第2話 かつてのバンド仲間との再会、そして未咲と外食

 ある日、街中を歩いていたわたしは、見覚えのある顔を認識した。


 玲香「めぐみ……」


 そう、その顔は、かつてわたしと組んでいたバンドの仲間のもの。名前は今泉めぐみ。

 酒がらみの件における、いわば主犯格だ。こいつのせいで、すべてがめちゃくちゃになった。


 めぐみ「あっ、玲香じゃん! 元気してた〜?」


 まるでなんともなかったかのような喋り口。このあっけらかんさ……見習いたくもない。


 玲香「……」

 めぐみ「そんな黙んなくてもいいのに〜」

 玲香「こんなところで何してんのよ」

 めぐみ「ただの買い物。そっちは?」

 玲香「……」


 また口を閉ざすわたし。さすがに嫌気がさしてきて、そこから立ち去ろうとする。


 めぐみ「無視してんじゃねぇよ!」

 玲香「……!」


 つい頭に血が上りそうになった。しかしここはクールたりたいところ。なんとかわたしはその思いを鎮めることに成功した。


 めぐみ「まぁいいや。なんかあったらまた連絡してよ。これ、アカウント名ね」


 imameg_star1029 とだけ書かれた紙が渡される。連絡なんてするはずもないのに。


 玲香「――ざっけんな!」


 彼女が立ち去ったあと、感情にまかせてその紙を丸めて捨ててしまった。


 玲香「これで、いいのよ……もう、あの子さえいれば……」


 それは、これから会いに行く、もうひとりの仲間のことをさしていた。


 ♦


 この日は未咲とファミレスで食事をすることになっていた。


 未咲「れいかちゃんおっそ〜い! もう待ちくたびれて、いちごフレーバーの紅茶三杯いただいちゃったよ?」

 玲香「ごめん……ちょっと、行く途中でいろいろあったのよ」


 わたしにはなんとなく透けて見えた。このとき、未咲がなにかをこらえていることに。


 未咲「あっ、わたしトイレ行ってくるね」

 玲香「待ちなさい」

 未咲「えっ、どうしたの玲香ちゃん……その目、すっごく怖いんだけど……」


 鋭い眼光は、まるで獲物を逃さない獣のようだった。


 玲香「ここでしていきなさい」

 未咲「な、何言ってるのかなぁ玲香ちゃん……いくらなんでもこんなところでなんて……」

 玲香「いいから早く」

 未咲「んもぅ、れいかちゃんのえっち……ほんとに我慢できないから行くよ? おもらしならあとでいくらでも見せてあげるから……」


 そう言って、未咲にあっけなく退席されてしまった。


 玲香「わたしって、じつは誰からも好かれてないのかな……」


 独りごちても、答えなんて出なかった。

 なにもかも冬のせいにしてしまいたい。そんなことすら思ってしまう。


 ♦


 外を見てみると、雪がちらつきはじめていた。さながらすべてのかなしみをやさしく冷やすように。


 玲香「もうきっと、全部終わったのね……」


 そう言って、脱力しようとする。


 玲香「……!」


 いま、自分のしかけていることに気がついて、すんでのところで止められた。


 玲香「いま、わたし、何をしようとして……」


 うつろな目になりながら、正気を保とうとする。


 玲香「だめだめ……さっき、未咲にとんでもないこと言った気がするし……」


 思い出して、ひとり赤面した。


 玲香「わたしも行っておこう……」


 人を弄んでいる場合ではなかった。じつは自分のほうが大変だったというのに。


 ♦


 未咲「ねぇねぇ玲香ちゃん、さっきなんて言ったっけ? ここでしたげよっか?」

 玲香「馬鹿言わないで頂戴。いろんな意味でもうお腹いっぱいなのよ……」

 未咲「え〜?」


 いつもクールな玲香ちゃんの表情が少し曇っていたことは、さすがのわたしでもわかった。


 未咲「にぱーって笑ったら、きっと悩みも吹き飛ぶかもよ?」

 玲香「それができたら苦労はしないわ」

 未咲「なにかわたしにできることがあったら、いつでも言ってね? わたし、いつまでも玲香ちゃんの味方だからねっ」

 玲香「ありがたく頂いておくわ、そのことば」

 未咲「えへへ〜」


 正直、この幼馴染にいまさら何を相談していいかわからない。

 もう長年付き添っていて、お互いのことなんて何でもわかりそうなものなのに。


 未咲「(じつはさっきあわててて、ちょっとやっちゃったんだよね……)」


 そのことについては、言わなかった。

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