第3話 お父さんと

 昼休み。五人でなかよく食事しながらお話してたときのこと。


 ロコ「あのね、みんな聞いて……」

 四人「?」


 それぞれの視線がロコに集まる。


 ロコ「わたしね、お父さんとえっちしようとしたことがあるの……」

 玲香「ぶーっ」


 口にお茶を含んでいた玲香ちゃんが噴き出す。


 未咲「わわっ、きたないよ玲香ちゃん!」

 玲香「ごめんなさい、つい驚いちゃって……」

 ロコ「小さい頃だったんだけど、あのときはほんとになにもわかってなくて……お父さんのことが好きだったらえっちくらいするよねって軽い気持ちで考えてて……」


 一度は取り乱した玲香ちゃんだったけど、話はしっかり聞いているっぽい。


 ロコ「――ある日、思いきってお父さんに告白したの」


 少しの沈黙のあとに、続けてこう言った。


 ロコ「当時はパパって呼んでたんだけど、パパのことが好きな気持ちが昂ぶってるこの勢いでいけるかなって思ったわたしは……えっとね……ちょっとここで言うのは恥ずかしいけど……」


 息を呑む未咲。


 ロコ「勇気を出して、裸になったの……」


 なにひとつ生えていない、まっさらな身体。これをあろうことか実の父親に捧げようとしたのだ。


 ロコ「いましかない、って思うと、どんどん前のめりになっちゃって、お父さんをすごくびっくりさせちゃったの。こんなことあっていいはずないのに、わたし、ほんとにどうかしてて……」


 泣きじゃくるロコ。


 ロコ「もう誰でもいいや、って思って、次はお母さんにお願いしようとしたら、今度こそ大問題になって……家族会議どころか、学校の先生まで駆けつける事態になっちゃって……」


 ぼろぼろと涙を流す。


 ロコ「しばらくその気持ちが落ち着かなくて、やっぱりまたお父さんにお願いしようとしたら、今度はすごく睨まれて……あぁ、わたし、完全にお父さんに嫌われちゃったんだ、って……」


 止まることはない。


 ロコ「もうどうしていいかわからなくなって、わたしのそばにおいてあったぬいぐるみのシュパーくんをわたしのたいせつなところにはさんでこすり続けてたら、なんかこみ上げてきちゃって、気づいたらいっぱいおもらししてて……」


 気持ちがおさまってきたのか、話し方がもとに戻っている。


 ロコ「あれがずっと覚えてていい思い出かどうか、未だに判断がつかないの……」

 四人「……」


 すごい話を聞いた顔をするしかない四人。

 ロコのむかしの話には、ときどき驚かされる。


 未咲「へ、へぇ、それはさすがにわたしは経験してないなぁ……」


 未咲が引くくらいにはすごい。それは言えそう。


 玲香「それで、ご両親とは仲直りできたの?」

 ロコ「うん……でね、あのときのこと、ちゃんと覚えておこうと思って……」


 がさごそと鞄から取り出したのは、子ども用のパンツ。


 ロコ「しみがついてるけど、気にしないで……むしろ、これがたいせつではあるんだけど……」


 言ってて、どんどん声が小さくなるロコ。


 ロコ「気持ちが先走っちゃって、ついやっちゃってたみたいで……」


 かなり大きい。相当こらえきれなかったんだろう。


 ロコ「うぅ……おトイレ行きたい……」


 あの頃を思い出してか、そんなことを言い出すロコ。


 玲香「行ってきなさいよ」

 未咲「そ、そうだよ! あまり湿っぽい感じになりたくないし! ね?」

 春泉「は、ハルミも行っていい?」

 玲香「なんであんたまでもよおしてんのよ」

 春泉「なんでも……っ、あぁっ、ほんとに早くいかないともっちゃう〜〜〜っ!」


 とても苦しそうにトイレに向かう彼女をよそに、ひとり動かないロコ。


 ロコ「はぅぅどうしよう、もうでちゃう……」


 くねくねとおしりと太ももを動かして、それでも耐えようとするロコ。

 しかし、それも完全に無駄な努力に終わる。


 ロコ「みんな、のこと嫌いにならないでぇ……」


 脱力し、さとったような音が聞こえる。

 しゅぅぅぅとか、しゅぃぃぃとか聞き取るのはそれぞれの自由。

 いずれにしても、湿っぽさは変わらないのだから。


 自分のことを名前でいうなんて、何年ぶりだろう。

 自分でもびっくりして、しゃくりあげてしまう。


 ロコ「ひっく」


 いまの自分は、とても情けないと思う。

 あの頃に比べて、自分はどれだけ変われたのかな……。


 ロコ「しちゃった、からには……全部、出しちゃわないと……っ」


 勢いが増し、湿っぽさもさっきより多くなる。

 時雨ではないけれど、さながらそんな感じもする。例えになっているかどうかわからないけど。


 女の子としてとても屈辱的な湖が出来上がった。

 誰も入ってこないでほしい――その思いはすぐに壊される。


 未咲「ロコちゃんのおもらし、すごくかわいい」

 ロコ「えっ……?」

 未咲「だって、わたしがしたらたまに玲香ちゃんに引かれることあるし……」

 ロコ「それは未咲ちゃんのもすごいからだよ……こんなこと、やっぱりちょっとおかしいもん……」


 引き続き、水音が続く。

 この感じにずっと浸っていたいと思ったふたりだったが、彼女がそうはさせなかった。


 うみ「おーいふたりとも、そろそろ先生来るからそのへんなんとかしろー」

 未咲「はーい!」

 ロコ「うみちゃんに言われなくてもするのに……」


 ちょっとふてくされながらもしっかり掃除して、そのまま問題なく授業を受けられた。

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