしとけば大丈夫だろ」

 ロコ「うんっ、そうだね、はやくいこっ」


 我慢できないのは周知の事実だし、多少大目に見てくれるだろう。そう思っていた。


 ♦


 あたしたちが公園につくと、突然見知らぬ男性が声をかけてきた。


 男性「さっきのふたりだね。こんなところで何してるのかな?」

 うみ「えっと、それは……」

 ロコ「お、おしっこですっ」

 うみ「おっ、おいロコ……」


 正確にはまだする前だけど。


 男性「ふーん……だけどここは公園だよ。そこにトイレがあるのに、まさかここでしようってわけじゃないだろうね?」

 うみ「そんなの当然……」

 ロコ「やっ……もう、でちゃうっ……」


 ちょろろろっ……しぃぃぃっ……


 男性「だめじゃないか、こんなところで。あのさ、さっきのことで僕は完全に目覚めちゃったんだよ。これ、どうしてくれるんだい?」


 そう言う男性は、みずからの生殖器を指さす。出さなかったからまだよかったものの、一歩間違えれば完全に変態だ。


 うみ「おいやめろ! ロコに手ぇ出したらただじゃおかねぇ!」

 男性「まだ何も言ってないのにひどい扱いだね。まぁいいや、ぼくはただひとつお願いがあってここに来たんだよ」

 うみ「……なんだ、言ってみろ!」

 男性「君もちょっと、ここでやってはくれないか?」

 うみ「ふざけるな! 誰がこんなところで……」

 男性「そう強がってはいるみたいだけど、下半身のほうはすごく頼りなさそうに見えるけどなぁ」

 うみ「は? どこがだよ?」

 男性「またまたぁ。ほんとはもうぜんぜん我慢できなかったりして♪」

 うみ「んなわけねぇだろ……んぅっ?!」


 鈍痛のようなものが、あたしの下腹部を襲う。

 おそらくこれはいけないものがたまりすぎていて、行き場を失っているからだと思う。


 男性「出しちゃえばラクなのにさ……ヘンに我慢したりするからそうなるんだよっ」

 うみ「やめろ触るな! セクハラで訴えるぞ!」

 男性「なに、ちょっと気を送っただけだよ。これでちょっとは考えなおすことだろうよ」

 うみ「意味わかんねぇ……どのみち変態じゃねぇか!!」

 男性「では、健闘を祈るよ。無事たどり着けばいいけど。くくっ、くくくっ……!」

 うみ「くはっ……もうだめだぁ……」


 ほんとはわかっている。こいつは何もしていない。ただこの季節を利用してあたしを脅しただけ。

 それでもあたしはなんか許せなくて、ひとり鬱屈とした気持ちを抱え続けていた。尿意とともに。


 うみ「ロコ……早くきてくれ……」


 恥ずかしくなって、そう遠くはないところに行っちまったロコに迎えに来るよう念を送る。


 ロコ「うぅっ……もう、立ち直れないよぉ……」


 悲しみにくれるロコ。そんなのいいから、早く……!


 うみ「あぁぁっ」


 しょろっ。こうしてる間にも、あいつはどこかで見てるんだろうな……。


 うみ「どうすりゃいいんだよっ……」


 あきらめるしかない――そう思っていた矢先。


 未咲「うみちゃん!」

 玲香「やっぱり心配になって迎えに来たんだけど……その、大丈夫かしら?」


 何か見てはいけないものを見ているかのような視線。玲香自身はなんも悪くはない。むしろ悪いのはあたしだ。


 玲香「状況はだいたいわかったわ。いい? これから黙ってわたしの言うことを聞くこと」

 うみ「言われなくても聞くってのっ……」

 玲香「わたしはあんたをおんぶする。あんたはおとなしく我慢する。それだけ。できるわよね?」

 うみ「わかったから、早くしてくれっ……」


 押さえている手が真っ赤になっている。相当我慢してきたんだろう。


 玲香「くれぐれも! わたしの背中でしないように。いいわね?」

 うみ「んなこたぁわかってんだよ、早くしてくれ!」


 うだうだ言ってるうみちゃんを見ることしかできないわたしは、ひたすら間に合うよういのった。


 うみ「おい、ちょっと出たぞ! どうしてくれるんだよ、これ!」

 玲香「知らないわよ、いいから黙って我慢して!」


 迎えに来てくれた相手は違ったけど、なんとかこれで……。


 男性「おやおや、ずいぶん楽しそうだねぇ」

 玲香「……誰よあんた」

 うみ「こんなやつほっといて、早く……っ」


 もう、本当に限界といわんばかりの声だった。


 うみ「うぁぁぁっ……ごめん玲香、ほんとごめん……あたし、もうほんとにだめで……」

 玲香「いいから」

 うみ「なぁ分かんだろ? お前の背中、いますごく……」

 玲香「……言わなくていいから!」


 そのまま走ってトイレに到着!


 玲香「はい、あとは自分で……」

 うみ「無理だって……ほんとに限界なんだから……」

 玲香「あのねぇ、わたしがどれだけの思いでここまで運んできたと思って……!」

 うみ「わかってるけど、もぅほんとにだめなんだってばっ……」


 そう言って、下半身からあらぬ音をさせるうみ。


 うみ「ごめん玲香、もう、ほんとにだめ……」

 玲香「……」


 結局こうなるのか……そう思わずにいられない。


 うみ「ここまで運んでくれてありがとう、玲香……だけどあたし、やっぱこのままだとあいつの思うつぼになっちまう……」

 玲香「……」


 そう言う暇があるなら――そう思わないこともないけど、だったらここはわたしが……。


 うみ「いや、もういいんだ。全部あいつが仕組んだ罠だよ。あたしのこれまでの行いが悪くて、それがいま、こういうかたちで出てきてるだけで」

 玲香「……」


 そう言われると、もうかけることばは無くなる。ひたすらそのときを待つのみだった。


 うみ「ロコを好きになったのも、何かの間違いだったんだろうなぁ……」


 そう言って脱力。言うまでもなく、我慢してたものはいとも簡単にあふれ出す。


 うみ「はぁ、気持ちいい……なぁ玲香、お前も一緒に――」

 玲香「わたしは遠慮するわ。未咲との件で、きょうはもううんざりだから」

 うみ「そっか。はぁ、すっきりした……」


 くやしいかな、笑顔になる。あいつがどう思っていようが関係ない。あたしはあたしだ。いまやったことがすべてだし、後悔なんてしてない。なるべくしてなったものだから。


 うみ「さすがにロコには見せられないけど……」

 玲香「ほんと。卒倒してたでしょうね、もしあの子が見てたら」


 誇張かもしれないけど、玲香はそう思ったらしい。


 うみ「いろいろごめんな、玲香」

 玲香「(小声)あんたのおしっこ、けっこうあったかかったわね……」

 うみ「ん? なんか言ったか?」

 玲香「なんでもないわ。さ、行きましょ」

 うみ「お、おぅ……」


 なんかそれ以上触れてはいけない気がして、あたしは情けない姿になりながらロコんとこに戻る。


 うみ「てなわけでこんな感じになりました……」

 ロコ「う、うみちゃん?! それはえっちすぎるよぉ……ぷしゅ〜……」

 うみ「ロコ?! おい、ロコ! しっかりしろ!!」

 未咲「これで一件落着、だねー」

 玲香「ほんとにそれでいいのかしら……」


 はぁ、と溜め息をつきつつ、それでもなんとか丸く収まったような気がしたわたしだった。

 ちなみにあの男は警察に呼び止められ、事情を訊かれているのだった。

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